第5話 暗い洞窟の中で

 欲望をぶちまけてスッキリした俺は、ダンジョンから少し離れた場所で街中で過ごすいつもの盗賊姿に戻った。

 もうあたりは夜になっていて、人通りもまばらになっている。

 俺は足早に宿に戻り、さっさと寝ることにした。


 次の日、いつものように昼過ぎに目を覚ました俺は所属するギルドに盗賊として姿を現すことにした。

 この町は人口が2万人を少し下回る程度の規模だ。

 日々、他の地域からこの町の自慢のダンジョンを目的にやってくる冒険者たちでにぎわっている。

 その一方でダンジョンで命を落とす者たちもおり、人口は2万人付近をだいたい維持している。


 このいま出てきた街外れのダンジョンはかなり古い時代から存在するらしい。

 実際、このダンジョンが存在したことで、この街ができたと言えるくらいだ。


 上層部の階層ではもう売り物になるような宝は残っていないが、少しの稼ぎになる素材は出るし、未だ人が踏み入れていない深層には価値あるアイテムが眠っているとか。

 この街に住む冒険者たちの大半は、その宝を求めてやってきたり、魔物を倒した時に入手できる魔石目当てだったり。珍しい奴らとしては自己研鑽のと正義のため湧き出る魔物を討伐しに来た者。または、ダンジョンの謎に挑戦してみる者だったりと、様々な目的を胸に抱いている。


 そんな感じで人が賑わう場所には金と楽しみも集まる。

 俺などは、単純に楽しむためにこのダンジョンの街に足を運んできたくちだ。


 異世界から転生し、成り行きでこの街に来てからそろそろ半年くらいが過ぎようとしていた…



  ◇ ◇ ◇


 …半年前、気がつくと俺は暗闇の中にいた。

 忘年会の後、急激な睡魔に襲われ道端に腰を下ろしたところまでは覚えている。

 しかし、目を覚ますとひんやりとした湿った土の上に寝転がっていた。


(たしかアスファルトだったよな)


 頭を重たく感じながら周りを見渡すと、洞窟のような場所にいることに気づいた。

 薄暗くてはっきり見えないが、俺がいたはずの繁華街の路地ではない。


(一体何が起きた?)


 寝ている間に誘拐されたのかと焦って、ポケットからスマホを取り出そうとしたが、

 身につけているものは俺が着ていた服ですらなかった。


 …遠くになにか明かりが見えた。

 暗がりに浮かぶランタンの炎が、数人の男たちを照らし出す。

 彼らは何やら話しながら、肩に大きな物を担いで近づいてきた。


 起き上がろうとしていた俺は気付かれないよう再び静かに倒れている体勢をとる。

 状況が分からないので下手に声をかけるのはやめた方がいいだろう。


 薄目を開け、男たちが通り過ぎる様子を見ていると、担いでいるのはなんと若い女性だった。

 彼女の服は引き裂かれ、ほぼ全裸に近い姿勢だ。

 体は血で汚れているようだが、この明るさでは確認しにくい。


「兄貴も激しすぎるよ、俺に回ってくる前に壊しちまうんだから…」


「しかたねぇよ、久しぶりの上物だから抑えがきかなかったんだろ」


「上物だからこそ、大事に長く楽しもうって考えはないのかねぇ」


 女性を抱えた男たちはそう話しながら、倒れている俺に気も留めず俺の背後の方向へと進んでいった。

「壊した? 上物?」話から察するに、女性はこの男たちのグループに捕まり不幸な目に遭ったらしい。

 そして、その勢いで殺され遺体が部下の手によって洞窟の外に捨てられていくところなのだろうか。


 まあ、身なりも悪くて粗暴な感じの男たちだったから、そういう趣味があっても不思議ではないが……。

(っておいおいおい、このままにしていたら俺まで見つかるだろうがよ!)


 俺は慌ててどうするべきかを考える。

 外へ逃げる?おそらく外の方向は先ほどの3人が向かっていった。

 鉢合わせでもすれば確実に殺されそうだ。


 反対に奥の方はさっきの奴らのボスがいる可能性が高い。というか確実。

 捕らえた女をあっさり殺すような奴に話が通じるとも思えない。


(やべぇ…死んだふりしたままでさっきの奴らが戻ってきた後にこっそり外に向かうか)


 と、激しく動く心臓を胸で感じながら考えていると急に目の前がすっと黒に変わった。

 先ほどの暗がりではなく完全な闇。



「だめだよー、もうちょっと積極的にやってもらわないと」

 くすくすと人をあざけるような笑い声が聞こえる。


(なんだ?また違う場所?)


 俺が動揺していると、そいつは突然目の前に現れた。

「くっくっく、君は今、自分の状況を理解できていないよね?」



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