第173話 日和見
「ラックス侯爵家令嬢のマリアンローズ様に、シュタイン卿はお会いにならぬと申されるのですか?」
「侯爵家の人間が、護衛も伴わず馬車にも乗らずに来る訳が無いだろう。一応、上司にも報告したが、上司も同じ判断だ」
「ですから、それは緊急事態故にです。ではその上司の方に会わせて頂けませんか?」
「ならぬ。立ち去られよ!」
テッブガトスの町に着いたものの、代官の館にて門前払いをくらう。
私は護衛に見えないらしい。
「シュタイン卿、日和見の様ですね」
「会った事は無いけど小物みたいね」
「うん? そのシュタイン卿って方は、私達を侯爵家令嬢一行と分かった上で、会わなかった、と言う事ですか?」
「おそらくね。貴族を勝手に名乗るなんて重罪なのに、確かめようともしなかったでしょ?」
「私達の状況を見て関わるまいとしたのでしょう。今なら部下が貴族だと思わずに追い返したので知らなかった……と言えますからね」
「敵対する気も協力する気も無いと言う事よね。不愉快だけど、こういった日和見の勝ち馬乗り達が共和派に乗って来ない、というのは頭が痛い所ね」
「ラトリースでの任務、重要ですね」
なるほど、ラックス侯爵家の共和派は王室派に比べて優勢とはいえ、確固たる優位と言う訳では無いって言ってたもんね。
中立派の貴族領では協力を得るのは難しいらしい。邪魔もされないらしいけど。
「仕方ありません。冒険者ギルドで護衛を雇い、ついでに勇者聖女協会への手紙の配達も依頼しましょう。私は冒険者ギルドへ。ルーノさんは馬車と宿の確保をお願いします」
「貴族様の使う馬車の良し悪しなんて分からないのですが……」
「代官から貴族と認定されていないので、この町で貴族用馬車は購入出来ません。一般用で仕方ないでしょう。そもそもこの規模の町で貴族用馬車が用意されているとは思えませんし」
「分かりました。なるべく良い物を購入するようにします」
「お嬢様をお一人にする訳には参りませんので、私と御同行をお願いします。本来であれば荒くれ者の集う場にお嬢様をお連れしたくは無いのですが」
「分かったわ。雇う護衛は自分の目で見たいしね」
と言う訳で、二人と別れて私は宿の手配と馬車の購入を担当する事になった。少し心配では有るが二人共パワーレベリングしているので、町のチンピラ程度は簡単にあしらえるらしい。
可能な限り高級な宿を確保。
そして宿で馬車が購入できるところを聞いて、馬車と馬の購入しようとするが……。
「嬢ちゃん。出来れば御者を連れて来てくれよ。馬との相性も有るんだぜ」
「あ~、御者はここで雇えないですかね?」
「何処に行くんだ?」
「ラトリースと言う所です」
「隣町、隣の領どころじゃねえじゃないか。うちじゃ無理だ」
うーむ、御者の事は思い至らなかった。考えてみれば当然か。
冒険者ギルドに行って、馬の扱える冒険者を探すしか無いかな? そんな冒険者、居るのか知らんけど。
と言う事で、冒険者ギルドへ。
「ル、ルーノさん! 良い所へ!」
「な、何事です!?」
ギルドに入ると何とも異様な雰囲気。その中心にはマリアンローズ嬢とティアナ嬢。
二人は受付の前で強面の冒険者達に取り囲まれている。
「嬢ちゃん、この二人の従者か? この二人、金持って無いのに依頼しようとするんだよ」
「ラックス侯爵家が、ちゃんと支払うと言っているでしょう!」
「このテップガトスの冒険者ギルドでは、ラックス侯爵家と直接のやり取りをしておりませんし、そもそもあなた方が本当にラックス侯爵家の方なのか分かりませんので」
「――くっ!」
あちゃぁ……これはギルド側の言う事の方が正しいな。というか、ここで貴族的後払いを行う方が無理筋だ。
この二人、直接お金を持ち歩く事なんて無かったんだろうね。
冒険者ギルドで揉めていた二人を連れて確保した宿に入る。
「護衛を誰も雇えないとは……」
「一人も雇えなかったのですか?」
「栄えあるラックス侯爵家の依頼だというのに……見る目の無い者共です!」
「本当にラックス侯爵家の人間だと確信が持てなかったのかもしれませんね」
「――くっ!」
二人共明らかに一般人ではない服装と見た目と態度。だけど碌に供も連れず冒険者ギルドで護衛募集。
冒険者からすれば、何か厄介事の気配を感じたのかもしれない。この国の情勢は微妙な状況だからね。
もしくは冒険者ギルドが不介入を決め込んでるのかもしれないな。
冒険者全員が国の情勢に詳しいとは思えないし、私達は一応美少女三人組だ。何人かは下心有りで護衛依頼に応じそうなものだけど、一人もそういう類の奴等が出て来ない辺り、そういう事なのかも。
シュタイン卿から不介入の指示が出てる可能性も有るかな?
流石に手紙の配達の方は受理されたけどね。
「ともかく……御者も雇えないので、馬車だけ手に入れても動かせないですね」
「仕方ないわね。歩いてでもラトリースへ向かうわよ。幸いルーノに交代で担いでもらえば馬車並みに早いわ」
「畏まりました。お嬢様、頑張りましょう」
「協力が得られそうな共和派の貴族が治める領地は近くには無いのですか?」
「ラトリースまでの道程には無いですね。一番近い所に寄ろうにも、途中で王室派の領土を通る事になります。リスクが大きいですね」
「それに日程は厳しい訳では無いけど、だからと言ってそんな回り道をする程、余裕が有る訳でも無いわね」
うげぇ。
結局この三人で旅を続けることになるのか。
「あのぅ……私達、普通の町娘の格好をしませんか? この町ではもう無理でしょうけど、一般人としてなら、次の町から護衛も雇えるでしょうし」
「それは出来ません。護衛団壊滅に関してはSSランクの魔物の襲撃を受け、被害を出しながらも討伐した、と言う理由が有るので体面を保てますが、侯爵家一行がコソコソ平民の格好をしたと言うのは当家の面子に関わります」
「それに私、平民の立ち振る舞いとか出来ないわよ」
「……そうですか。まあ、確かにお二人共、服装だけ平民にしてとしても、平民に見えないかもしれませんね」
「「そういう意味ではルーノ(さん)も大概よ(です)」」
この目立つ三人組のまま、旅を続けるのかぁ。
まあ、仕方ない……仕方ないけど……護衛を連れていない訳有りぽい少女三人、今日それなりに町で目立った。
嫌な予感がするなぁ……。
翌日、テッブガトスの町を出発しておよそ二時間程……。
「へっへっへっ。嬢ちゃん達、俺達と一緒に来てもらおうか」
「本当にラックス侯爵家の令嬢なら身代金はたんまりだな」
「違ったとしても、楽しんだ上でそれなりに高く売れそうだなぁ。ひっひっひっ」
と言う訳で、街道で待ち伏せていた盗賊団に襲われました。
まあ、そうなるよねー。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます