第174話 こっちも日和見
テッブガトスの町を出発してしばらく、盗賊団に襲われ、サクッと全員打ちのめす。
マリアンローズ嬢とティアナ嬢は二人共パワーレベリングをしている為、自己防衛くらいは出来るのは助かる。
「で、こいつ等、どうします?」
「連行する事は可能かしら?」
「拘束の魔道具を持っているので可能ですね。こいつ等が荷車を持っていたのでそれに積んで運べます」
「そういえば、ルーノさんはラックスに来た時に、盗賊団を捕縛して来たのでしたよね」
「それなら次の町まで連行して頂戴。シュタイン卿への良い牽制になるわ。フフフフ」
怖。
貴族社会のおそろしさよ。
こいつ等がテップガトスの町の代官のシュタイン卿の指示で襲って来たかどうかは分からない。私達は単純に冒険者ギルドとかで目立ってたからね。
結果として護衛を雇えないまま三人で行き先までバレてた。シュタイン卿関係無く狙う奴は出て来るだろう。
次の町で盗賊団を捕縛出来る事を見せつければ、今度は馬鹿な真似を考える奴は少なくなるだろうから、こいつ等を連行していくのは賛成だ。連行したままでも日暮れまでには次の街に着くだろうしね。
次の町、ケトスと言う町に到着する。
「ここも日和見ですよ! 全く! 国の内側の貴族は軟弱者ばかり!」
と、宿の中で荒ぶるティアナ嬢。
捕らえた盗賊団を連行し『栄光あるラックス侯爵家御一行が捕らえた』と啖呵を切ったものの、普通にCランク冒険者とその仲間が捕まえただけ、と処理されてしまったのだ。
冒険者ギルドでも、護衛や御者を雇う事は出来なかった。結局、ここでもテッブガトスの町と同じ形になった訳である。
しかしまあ、仮に私達が平民だったら不敬罪待った無しな発言を大声で……。
「悪い意味でその心配はありませんよ! 私達には関わらない様にしているのですから!」
「そういえば捕らえた盗賊達が、本当に盗賊かの確認とかも省いてましたね」
「盗賊として処理すらなら良し。無かった事にするのなら、それはそれで責めようが有るわ。何しろ侯爵令嬢の私自身が見ている訳だから。とはいえ、それは無事ラトリースに着いてからの事ね。ここも敵対する気も無ければ協力する気も無いって事よね」
「外敵に備え、魔物の脅威と戦ってきた当家に比べ、気概が無さ過ぎです!」
領都ラックスに盗賊を連行した時は、取り調べの為に数日は街に滞在してくれと指示されたからね。
そういうのが無い辺り「とっとと町を出て行ってね」と言う事か。
前世で我を通すだけの実力及び発言力が無かった悲しきサラリーマンだった私には、テッブガトスのシュタイン卿やこの町の領主の事を、そこまで酷い為政者だとは思えない。
共和派か王室派か。難しい政局の中で旗色を鮮明にするのは難しい。自分たちの領民の事だってある。自分だけの問題じゃないからね。時に日和見に徹する事も必要なのだろう。
実際、今の私達三人の小娘を見て、共和派に付く事に不安を覚えてしまうだろう。
「何時までも馬車も無いと言うのは体面の問題が……いや、そもそも馬車が無いからこうなっている訳で……でも御者も雇えないのでは……」
「そういえば侯爵家の証明となる短刀とか徽章とか、そういった物は無いのですか?」
「この国の貴族にしか分からない徽章が有るわ。だから私達に会わないのよ。貴族と確認してしまったら、無視出来ないからね」
「なるほどです」
これは本当にラトリースまで、この三人で旅する事になりそうだぁ。
「そういえば荷車が手に入りましたけど、これにお二人が乗って頂いて――」
「――それは貴族として出来ません」
歩きより良いじゃん……と思ったのだけど、どうやら”荷物”扱いされる可能性が有るから駄目らしい。
貴族、面倒くせぇ。
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