第176話 勇者が来る
そんなこんなで旅を続ける事一週間程。
今日も着いた町の冒険者ギルドにて護衛を雇う事に失敗するが、それとは別にCランク冒険者としての私宛に手紙が届いていた。
「ルーノさん宛に、勇者聖女協会から返書が来ております」
「ルーノさん宛だけですか? ラックス侯爵家から出した手紙の返書は来ていないのですか?」
「は、はあ……ルーノさん宛のだけですね」
襲撃を受けた後、最初に立ち寄ったテッブガトスの町で勇者聖女協会宛に手紙を出したのだけど、その配達には二種類の方法を取った。
ラックス侯爵家からと、Cランク冒険者としての私からの手紙で分けたのだ。
手紙が届かない事も有り得るこの世界。何通かに分け、違う方法で送る事は珍しくないのだ。
正直、勇者聖女協会に私の名前で送りたくは無かったのだけどね。
手紙を受け取り、宿へ戻る。
「侯爵家の手紙より先に、冒険者の手紙に反応するとは……」
「なんかすみません。ただ、そもそも貴族様の手紙って冒険者の手紙と同じ手法で配達されるとは思えないのですが、その辺ってどうなってるのですかね?」
「……知らないですね」
知らんのかい。
まあ、ティアナ嬢もそこら辺の現場の事は知らんわな。
そもそもラックス侯爵家の貴族の手紙として、ちゃんと扱われたかどうかも不明だ。
「ルーノさん、それでは内容を聞かせて下さい」
「はい、えっと…………協会所属の認定勇者が例のSSランクの魔石の確認に来るそうです。ラトリースの道中で合流するので道中の冒険者ギルドには必ず立ち寄って、勇者聖女協会の知らせが無いか確認するように、との事ですね」
「まあ! 侯爵家一行に対して迎えを寄こさないなんて!」
「そ、その……この手紙はラックス侯爵家宛では無く、Cランク冒険者の私宛ですからね」
「コホン……そうでしたね。ですがそれはそれで都合が良いかもしれませんね。認定勇者はそのほとんどが権力者と強い繋がりが有ります。勇者に立ち会ってもらった上で貴族と面会出来れば、私達が貴族であると証明出来ますね」
「ルーノ。なんて名前の勇者が来るの?」
「えっと……ノアの里の認定勇者アレン、と書いてますね」
「「アレン!?」」
勇者アレンの名を聞いたマリアンローズ嬢とティアナ嬢の二人が声をあげ、微妙な顔になる。
「ノアの里の……あそこの認定勇者ですか……ノアの里は名前ばかりで権威は……」
「それに勇者アレン。聞いた事あるわね。物凄く強いらしいけど、かなり扱い辛いって……まだ若い故かもしれないけど、正義感の塊で権力的な枷が効かない猪武者らしいわね」
「ゼオグラードの氾濫の時でしたっけ? 結果的には大戦果となりましたが、逃げ遅れてた民衆を助ける為に、司令部の命令を無視して突貫したそうですね」
「組織的行動には向かないタイプよね」
なんかアレンとか言う勇者は微妙みたい。
でも、聞く限りでは、むしろ前世の感覚での正統派勇者ぽいのだけどね。
権力者にとっては扱い辛いのだろうけど、正義感が有るのなら、少なくとも下衆勇者が来ると言う訳でも無いだろう。
「一応、勇者様ですし、悪人と言う訳でも無さそうですし、合流した町の権力者の所まで同行して頂けたなら、十分ではないですか?」
「……それもそうですね。政治的配慮は期待出来そうにないですが……」
いや、政治的配慮をする勇者って、私としてはなんか違うのだけど……。
まあ、それは前世ゲーム感覚での話だな。この世界の認定勇者って権力者が勇者と認定する訳だから、ある程度権力者に配慮出来る人でないと勇者に認定されないよね。
普通は。
「ノアの里って何処の国……国なんですかね?」
「ノアの里は魔境近くにある集落ね。人口数百の集落らしいから権威なんて無いけど、古の魔王を倒したと言われる初代勇者ノアの生誕の地として、特別に一人の勇者を認定する権限を持っているの」
「魔境ですか」
魔境――人類生存圏、その圏外。魔境にはSランク以上の魔物が存在しており、人類が立ち入れる場所では無いと言う。
「魔境近くの出身だからか、まだ二十歳にもなっていない若さなのにとんでもなく強いそうです。ルーノさんとどちらが強いのでしょうね?」
「ゆ、勇者様と強さ比べとか勘弁してくださいよ」
勇者には目を付けられたくない。
結果的には私の手紙に対しての返事だけど、SSランクの魔石に関しては既にラックス侯爵に献上している。物理的には今でも私が持っているけどね。
実際のやり取りは二人に任せて、私は極力勇者とは関わらない様にしよう。
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