第159話 話題の美少女冒険者

 翌日、冒険者ギルドへ向かう。

 出掛けようとしたら、宿の従業員が「馬車を用意しましょうか?」とか聞いてきた。

 完全に貴族令嬢と間違われている様だ。貴族令嬢が一人で泊まる訳無いじゃん。


 上級階級の街並みから、異国情緒あふれる欧州風味の下町へと歩いていく。

 昨日は盗賊の事をどう説明しようと考えていてあまり見ていなかったが、今、改めて見ると風情のある街である。

 どの建物にも赤い煉瓦が使われていて、街並みに統一感がある。

 赤い煉瓦がこの街の特産品なのだろうか。

 良いねぇ。昨日は結局殺伐……と言うと大袈裟だけど、景色を楽しむどころでは無くなったからね。


 因みに服装は魔装服の上に高級なフード付きローブを羽織って、フードを深く被って顔を隠している。もう街に入った後だからね。

 いや……だってさ……やっぱ魔装服姿は視線が凄いんだよ。

 要するに貧乏くさい格好しなければ、そこまで舐められないはず。

 正式なCランク冒険者証も手にしたしね。


 赤い街並みを眺めながら歩くことしばらく、冒険者ギルドの建物を見つけて中に入る。


 ――ザワワッ!


 ギルド内に入った瞬間、凄まじい量の視線が突き刺さる。


 ――え?

 何事?


 ギルド内のほとんど全員に見られている?

 今までも、値踏みされるような視線や、好奇の視線は感じてきたが……それとは少し違うこの視線はなんだろう?

 今の私はフードを深く被ってるから、顔は見えないはず。

 いや……何か……そういう事ではない気がする。

 はっきりとは分からないけど、今まで感じた視線とはなにか違うぞ?


 入り口で固まる私を見ている人達から、会話が聞こえて来る。


「……あいつが侯爵家の?」

「でも一人だぞ?」

「顔は見えないが着ているローブは仕立ての良い物に見えるな」


 そんな会話が聞こえてきた。

 な、なんだろう? 侯爵家?

 よく分からないが、私は侯爵家とやらとは無関係だ。

 

 そそくさと受付の列に並ぶ。


「……受付に並ぶって事は冒険者か依頼人か」

「紛らわしいな」


 そんな会話が聞こえた後、私に集中していた視線が無くなる。

 どうやら謎の誤解は解けた様だ。

 しかし一体何事だろうか?


 私に向けられた視線を感じなくなり、落ち着いてギルド内の様子を見る。


 人が多い。

 併設された酒場に座り切れずに、立ち飲みしている冒険者も大勢いる。

 朝から飲んでる……訳ではない様だ。アルコールの匂いはあまりしない。果実水とかそんなのを飲んでるのかな。

 そういえば昨日の取り調べの騎士が「現在の冒険者ギルドは少々忙しい」みたいな事を言ってたな。

 だから忙しい?

 だけどそれにしては少し様子が変だな。

 ギルド内の冒険者は多いのに、依頼が貼り出されてる掲示板にはあんまり人が居ない。

 依頼を見ているのは……新人ぽい冒険者ばかりだ。

 逆に待機しているだけの様に見える冒険者達は、それなりのランクの人達の様に見える。と言っても迷宮都市のヴェダに比べれば、全体的に冒険者のレベルは低いかな? 装備の豪華さでしか分かんないけど。

 受付待ちの冒険者の列も、人数の割に多くない。並んでるのは新人ぽい冒険者ばかりだ。

 ギルド職員達も、なんかそわそわしてる?

 ギルド職員はそれなりに居るのに受付を担当している人が少ないから、並んでる冒険者も少ない割にあまり列が進まないな。


 ……なんなんだろう?

 侯爵家とやらが冒険者を招集しているって所かな?

 ギルドもその受け入れ準備とか?


 冒険者達の会話に耳を傾けてみる。


「まだかな……緊張するぜ」

「ふん。これくらいで緊張してる様では到底、侯爵家の目に留まるとは思えんな。選ばれるのはこの俺様だ」

「――なんだと!?」

「おい、止めろ。喧嘩なんてしている最中に来られたら終わりだぞ」

「……ちっ」


 強そうな一団の会話。

 侯爵家が戦力を求めているのか?


「結局、何人選ばれるんだろうな?」

「さあな。でもそれなりの数は必要なんじゃないか?」

「強さもですが品性も見られるでしょう。私が選ばれてみせますよ」


 なんか貴公子ぽい冒険者が居るな。


「女が有利か?」

「そうなのか?」

「なんでも侯爵家のお嬢様の護衛らしいからな」

「何処情報だよ?」

「ギルド職員の話が聞こえたんだよ。クリスティーナちゃんが最有力候補だな」

「でも女冒険者って数が少ないからな。その話が本当だとしても女冒険者だけって事は無いだろう」

「クリスティーナちゃんは一人だけだしな」

「そうだよな。クリスティーナちゃん以外の女冒険者って、ムキムキのゴリラみたいなのばかりで――」

「――坊や、ちょいとお姉さんに付き合いな」

「ぎゃあああああ!」


 ゴリ……げふんげふん……逞しいお姉様冒険者に拉致られる口の軽い冒険者。南無……。


 ふむ……。

 侯爵家が娘の護衛をする冒険者を募集しているって感じか。

 しかし侯爵家って結構上位貴族だったよな。冒険者に頼るものなのか?


 それとクリスティーナちゃん……そういえばこの国に来る時の馬車の乗客から、その名前を聞いた事があったな。

 ラックス侯爵家の領都ラックスの冒険者ギルドに、話題の美少女冒険者が居ると。

 その乗客には「ルーノさんなら勝てますよ」と言われたな。何に勝つのやら……。

 この冒険者集団の中に、そのクリスティーナちゃんとやらが居るのかな?

 そう思ってギルド内にちらほら居る女冒険者達に目を向けてると、すぐに見つける事が出来た。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る