第154話 本当の初めて
「戻ったかルーノ……何かあったのか?」
「……ええ……まあ」
ヴェダダンジョンのボス戦はアッサリと終わった。
ドロップ品の火竜の牙とダンジョン報酬を入手して街に戻り、ゴーガッツに面会する。ゴーガッツはすぐに私の様子がおかしい事に気が付いた様だ。
というか、やっぱり私の様子はおかしく感じさせるのか……。
ドレイクバスターズとは同意の上の決闘だった訳だし、今までと違って落ち込むようなことは無いと思ってたんだけどな。
何とも言えない気分なのは確かだけどね……。
「これを」
机の上にスリストの魔剣とドレイクバスターズ四人の冒険者証を置く。
それを見たゴーガッツは一瞬目を見開き、そして大きく息を吐く。すぐに事情を察した様だ。
「……そういう事か……すまん。俺では止められなかったな」
「いえ、結局私自身でケジメ付けなきゃいけなかったんです」
「こういう決着しか無かったのかよ……全く……」
「……すみません」
「……あ、いやいや、ルーノに言った訳じゃない。ルーノから仕掛けた訳じゃないだろ? あいつ等にはこれ以上何もしたくないって言ってたしな」
「ですが結局、彼等の決闘の申し込みを受けて立ちました」
「結局って言うなら、結局ドレイクバスターズは何時かはこうなる運命だったんだよ。どんな相手にでも立ち向かうという信念と矜持は立派だが、そんなの続けてたら何時かはな……その何時かがルーノだっただけだ」
「それはまあ……確かに。終わらせた私が言うのも何ですが……彼等、よく今まで無事でしたね」
「いくらなんでも最初からあんな感じだった訳じゃないさ。それに全く無事だった訳でも無いな。あいつ等当初は五人組のパーティーだったからな。あんな風になったのはメンバーを一人亡くしてからだな」
目を閉じて思い出す様に、ゴーガッツは語り始める。
「あいつ等は同じ村の出身でな。畑を継げない農家の次男三男の幼馴染で結成された……よくあるパーティーの一つだったよ。その男四人に「心配だから」と付いて来た同じ村の女一人の五人パーティーだった。女の名前はメアリーという名で、美人ではないが愛嬌のある話しやすい子でな。男四人は皆、メアリーに恋してやがったな」
「男四人が一人の女性にですか? よくパーティーが崩壊しませんでしたね」
「メアリーに依存してたからだろうな。男四人共、口下手で引っ込み思案だったから、メアリーが居ないと駄目駄目なパーティーだったよ」
「……ん? ……あれ? 彼等が引っ込み思案? いや、スリストさんが居るじゃないですか。他の三人は確かにあまり喋らない感じでしたけど」
「くっくっくっ。最近のスリストしか知らないルーノならそう思うよな。実は男四人の中ではスリストが一番酷かったよ。何時も俯いてて下向いてモゴモゴしててよ。メアリーの通訳がなきゃ、何を言ってるか分かんねぇのよ」
……え?
マジで?
威風堂々と話してた、あのスリストが?
他の三人もあまり喋らなかったが、その態度は堂々と、そして泰然としてて……昔は引っ込み思案だったと言われても……いや、想像できませんて。
「他の冒険者達に揶揄われながらも着実に力を付けていっていたが、Bランクの壁にぶち当たってな。Bランクの壁の洗礼を受けて……あいつ等はメアリーを亡くした」
「……」
「メアリーを失った当時のあいつ等の心境は分からん。だが、それからだよ。あいつ等があんな風になったのはな。まあ、腐って何もしなくなるよりかは良かったのかもしれんが……引っ込み思案だった反動なのか尖り過ぎてな。今まで揶揄ってた奴等をぶちのめし、Bランクの壁を乗り越え、遂にはドレイクまで倒しやがった」
そう言ってゴーガッツは私をちらりと見る。
なんでそこで私を見るんですかね?
私の例の暴れっぷりも、引っ込み思案な人間が溜め込んでた何かを爆発させた類だと思っているのか?
私のとは違うでしょう。
……全く違うって訳でもないのかもしれないけど。
「……長くなっちまったな。俺もあまりに危ういんで、ドレイクバスターズには時には引くことも大事だと訴えてはいたんだがな。聞きゃしなかったよ。つまりあいつ等は所詮そこまでの器だった……て事さ。本当に死ぬまで突っ走りやがって……あの阿呆共め」
そう言って虚空を見つめて溜息を吐くゴーガッツ。
言葉では辛辣な事を言っているが、私には彼等を悼んでいる様に思える。
……そうか。
ドレイクバスターズにも歴史あり。
今の話を聞いて、彼等に親近感を感じてしまった。生まれながらに気の強い、私とは別人種なんだと思ってたよ。
自分が殺した相手だっていうのに……今になってさ。
それが良いのか悪いのか……分かんないや。
今になって吐き気がする。
私が人を殺したのは今回が初めてでは無い。初めてでは無いが……。
こうして、殺した相手にも歩んできた人生が有ったのだと、そしてそれを終わらせたのは自分だと、実感するのは……初めてだ。
私は……今回、本当の意味で……初めて人を殺してしまったのかもしれない。
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