第158話 領都ラックス

 盗賊団に襲われたので戦闘……と言える程の事にもならず、全員打撲拷問で打ちのめす。

 勇者シルヴィナスパーティーから貰った魔道具セットの一つ、拘束用の魔道具で盗賊達を拘束し、盗賊達の荷馬車に積み込む。

 御者だった男だけ拘束せずに馬車を操縦させて、ここからは馬車で進む事にした。

 御者はこいつ等に脅されて止むを得ずやっていたらしい。本当かな?

 もし本当だとしたら、盗賊達は死罪だろうけど、この御者は死罪までにはならないだろう。多分。


 今までだったら、こういう普段は近くの住人として生活していると思われる盗賊相手だと逃げていた。

 素性の知れない流れ者であった私が、普段は住民として暮らしてる者達を拘束して連行した上で「こいつ等盗賊です」と訴えても「向こうの方が盗賊だ」と言い返された場合、発言力負けするからだ。

 立場や発言力の無い者は、有る者によって好き勝手話を捏造されて悪役にされる。

 その事は前世で身をもって知ってるし、今世でもリーアム近郊で一時牢に入れられたし、ヴェダでは当初理不尽な目に遭ったしね。

 だけど今の私はCランク冒険者。一般的にはベテラン揃いと認識されてるランク帯の冒険者だ。すぐ近くのヴェダダンジョンの踏破者と言う実績持ち。

 ある程度の社会的地位も得たし、堂々としていれば大丈夫………………なはず。

 駄目だったら……その時の様子で考えよう。

 最悪の場合はヴェダに逃げ戻って、冒険者ギルドマスターのゴーガッツに泣き付こう。


 領都へ向かいながら御者から情報収集をする。


「この国には鑑定の魔道具が無い?」

「へい。結構前の話ですが死んだ国王が人の往来を活発にする為だとかで、貴族達の反対を押し切ってそういう法案を無理やり通したらしいですぜ。門での鑑定検査は時間が掛かるんで、下手したら街に着いたその日に街に入れない事もありやすからね」

「ではこの先の領都ラックスでも、街に入る際の鑑定は行っていないのですね」

「へい」

「と言う事は、実はこの国には盗賊が多いのですかね」

「鑑定しない以上、こいつ等みたいな盗賊は多い傾向にはなりやすね。ただ、貴族達も無法を許してる訳じゃない無いんで、あまり派手にやると討伐隊が来やす。無茶は出来ませんぜ」


 なるほど、無法地帯って訳でも無いのか。

 今回、私を襲った盗賊は普段は街中で暮らしているけど、私の様なカモを見かけたら盗賊と化すタイプだ。というか毎回このタイプな気がする。


 街に入る時に鑑定してる街は、街中は治安が良くなるけど街の外に盗賊が屯すようになる。鑑定されたら犯罪系統の称号を持っている事がバレるからだ。

 鑑定しない街は、街中に一般民を装った盗賊が潜む事になるけど、人の出入りは活発になり経済的には良くなる。

 そういう傾向が出るんだね。鑑定すれば良いという訳でも無いんだ……。

 そういや今まで訪れた街は、どちらかと言えば経済流通重視系の街だったから、鑑定してない街ばかりだったんだね。


 それにしても盗賊だからか、こういう鑑定に関する情報は良く知ってる。でも亡くなった国王が生贄集めをしてたって事は知らないみたいだ。おそらく亡くなった国王は、経済活発化を建前に実際は生贄集めが目的で鑑定廃止したんじゃないかな?

 ともかく、街に入る際に鑑定していないというのは、私にとって都合が良い。

 この国を出た後も、経済重視系の街を進むようにしよう。

 こういうタイプの盗賊には襲われまくりそうだけどね……。


 そうこう話を聞いてるうちに、領都ラックスの門が見えてきた。

 

「盗賊達を捕らえただと? 君は何者だ?」

「迷宮都市ヴェダから来たCランク冒険者のルーノと申します。これが冒険者証です」

「君みたいな子がCランク!? ……確かに……確認しました。お手数ですが状況が状況故に事情聴取に協力願います」

「分かりました」


 夕方前には領都ラックスに到着し、門番に事情を話す。

 拘束した盗賊達を引き連れてる為か、街に入る列の横の衛兵通行口の中の詰め所に連れていかれた。


「盗賊達を一人も逃がさず捕らえてくれてありがとうございやした。これで私もこれ以上罪を犯さずに済みますぜ」


 そう言って御者をしていた男は、私とは別の場所へと連れていかれた。

 街中にまだ盗賊の仲間が居るかもしれないよ?

 いや、数人規模の盗賊達だからそれは気にし過ぎかな?

 彼が盗賊達に、何が原因でどう脅されてたのかは結局知らない。聞いても言ってる事が本当かどうか、私には分かんないしね。それは衛兵に任せる。

 まあ、逃げる様子も無かったから本当ぽいのかな? 嘘だったら逃げないと死罪がほぼ確定なんだし。


 私は詰め所に連れていかれ、しばらく待たされる事しばらく、高級そうな装備を纏った男がやって来た。

 数人の盗賊が捕縛されたと聞いてやって来た騎士らしい。その騎士に事情を話す。

 まだ若い騎士だったけど、態度は横柄と言う事も無く紳士的な対応だった。


「事情は分かりました。確認には時間が掛かりますので、しばらくこの街に滞在の上、連絡が取れる様にしておいて頂きたいのですが、滞在する宿はお決まりでしょうか?」

「宿はまだ決まっておりません。冒険者ギルドに話を通しておきますので、冒険者ギルド経由で良いですか?」

「申し訳ありませんが冒険者ギルドは現在少々忙しい状況にあるかもしれません。それにもう夕方ですので門前宿は満員と思われます。泊まる予定の宿が決まっていらっしゃらないのでしたら私がお勧めの宿を紹介致します。その宿となら私が連絡を取れますので」

「分かりました。それでお願いします」


 騎士や門番の兵士達の態度を見る限り、この街の領主はまともそうだ。

 それともCランク冒険者と言う肩書のお陰であって、これがGランクのままだったりすれば対応が違ったのかな?

 そんな事を考えつつ、紹介された宿に泊まる。


 かなりの高級宿でした……。


 あ、そっか……今の私は魔装服姿だ。何時もの家出貴族令嬢だと思われたのか?

 ともかく、しばらくこの街に滞在する事になったし、領都だけあって大きな街だ。

 Cランクになった事だし、明日は冒険者ギルドでどんな仕事が有るか見てみよう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る