第7話 皆殺しだ…!

 起き上がって数歩歩いたとき、俺は自分の体の異変に気付いた。

 足を1歩進ませるくらいの感覚と労力で3メートルほど移動しているようなのだ。


 そして、無警戒な男の首にまるで石鹸の泡に手を突っ込むかのような容易さで手刀を突き立てた。

 俺の手首まで埋まるほど押し刺ささったが、男は何の抵抗も示さなかった。


「ひぎゃっ」

 男は奇怪な声をあげるとそのまま崩れ落ちた。


「なん…」

 後ろを歩く男の前に横並びだった二人が振り返ろうとする瞬間、顔と顔の間に両手を突き出しそのままラジオ体操のように手を開く。

 首が2つ宙に舞った。


(すげぇ、腕力も桁違いだ!)

 俺は宙に舞った首をスローモーションで見るかのような感覚で眺めながら思った。


「…だぁ?」


 首だけになったまま先ほどのセリフをいいながら地面に落ちた。


(そうか、こいつら野党だよな?殺してもいいんだよな?)

 俺はそう考え始めると急激に楽しくなってきた。

 あんな退屈な世界で平凡な人生を送るよりもこの世界で思う存分楽しむほうが絶対にいいに決まっている。


「ぶわぁはは!いいねぇ!!!最高!」

 思わず声に出しながら俺は今の3人のボスがいるであろう洞窟の奥に向かった。


「そろそろか」

 俺は洞窟の最奥へとつながる通路の途中で身を潜め、今までのことを振り返っていた。

(最初は意味が分からなかったけど、ピエロに言われて気が付いたら俺はあいつらを殺すことに何のためらいもなくなっていた。いったいなぜなんだ?)


「まぁ、そんなことはどうでもいいか」と俺がつぶやいた瞬間だった。


 ボッッ……!!


(あっぶねぇ!)

 洞窟の奥の方から火の玉が飛んできたのだ。俺はすかさず体を伏せる。

(魔法!?この世界にはそっちもあるのかよ!)


 異世界転生物をよく読んだことのある俺だが、いろいろタイプがある。

 ここはどうもファンタジー系の異世界らしい。


 洞窟の奥の少し広くなった空間に男が2人いた。

 一人は半裸のガタイがいいマッチョ。

 もう一人はローブに身を包んだ男。こいつがさっきの魔法を使ったのだろう。


「おい!外はどうなってんだ!」

 ガタイのいいマッチョが怒鳴るようにローブの男に聞く。

「先ほど言ったように、3人の命の反応はもうない。おそらくこいつが…」


(俺のせいで怯えてやがる。ざまぁねぇな)

 俺は心の中であざ笑う。こいつらを殺せば俺の能力はさらに上がる気がするし

 さきほどの体の感覚からして、もはや負ける気がしないのも事実だ。


「鑑定はあるのかな?」

 よく転生物でみかける『鑑定』を使おうと思った。

 その瞬間、俺の頭の中にこの2人の情報が流れてくる。


 戦士:Lv5 体力13/13

 魔法使い:Lv3 体力8/8


「あるじゃん鑑定」

 俺はそうつぶやくと、2人との距離を詰めようと思った。

 …思った瞬間、勝手に体は動いていた。


「ふがっ!」

 戦士は俺を殴りつけようとするが、あまりにも遅すぎた。

 2人同時にかかってきたら面倒だったので、まずは戦士の両手を切断する。


「ぎゃああああああ」

 洞窟内に絶叫がこだました。


(うるさいな、ちょっと黙れよ)

 俺は魔法使いの方に向きを変えつつ、ついでに戦士の顔の辺りを蹴って黙らせる。


「へ?」

 魔法使いはあの間合いから一瞬で襲われるとは思っていなかったらしく、間の抜けた声を出している。

 もはや目の前にいる魔法使いの首を横なぎに手刀で払った。


「ぎっ」

 声にならない声をあげて首と分離された胴体、それぞれが地面に倒れる。

 俺は気にせずに最後の戦士の方に向きなおす。


 が、もうすでにマッチョの頭も俺の後ろ蹴りで吹き飛んだようで首から上がなくなっていた。


(あらら、こうあっさりと…)

 そう思っていたらまた頭の中に情報が入ってくる。

『レベルアップしました』

(お、もうレベルアップ。っていうかレベルありの世界なのね)

 そういえばさっきも何か聞こえてたかもしれないが、夢中で気づかなかったわ。


 現在のレベル:6

(ステータスとかないのかよ!)と心の中で悪態をついていると、急に目の前の空間に数字や文字が現れた。

(なんだよこれ……どうやってみるんだ?)

 自分のステータス画面を見たいイメージを向けると目の前に画面が現れる。


 =====

 忍者:Lv6 体力180/180

 攻撃力:123

 魔法:火魔法F

 =====


(俺のステータスはこんな感じか。他にも見れるのかな?)


 そんなことを考えながら、ふと気になったことがあった。

 職業が忍者…なのに魔法?

 もしかすると、さっき倒した魔法使いから奪ったとか?

 俺は異世界転生あるあるを思い出した。

 チートがある場合、そういう他人からスキルなどを奪ったり出来ることがあるのだ。


「って、火魔法ってどう使うんだ…?」

 そうつぶやいて魔法の使い方を思い浮かべた。


 とりあえず、魔法を使いたいと頭で考えながら火をイメージしてみる。

「ファイア」と言葉にすると、俺の手から火の玉が放たれた。


「おお!やった!」

 初めての魔法に思わず叫んでしまう。


 と、複数の人間の気配を感じる。

 洞窟内に反響する俺の声に他の野盗がやってきたようだ。

 なにかそういう感覚もかなり鋭くなっているな。


 まてよ。異世界ものをよく知っている俺はあることを思いついた。

 もしかして無詠唱でも発動可能なんじゃないか、と。


(とりあえず成功するかあいつらで試すかな)

 俺は迫ってくる野盗を迎え撃つべく、そちらの方に手をかざす。


 思った通り!

 俺が手を向けた方向に火球が生み出され、ものすごいスピードで飛んでいく。


「ぎゃぁ!」

「あちっ!」

 1人は完全に丸焼きになっているがもう1人は下半身が炭になったようだ。


(普通に威力あるなぁ)

 そう思いつつ俺は即座に二人に近づくと下半身が燃えた男の首を切断した。

(そういえば……レベル6ってどのくらいの強さなんだろうか?)


(さっき鑑定したボスのような奴はLv5だったな)

 その程度で山賊のボスになれるなら、どうやらこの世界ではレベルは上がりにくいものなのかもしれない。


「鑑定」

 首がないボスを見ながら、ダメもとで『鑑定』を使ってみる


 戦士:Lv5 体力0/13 死体


(ああ、死んでても鑑定で職業が分かるのか。便利だ)

 とはいえ、このままここにいても仕方がない。

 さきほど野盗が女を捨てに行った方向が出口だろうな。


 俺はそう考え、女が捨てにいかれたであろう方向へと向かった。

 少し歩くと洞窟の出口が見えてきた。

 明るいので外は夜ではないようだ。


 俺は出口をゆっくりと出た。

 周りは森のようで、木が生い茂っている。

 さっきの女は…居ないな?

 思ったより元気だったのか?



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