第175話【閑話】他の転生者達10

 私の名前はアイリ。


 先日、妖魔バイアルに襲われていた所、ノアの里の認定勇者アレン様に助けて頂きました。

 アレン様からは「様なんて付けないで良いよ」と言われていますので、今後はアレンさんと呼ぶ事にします。


 アレンさんから知らされた、勇者聖女協会が私を探していた理由を聞いて、私はとても驚きました。

 鑑定持ちの転生仲間であるコウさんから預けられた妖魔王ディスロヴァスに関するメモ。そのメモを私が各地の勇者聖女協会に警告と、そして協会が妖魔王を倒し、転生仲間達を助け出すきっかけとなって欲しいと願いながら、憑依されている人達の名前をリストにして知らせて回りました。

 そのリストに載っていた人達は、皆、同時期に同じ様な悍ましい死に方をしたと、アレンさんから聞かされました。その悍ましい死に様から世間では『悪魔の仕業』と呼ばれる一大事件となっているそうです。

 その一方で、その犠牲となった人達が禁忌とされている生贄集めといった非道な事を行っていた事が明るみに出た事で、一部の人達からは『天罰』とも言われている様です。

 あの妖魔バイアルも言っていました。『奴ならおそらく何かの実験の失敗で自滅したよ』と。

 妖魔王ディスロヴァスは、私が知らない間に……あっさりと死んでいた様です。


 なんとも……信じがたい様な……複雑な気持ちです。


 アレンさんから……というより勇者聖女協会からは、私が何故あのリストを持っていたのかを知りたいそうです。

 その件に関しては、正直に鑑定の祝福持ちの仲間が調べた内容だと伝えました。勿論、私達が転生者である事までは言いませんでしたが。

『悪魔の仕業』と呼ばれる現象については、お答え出来る事は有りませんでした。私の方が知りたいです。


 それよりも妖魔王に捕らわれていた仲間達の事です。

 妖魔バイアルはこうも言っていました。『聖教国に有った体なら――全部喰って能力を取り込んだよ』と。

 仲間達は皆……。


 いえ、まだ諦めるのは早いですね。


 捕らえられた仲間達が皆、聖教国に集められたとは限りません。

 嫌な言い方になりますが、あの妖魔王が用途別に分けていた可能性は有ります。

 なので聖教国以外の妖魔王の憑依体が居た場所を探せば、あるいは誰か生き残っているかもしれません。


 今すぐ探しに行きたい……。

 ですが、それは危険だとアレンさんに止められました。あの妖魔バイアルに私は狙われているのだと。

 妖魔バイアルは仲間から取り込んだ特殊能力『マップ』を持ちます。その権能である『マーキング』によって私の居場所も把握しているでしょう。

 アレンさんから、妖魔バイアルを倒すまでは私と同行してくれると申し出てくれました。

 そして妖魔バイアルを倒した後は、各地の妖魔王の居た場所を調べる事が出来る様、協会に働きかけてくれるとも約束してくださいました。


「何故、そこまでして頂けるのでしょうか?」

「あのバイアルという奴は危険だよ。必ず倒さなければならない。『悪魔の仕業』に関しても知っているみたいだしね。そして奴はとても強いよ。僕の知り合いの元Sランク冒険者の勇者パーティーですら奴に壊滅させられたんだ。例えAランク冒険者を護衛に雇っても、どうにもならないだろうね」

「そ、それは……私ではどうにもならないですね」

「それに……もし、バイアルがアイリさんを狙っているとすれば、バイアルの方からやって来るだろうからね。むしろ利用しているみたいで申し訳ないよ」


 アレンさんはとてもお人好しな方でした。

 

「祝福の方はどう?」

「まだ完全には使いこなせないみたいです。ですが……なんとなく……アレンさんは近々魔王と出会う……そんな気がします」

「それはあのバイアルの事なのかな?」

「ハッキリとはわかりません。ですが、なんとなくバイアルとは違う……かもしれません」


 私の持つ祝福。

 鑑定持ちのコウさんからも「よく分からない」と言われていた祝福です。

 ですがあの妖魔バイアルの言葉からすると、どうも勇者や魔王と言った存在同士を結びつける役割を持っている様な……そんな感じでしょうか?

 実際にそう認識した事が切っ掛けとなったのか、薄々ながらアレンさんがもうすぐ、魔王と出会うのではと、そんな気がするのです。

 ハッキリしないのは、私がまだ祝福の効果を完全に理解していないからなのかもしれません。

 神様は何故、私にこの様な祝福を授けたのでしょうか?

