第172話 捧げられた魂
「おん?」
「ルーノ、どうしたの?」
「あ、いえ……何でもないです」
今、感覚的に悪魔の固有能力『魂』の権能の一つ『魂契約』によって交わした契約が破られ、魂が捧げられた事が分かった。
私が契約を交わした相手は限られる。
ヴェダで契約したグラッツとエミリアは契約を解除したから、契約が残っているのは、転生当初に滞在したルタの村を出る時に私を騙して奴隷にしようとした『誠実の盾』の生き残りの男一人だけだ。
その生き残りの男が契約に違反したみたいだ。私の事を話そうとしたのか、悪事を働いてしまったのか……。
やっぱり、一度悪事に手を染めた人間は更生は無理なのかな? あいつ等は生きる為に止む無く悪事に……という感じでは無かったしなぁ。
まあ、仕方が無い。結局、なる様になってしまったと言う事なのだろう。
捧げられた魂を対価にアレが使えるようになったけど……今後、使う事ってあるのかなぁ?
現在、私とマリアンローズ嬢にティアナ嬢の三人は、テッブガトスの町を目指して移動中である。馬車が壊されてしまったので、歩きの旅になってしまった。
私は懐かしの背負子を出してその上にクッションとなる布を置き、マリアンローズ嬢を乗せて歩く。
「はぁ……ふぅ」
「ティアナ。交代しましょう。今度は私が歩くわ」
「お、お嬢様に歩かせるなんて、出来ません」
「今、ティアナにまで倒れられたら困るわ。ルーノ、降ろして頂戴」
「はい」
「も、申し訳ありません」
こんな感じでマリアンローズ嬢とティアナ嬢を交互に背負いながら進む。
二人はパワーレベリングしてるお陰か、貴族令嬢の割に体力はあるみたいだけど、普段から歩き慣れていないのと歩くには向いていない服や靴だからね。
「それにしても、ルーノさんは流石ですね。全然疲れている様子が無いです」
「身体能力だけは自信が有りますので」
私が二人を両手に抱えて爆走すれば一番早いのだろうけど、それはいざと言う時にしておこう。
そして夜になり野営である。
「申し訳ありません。こんなものしか無くて」
「この状況では致し方ありませんね。むしろルーノさんがマジックバッグと食料を持っていてくれて助かりました」
「異空間倉庫にマジックバッグを入れておけば、調理済みの食事をそのまま持ち歩けるのね。そんな事が出来るなんて……ルーノが望むのなら、権力者の立場になる覚悟があるのなら、今後も私の側仕えで雇ってあげるわよ」
「光栄ですが、私はやはり気ままな冒険者でありたいと思っております」
「そう、残念ね。平民で居ると言う事はそういう事よね」
契約は後とはいえ、私の能力を漏らさない約束を取り付けたので、異空間倉庫を遠慮なく使う。一応、異空間倉庫にマジックバッグを入れていると言う設定では有るけどね。ドレイクバスターズの遺品であるマジックバッグを入れているから、嘘と言う訳でも無いし。
しかしまあ、二人共、料理とか野営の準備の手伝いなんかはしないけど、わがまま言わないのは助かる。
この世界は魔物の脅威のある世界の為か、強力な魔物と戦える強い冒険者に対しては、特権階級の貴族すら一定の配慮をする。ラックス侯爵家はラディエンス王国の東の守りを担って来た武門系の貴族なので、特にそういう傾向があるみたいだ。
そんなこんなしながら、私達はようやくテッブガトスの町に到着した。
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