第156話 新たな国、ラディエンス王国へ

 予定より少し遅れましたが、本日より投稿再開致します。

 100話以上のストックを抱えてスタートした前回と比べて短い期間では有りますが、楽しんで頂けると嬉しいです。


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 いよいよ迷宮都市ヴェダの街を旅立つ日である。

 目的地は専用化のスキルが使える鍛冶師が居ると言うラトニアだ。

 とはいえラトニアは隣国のラディエンス王国の更にまた西隣の国の町である。

 まずはラディエンス王国の国境の街フラケートに向かう。

 フラケートまでは乗り合馬車に乗って行く事にした。およそ一週間の予定。

 

「と言う訳で凪原旅団の皆様、またよろしくお願いします」

「ルーノさんが一緒なら例えドラゴンが出て来ても安心ですね」

「今回は私は乗客ですが、もし強力な魔物が出てきたらお任せください」

「乗客であるルーノさんに頼るのも筋違いとは思いますが、本当に危険な時はお願いします」


 馬車の護衛を務めるのはヴェダダンジョンでお世話になった凪原旅団である。

 季節は冬が終わりに近づき、大分雪が少なくなってきた頃だ。隣国からの避難民は雪の中、移動してきてたのか。大変だったろうな。

 私なら走った方が馬車より断然早いのだけど、今回、馬車で行く事にした理由は、凪原旅団が護衛する馬車に乗れるからだ。

 ソロ冒険者である私が護衛依頼を受ける事はまず無いだろうけど、何事も経験である。護衛任務中の冒険者が何をしてるのか見てみたい。見た事あるのと無いのとでは大分違うからね。

 四週間も一緒にダンジョン攻略を共にした凪原旅団だったら、それなりに気心が知れてるしね。

 護衛任務の事を教えて貰う代わりに、私も生活魔法やいざと言う時の戦力として協力する約束だ。


「といっても、戦闘面でルーノさんに頼らざるを得ない状況には、まずならないと思いますけどね」

「ラディエンス王国は現在混乱中だそうですし、移民の一部が盗賊となってたりしないんですかね?」

「混乱は大分収まってるそうですよ。今回の他の乗客達のほとんどが、ラディエンス王国が落ち着いたと聞いて戻る人達ですしね」

「実際に内乱にまで至った訳では無いので、農地を追われた難民が出てるという訳でも無いですからね」

「国境地帯は不毛な荒野です。あまり隠れる場所も無いので規模の大きい盗賊団が根を張る場所では無いです。小規模盗賊グループなら居るかもしれませんが、護衛付き馬車を襲う様な規模の盗賊団はまず居ません」

「強い魔物も出ないですしね」


 凪原旅団リーダーのニクスや隣国に戻る乗客や馬車の御者が語る。御者はこの道三十年のベテランだそうだ。

 熟練の護衛冒険者と御者が言うならそうなんだろうね。

 フラグじゃ無ければ良いけどね。


「それでは出発するぞー!」


 ヴェダの城門を出て西へと向かう馬車。

 道の横には雪が残っているが、頻繁に人や馬車が通る街道には雪は残っていない。

 今の私の格好は町娘バージョンである。今回は冒険者では無く乗客だし、魔装服だと目立ちすぎるからね。

 馬車メンバーは乗客護衛含めて全員が私がダンジョン制覇した事を知っているので、変な事をしてくる人は居ない。


「そういえば、ダンジョンボス部屋の宝箱の中身は何だったんですか? あ、勿論言いたくなければ言わなくても良いです」


 昼休憩の時に凪原旅団の紅一点のカンナが聞いて来る。


「別い構いませんよ。えと【家屋珠】という魔道具でした」

「えっと……家を作れる魔道具でしたよね?」

「はい。まあ、一回限りの使い捨てですけどね。微妙なのが当たってしまいました」

「何度も使えたり持ち運び出来れば凄く便利なのでしょうけどね。でもいざと言う時には欲しい一品です」


 この家屋珠の魔道具は、一般的には言葉通りにダンジョン報酬としては微妙である。ハズレ気味な一品。

 一回きりの使い捨ての割に、出来るのは家とは名ばかりの小屋みたいなのが出来るらしい。

 周りの木や石や土などを取り込んで作られる為、出来上がりは周囲の環境や使用者の魔力によるらしく、どんなのが出来るのかは使ってみるまで分からない。

 まあ、私が悪魔バレした時に、逃げた先で家を作成する為に手に入ったと考えれば有用である。

 ……これもフラグなのかなぁ?


