第155話 力を持つ者の有様
それから火竜の牙や依頼されてたBランク素材、Aランクの魔石を納品する。
ドレイクバスターズの持ち物は、私が貰って良いらしいので、ありがたく頂く事にした。ゴーガッツも私が使うべきだと言う。
遂に本物のマジックバッグを手に入れた。中には彼等の予備の装備もあるし、スリストの使っていた魔剣まで手に入れてしまった。
……正直、素直に喜べないけどね。
そんな沈んだ表情の私に、ゴーガッツはがらりと口調を明るく変えて言う。
「よっしゃ! それではルーノのダンジョン制覇を祝った宴会を行おうじゃないか! 準備はしてるからな。人を集めて騒ごうぜ。あいつ等の供養の為にもな」
「は……はぁ」
ふむ、そうだね。
ここでクヨクヨとして沈んでいたら、それこそドレイクバスターズに申し訳ない気がする。
とはいえ、宴会か。
場所はギルド併設酒場を提供してくれるみたいだけど、私に人を集められるかな?
職員や工房関連の人達はゴーガッツに任せるとして、私は冒険者に怖がられてるしなぁ。そもそも、そういう飲み会に誘う様な柄じゃないし。
凪原旅団にも声掛けを頼むとしてもなぁ……彼等は隣国出身で護衛中心の冒険者パーティー。この街の冒険者に顔が広い訳では無い。
うーん。
◇
「任せてくれ姉貴! 街中の冒険者共を連れて来るぜ!」
「グラッツさん、お願いしますね。ただし無理やりは厳禁で。ばら撒くお金に糸目は付けないで良いですからね」
「流石姉貴! 太っ腹だぜ! 分かってるぜ。よし! 行くぞお前等!」
「「「おう!」」」
結果……こうなると。
グラッツパーティーに人集めを頼む。
グラッツに対しては未だに思う所が少し……いや、多分に有るが、舎弟としては使える奴だぜコンチクショウ! ありがとうよ!
グラッツ達には、お金を多めに渡して、ついでに浮浪者達にも何か振る舞ってやれと言っている。この街でかなり稼いでいるからね。この街で稼いでる分、この街である程度お金を落とさないと、経済が回んなくなるからね。
もし、グラッツ達が私相手に預かったお金を持ち逃げする様なら容赦はしない。まあ、見る限りそんな事はしなさそうだ。余った分くらいはくれてやるさ。
そしてその日の夜、ギルドの酒場でダンジョン制覇の宴会を行った。飲み食い費用は私が更にお金を追加して、料理や酒を豪華にしてる。
凪原旅団に、見習い鍛冶屋のブルースも来てくれた。そしてグラッツとそのパーティメンバーが集めてくれた、大勢の知らない顔の冒険者達も参加してくれた。
あの一件の主犯であるグラッツが、私の委託を受けて参加を呼び掛けたのだから安心して参加できたのかもしれないし、そもそも冒険者という人達はタダ酒が飲めるのなら、特に気にせず酒を飲む人達なのかもしれない。
知らない面々の中には、ドレイクバスターズを悼んでる人達も居た。
なんでこの場で……というのは無粋だね。酒を飲みながら騒いで故人を悼む。冒険者の流儀なのかもしれない。
翌日、共同墓地にドレイクバスターズの冒険者証を納め、彼ら四人と、メアリーという彼ら四人が恋した女性の冥福を祈る。
そして、ゴーガッツとおそらく最後になるであろう面会。
「そうか。この街を去るか」
「はい。このまま西へ向かい、魔境で修行したいと思います」
「……まだ強くなろうと……だからその強さなのか」
今回のダンジョン攻略ではレベルが一つも上がらなかった。もう魔境に行く位でないとレベル上げにならないだろう。
強さはいくらあっても良い。強さが私の身の安全の保障なのだ。
それに魔境はいざと言う時の私の逃亡先でもあるしね。
この街では色々あったけど、最終的にはゴーガッツが私の都合に配慮してくれるお陰で快適に活動出来た。その一方でやはり小物な私には、トップ冒険者と言う立場は居心地が悪い一面も有るんだよね。柄じゃ無いよ……やっぱり。
「色々お世話になりました」
「こちらこそ。出会いは……アレだったが、ルーノには稼がせてもらったし、何よりギルドは勿論、この街に新しい風を吹かせてくれた。ありがとう」
「そう言ってくれるとありがたいのですが……」
新しい風……まあ、ゴーガッツの手腕によってギルド主体の体制に変わりつつあるが……私が居なくなって大丈夫なのだろうか?
それにドレイクバスターズも私も居なくなれば、この街にはAランク及びAランク相当の冒険者が不在になる。看板となる冒険者が出て行くと言うのは、ゴーガッツにとってあまり良い事では無いのではなかろうか?
ゴーガッツとはビジネスライクな所も多々有りながらも、転生してから一番関わった相手とも言えるしね。そんな彼を困らせたくは無いし、火竜の牙のオークション結果が出るくらいまでは、滞在した方が良かったかなとか……今更思ったり。
……そんな私の考えを感じ取ったのか、ゴーガッツが豪快に笑って言う。
「ガッハハハ。心配いらないよ。体制の変更は済んでいる。前にも言ったがルーノが来る以前から考えていた事だ。ルーノが居なくなって崩れる様な事にはしないさ。もし、そうなるなら元から問題があったってだけだ。それにAランク不在に関しても、上に空きが出来れば我こそがって奴が出て来るものさ。このヴェダの街はなんだかんだ言って、野心溢れる奴等が集う街だからな」
なるほど。
そうだな……ドレイクバスターズが居なくても、私が居なくても、この街は回る。
私が居なければ……なんてのは自惚れだな。
それにゴーガッツなら、私が暴力の世界のトップに立つ様な柄でない事なんて、とっくに分かってるだろうしね。私が小物である事は見抜いているはずだ。
そう考えていると……。
「なあ、ルーノ。本当に強い奴ってのはな、世界が放っておいてくれないものだと俺は思うんだ」
ゴーガッツに、そう言葉を掛けられてドキリとする。
な、なんだよ? いきなり真顔マジトーンで……。
「この街はルーノには小さ過ぎるよな。何時かルーノの名前が世界に鳴り響く日を楽しみに待っているよ」
……。
まあ……ね。
言いたい事は分かるよ。
多分……いや、まず間違いなく私の力は世界レベルだろう。そんな力持つ者として……このまま小物で良い訳が無いよね。
では、どうするのか? と言っても今のところ何も浮かばないけど……。
それでも、力を持つ者としての自覚は持たないとね。
……持てるのかなぁ? 所詮、私は私な気もするけど……まあ、頑張ろ!
色々あったこのヴェダの街での滞在も長くなったけど、明日旅立つ予定だ。
因みに、預けておいたメタルミノタウルスの鼻輪は、やはり精霊鍛冶師でないと扱えないらしく返却された。正直完全に忘れていたよ。
ゴーガッツから西の方のラトニアという街に、専用化のスキルが使える鍛冶師が居ると言う情報を貰ったので、当面はその街を目標に旅をしようと思う。
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