 私にとっては仲間達が無事なのかどうか? また会えるのか? こういう事には私の祝福は働かないのがもどかしいです。

 

「分かった。覚悟しておくよ。何処に向かえば良いのか、とかは分かる?」

「今は……北の方でしょうか……。すみません。本当になんとなくで……根拠は無いのですが……」

「北と言えばラディエンス王国だね。分かった。行ってみよう」


 こうして私は、アレンさんと共にラディエンス王国という国へと向かいました。

 アレンさんは普段は穏やかで礼儀正しい方ですが、困っている方を見れば放っておけない正義感の溢れる方でした。

 道々、魔物に襲われている村を嗅ぎつけては救援に向かいます。

 ラディエンス王国に入ってからは更に魔物の活動が多く、アレンさんは困っている人達の事を不思議と嗅ぎ付け、助けに向かいます。


 本当にお人好しで正義感の強い方です。


 ◇


 ラディエンス王国に入ってしばらく、付近の村々を荒らしていた魔物達をようやく殲滅し、勇者聖女協会の支部に立ち寄っていた時の事でした。

 協会の担当者からアレンさんに話が有りました。


「勇者アレン様。二件ほど依頼案件が有ります」

「なんでしょう?」

「ここより西の方にあるラトニアの町で『悪魔の仕業』と関連性が高いと思われる事件が発生しました。すでに多くの勇者聖女が集結中です。アレン様も向かって頂きたい、と言うものです」

「あの事件の!? 分かりました。それでもう一つは?」

「こちらは少々微妙で判断に悩むのですが……Cランク冒険者ルーノと言う者より『SSランクの魔物をラックス侯爵家の者が討伐した。『悪魔の仕業』と関係のある魔物と思われるので、確認に来てい貰いたい』という内容です」

「貴族の者が倒したのに、なんで冒険者から?」

「そこが微妙と申し上げた次第でして……なんでもSSランクの魔物相手とあって、侯爵家の戦力と相打ちと言う形になり、護衛はそのルーノと言う冒険者だけになってしまったとか。体面を気にする貴族が大袈裟に言っている可能性もありますね」

「そうですね。優先順位はラトニアの方でしょう」



 ……。


 ……うーん。



「……あの、アレンさん」

「ん? アイリさん、どうしたの?」

「その冒険者の依頼の方が……気になって……なんとなくですが……」

「分かった。その冒険者の方の依頼の対応に向かいます」

「え? は、はい」

「え? あ、あの……気になっただけで……」

「僕はアイリさんの感覚を信じるよ」


 アレンさん、即決断です。

 本当に根拠は無いので、そこまで信じられると……何と言えば良いのでしょうか?


「そうだ。確認なのですが、ラトニアに集結中の聖女の中に、ミーシアは居ますか?」

「え? あ、あのルジアーナ聖教国の認定聖女の? もう認定聖女扱いして良いのか難しい立場になっていらっしゃるようですが……確かラトニアに向かっているそうですよ」

「……そうですか。ありがとうございます」


 そのミーシアと言う聖女の事を聞いた時のアレンさんの表情は、何処か切なそうな感じでした。


「あの……その方が気になるのでしたら、ラトニア行きを優先した方が……」

「あ、う、うん……気にはなるんだけどね……。向こうは僕になんて会いたくは無いだろうし……」

「え?」

「……いや、何でもないよ。まずはラトリースへ向かおうか」

「……はい」


 珍しく歯切れの悪いアレンさんですね。

 ミーシアという方は、一体アレンさんにとって何なのでしょう? 元カノ……いえ、詮索は止めておきましょう。


 こうして私達は、今度は依頼のあった冒険者と会う事にしました。

 その冒険者ルーノさんは、このラディエンス王国の東の方から、国の西に位置するラトリースに向けて移動している侯爵家令嬢を護衛中との事です。

 なのでまずはラトリースへ向かい、そこから東へと向かう事になります。

 

 そしてその道中でも人助けに精を出すアレンさん。


「勇者様! オークが村の近くに!」

「お任せを!」


 本当にお人好しで正義感の強い方です。


「勇者様! 近くの川にリザードマンが!」

「すぐに向かいます!」


 何度も言いますが、本当にお人好しで正義感の強い方です。


「勇者様! 山賊に村の娘達が!」

「僕が助けに向かいます!」


 ……本当にお人好しで正義感の強い方です……強過ぎませんかね?

 いえ、決して責めている訳では無いのですが……旅が進みません。

 それに……アレンさんがそういう事件に首を突っ込むという事は、アレンさんに同行している私も、当然、その場所に赴く事になります。

 既に何度か……危ない状況に陥る事も……無くは無い訳でして……。


 バイアルが倒されるまでに、私は無事でいられるのでしょうか……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る