 こうして初日は国境最後の宿場町で宿を取り、翌日からは荒野を野営しながら西へと進む。

 野営中に一度だけ、狼系の魔物が襲ってきたが凪原旅団が難なく追い払った。


 野営中に凪原旅団斥候のリヴァルが弓の調整をしている。

 その様子を見て、ふと思う事があってリヴァルに声を掛ける。


「リヴァルさん、弓を変えるのですか?」

「……これは予備です。普段使いのは亀裂が入ってしまったので……」


 先程の戦闘で使っていた弓とは違うと思ってたけど、破損したのか。


 ……ふむん。


 異空間倉庫から、かつてドレイクバスターズの所有だったマジックバックを取り出し、中からドレイクバスターズ斥候ネクトの予備の物と思われる弓を取り出す。

 

「これ、使えませんか?」

「……かなり良いものですね……使える使えないで言えば使えると思いますが……」

「私には弓を使いこなせないので、リヴァルさんが使ってくれませんか?」

「……え?」


 マジックバッグには決闘で倒したドレイクバスターズの遺品が色々と入っていた。

 彼等に対する誠意として、売ってお金にする気は無いし、私が有意義に使うのが一番だとは思う。

 剣術スキルを習得すれば、もしかしたら聖剣を使えるようになるかもしれないし、剣の素振りは一応開始している。スリストの遺品である魔剣も使ってみたいしね。

 だけど何故か私のスキル習得速度は非常に遅い……というより今まで新しく習得した事が無い。

 一般的には一ヶ月程、棒を振り回してれば【棒術Lv1】は習得出来るらしいのに、私はもう半年近く、棍棒やポールアーム等を振り回してるのに未だ習得出来ていないのだ。

 そんな状況で遺品全てを私が使いこなすと言うのは、非現実的だと言わざるを得ない。そもそも私は不器用だし。

 それなら有用に使ってくれそうな人に託そうと思うのだ。

 私が使いこなせないまま死蔵するよりは、よっぽど良いと思う。


「……良いのですか?」

「リヴァルさんなら道具を大事に使ってくれますからね」

「……あ……いや……俺、嫌われてるのかと……」

「はい? ……いえいえ、嫌ってなんていないですよ」


 まあ、仲が良かった訳では無いけどね。

 基本的にリヴァルは口を開けば苦言ばかりだったからね。中々に口煩い人ではある。だけど苦言や注意を、自身に対する攻撃と解釈する様な奴等と一緒にしないでくれ。

 私は小者だが、敵意と注意の区別が出来る程度の器量はあるつもりだよ。


「むしろ色々教えてくれて感謝してますよ」

「……ありがとうございます。大事に使わせてもらいます」


 うん、この男なら大事に使ってくれるだろう。


 ◇


 順調に旅は進む。

 乗客との話でラディエンス王国の事も大分分かってきた。


「美少女冒険者ですか?」

「ええ、クリスティーナという、最近名を上げている美少女冒険者が領都ラックスの冒険者ギルドに居るのですよ」

「ルーノさんには敵いませんけどね」


 ヴェダ冒険者ギルドのギルドマスター、ゴーガッツからもラディエンス王国に関する情報を仕入れていたけど、現地人の生の情報はまた違うね。

 そういう冒険者が居るんだ。


「明日にはラディエンス王国国境の宿場町に到着します。明後日には目的地のフラケートの街に到着です」

「はい」

「油断は禁物ですが、このまま何事も無く到着できるでしょう」


 そうだと良いけどね。

 ラノベ的には大抵、この辺で何か起きるんだよね。














「フラケートの城門が見えてきたぞー」

「無事到着ですね」


 ……何も起きなかった。


 いやまあ、ベテラン冒険者と御者が揃って「まず何も起きない」って言うからには、そりゃ何も起きないわな。盗賊の馬車襲撃イベントなんて、異世界あるあるテンプレイベントなんて無かった。

 いや、盗賊や人攫いに襲われた経験はそれなりに有るんだけど、それは私一人の時なんだよね。

 なんかこう……戦闘力にそれなりに自信が出て来た今となっては、皆の前で盗賊を撃退して「凄い」と言われたりするような、自己承認欲を満たしてくれるイベントを期待していなくもないお年頃でして……。


 現実なんてこんなものか……。

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