第157話 一人なら来る
「ではルーノさん、また」
「ご活躍をお祈りします」
「……弓、ありがたく使わせてもらいます」
「こちらこそ。凪原旅団のご活躍をお祈ります」
フラケートの街で一泊し、凪原旅団とお別れである。
彼等はこの街でしばらく休息し、また迷宮都市ヴェダへと折り返す馬車の護衛任務の予定だそうだ。
フラケートの街周辺には、凪原旅団が初心者の頃に修行の場としていた小規模ダンジョンがあるらしい。
ダンジョンクリア報酬狙いに一回くらい行っても良いかなと思ったけど、そのダンジョンは修行の場としてそれなりに人気のあるダンジョンらしい。
狩場荒らしになるかもしれないと思って、行くのは止めた。
フラケートの街を出て、街道を南西へ。
今回は馬車ではなく歩きだ。そもそもこの街まで馬車に乗ったのはそれなりに親しくなった凪原旅団が護衛だったからだし、乗客も私の事を知っていたからであって、基本的には馬車に乗る気は無い。
隣の領都ラックスの街を目指す。
荒野地帯を抜けて木々が増えてきた。この辺りは亜寒帯地帯らしく冬は長いが、それでも雪が少なくなってきた。春が近い感じだね。
今の私の服装は魔装服の上に、高級なケープに仕立ての良いバックパックだ。ケープはドレイクバスターズの魔法使いロンディアの予備の物と思われる物で、私にはサイズが大きいがマント代わりだ。
Cランク冒険者となった事だし、フードで顔を隠さずに、この格好で堂々と行く事にしよう。
下手に貧乏くさいフード付きローブ姿だと、却って狙われやすい気がするしね。
「こんにちは。お嬢さん、一人旅かい? 一人は危ないよ?」
のんびり街道を歩いてると、後ろから追い付いてきた荷馬車の一団の御者から声を掛けられる。
「こんにちは。こう見えても私はCランク冒険者ですからご心配なく」
「Cランク!? でも武器とか持って無い様に……あ、魔法使いさんかな?」
「……まあ、そんなとこですかね」
「なるほどね。それじゃ良い旅を」
「ありがとうございます。そちらもお気を付けて」
荷馬車の一団はそう言って先を進んで行った。
一団からは私の容姿やCランク冒険者である事に関する論議が交わされてる事を、高いPERが聞き取って来る。
まあ、男集団だったし、旅をしてると馬鹿話するくらいしか娯楽が無いよね。
景色をぼんやり眺めながら、街道をのんびりと歩く。
思えば三剣岳ダンジョンでダンジョン攻略して、鉱山都市での人攫い達から逃げ、迷宮都市ヴェダでの苛めにダンジョン攻略と、殺伐とした日々が多かった。
たまにはこうしたゆったりした時間が必要だね。
「へっへっへ。いくらCランク冒険者とはいえ、一人ではこの人数にはどうしようもないぜぇ」
「Cランクつっても親のコネかなんかじゃねえの? 世間知らずにも程があるぜぇ。嬢ちゃんよぉ。ひっひっひ」
「おっと魔法の詠唱を始めたら一斉に斬りかかるぜ。おとなしく拘束されな。可愛がってやるぜぇ。うひひひひ」
……と思ったら、あれから街道を少し進んだ先の木々に囲まれた見通しの悪い場所で、待ち伏せていた先程の一団に囲まれた。
舐められない様に高価な物を身に着けてたのに……いやまあ、それでも獲物が一人の時には来る訳ね。むしろ高価な物を持ってる旅人一人だけとかカモだよな。
これは異世界あるあるテンプレではなく、必然なパターンだな。
というか今の所、街道を一人で歩いてて襲われなかった事がほぼ無いや。どんな格好であれ、一人ならそりゃ襲ってくるか。
盗賊だって馬鹿じゃないから襲い易そうな相手は見ている。こいつ等は普段は行商人しながら街道を行き来し、途中で襲い易そうな旅人を見つけたら盗賊と化すタイプなのだろう。
そういや武器を持って無かった……リヴァルにそれを注意された事があったわ。いや、武器持ってても一人だと関係無いかな?
さっきの会話も私が本当に一人なのか、戦闘力はどれくらいか、そういった情報を探ってた訳ね。
殺伐とした事は避けたい気分だったのになぁ。
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