第153話 決闘

「ちぃ……流石だな。気が付きやがったか。魔力が漂わない鞘に魔剣を収めてたのによ」

「……」


 曲がり角から剣士でリーダーのスリスト、盾士のダムザード、魔術師のロンディア、斥候のネクトの四人が姿を現す。


「私に何の用でしょう?」

「おいおい。事ここに至って、そんな無粋な事言うんじゃねえよ。用向きなんて決まってる。喧嘩の続きをしようじゃないか」

「……」

「奇襲には失敗したがそれはそれで良い。正面から堂々とやり合ってやるぜ」

「……」

「この期に及んでまだ俺達の売った喧嘩を買わないって言うのなら、そのまま俺達に殺されやがれ!」


 四人が武器を構える。

 やる気満々だ。

 ……参ったね。


 ゴーガッツよ……「アイツらの事は俺に任せてくれ」って言ってたじゃん。どうしてこうなってるんだよ?

 

 ……いや、今のこの状況は、私がつまらない意地を張った事による結果だ。

 他人に尻拭いして貰う事ではない。

 私の手で……決着を付けよう。


「……良いでしょう。その喧嘩買います。全力でお相手しましょう」

「へっ……ハハッ。フハハハハハ! やっとその気になったか!」

「ただ、その前に一つ良いですかね?」

「なんだ?」

「私が全力を出せば、四人共、死体も身に着けてる物も欠片も残らないでしょう。なので冒険者証だけでも置いておいてくれませんか? 共同墓地に納めて供養くらいはさせて貰いますよ」

「……ふん。ルーノが勝つ前提で話しているのが気に食わねえが、それで本気でやり合えるって言うのなら良いだろう」


 四人が冒険者証を外してスリストの持っていたバッグに纏めて入れている。マジックバッグか?

 そしてスリストはそのバッグを奥の階段のある方へ投げる。


「あのマジックバッグの中に俺達全員の冒険者証を入れた。ルーノが勝てばバッグごと全部くれてやるよ。その代わりルーノも冒険者証と手持ちの物を全部置いておきな。お前をぶち殺した後に全部貰ってやるよ」

「分かりました」


 全部は無理だが、大きい袋にありったけの白金貨や金貨を入れた状態で異空間倉庫から取り出す。

 更に……。


「「「「――!」」」」

「お……おいおい。それって……」

「光の魔剣? ……いや、まさか!?」


【『聖剣ルーノ』は活性化中です。あなたはこの聖剣の使用条件を満たしておりません】


 光り輝く聖剣を取り出す。

 手に入れて以降、久しぶりに手に取ったけど、やはり私には使えないのね。


「とあるダンジョンで手に入れた聖剣です。私には使えないんですけどね。私に勝てばこの聖剣はドレイクバスターズの物です」


 そう言って白金貨入りの袋に冒険者証を入れ、聖剣と共に自分の後方に置く。


「ヒャハハハハハ! ルーノ! お前を倒せば俺も聖剣持ちかよ! 良いねぇ! ルーノが聖剣使いでは無いのが、ちぃと残念ではあるが、倒しがいのある奴で嬉しいぜぇ!」

「散々舐めてくれた礼を……」

「あの屈辱を……晴らしてくれん」

「よし、お前等!」

「「「おう!」」」


 四人は赤い薬瓶を取り出し、一気に中身を飲み干す。

 加速薬か?

 加速薬――それを飲めば一時的にゾーン状態になり、身体能力も飛躍的に高まる劇薬。代償として効果が切れれば凄まじい疲労感が襲い掛かり、寿命も縮むと言われている。

 四人の体を薄っすらと魔力が覆うのが見える。加速薬の効果だろう。


 寿命を縮める程の捨て身の覚悟で来るか。

 私も彼等には本当に全力で相手をしよう。

 身体全体に遠慮無しの魔力を纏う。


「「「「――なっ!?」」」」


 禍々しい深緑の腐のオーラが私を覆う。

 流石のドレイクバスターズの四人も、その禍々しさに驚愕している。


「見た事が無い……スキル……なのか?」

「よく分からんが……」

「あれは……やばいぞ」

「……ははっ……ルーノよ。お前、実は魔王とかだったりすんのかよ?」

「そんな立派なものでは無いですよ。まあ、人間では無いですがね。ただのレッサーデビルですよ」


 もう殺し合いは確定してる。隠す必要が無いのでぶっちゃける。

 こいつ等相手には隠し事無しで立ち会うのが、せめてもの礼儀と思う。


「……人間じゃなくて悪魔だと? あの聖剣も真の勇者を倒して奪った物なのか?」

「はい? ダンジョン報酬で手に入れただけですよ。これから死に逝く者に嘘なんて付きませんよ」

「また、勝つ前提で……」

「なんたる屈辱……」

「魔王だろうが許さん」

「ルーノ。お前を倒し、魔王を倒した者として、聖剣を手にした者として、真の勇者として名を馳せてやるぜ!」


 いや、どういう解釈してるんだよ。

 死を覚悟した戦いを前に昂ってるのか?


「決闘だ! 魔王ルーノよ!」


 魔王じゃねぇよ。

 とはいえ、もういちいち突っ込む雰囲気では無いな。


「では始めましょうか」

「「「「おう!」」」」


 掛け声と同時にダムザードが先頭で迫ってくる。

 それに対して私は一瞬で距離を詰め、ダムザードの構えた大盾ごと腐のオーラを纏った腕で殴る。

 

「――っごふぉ!」

「「「――!」」」


 大盾を貫き体まで到達した腐攻撃で腐りながら吹っ飛ぶダムザード。黒い塵となって散る。

 

「うぉおお!」


 ネクトが放った矢を払うとと同時に、スリストが魔剣を投擲してくる。

 ダムザードの死に様を見て、私の纏う腐のオーラに直接触れるのは危険と即座に判断した様だ。決断の早さと魔剣を投擲する思い切りの良さ。流石だ。

 飛んでくる魔剣を避けつつ、二射目を構えるネクトに向けてダッシュ。

 矢を番えようとしていたネクトは反応する事が出来ず、私の腐攻撃の直撃を受けて吹っ飛びながら黒い塵となって散る。


「ロォオォン!」


 武器を投げたスリストは武器を拾う事無く、姿勢を低くして私に突っ込んで来る。

 ロンディアの魔法を私に当てる為に、私に組み付いて動きを止めんとする特攻か?

 腐のオーラを纏う今の私に組み付けばどうなるか……もう理解してるだろうに……。


 突っ込んで来るスリストに私も突っ込む。

 私と衝突し私に組み付かんとしたスリストは……一瞬でも私の動きを止めれる事無く、衝突の衝撃で爆散し、腐のオーラを受けて腐り黒い塵となって散る。

 その勢いのまま、魔法の詠唱をしているロンディアとの距離を詰める。

 仲間を信じて詠唱に集中していたのか、私が早過ぎるのか、ロンディアもまた私の攻撃に全く反応出来ずに腐攻撃を受けて黒い塵となって散る。


「……」


 初めての決闘は……十秒足らずで終わった。


 ……ままならないものだね。


 ドレイクバスターズを殺したくは無かった……いや、今更こんな事を考えるのは無粋だな。

 殺さずに打ちのめしてボス部屋に行く事も、そのまま逃げる事も可能だった。

 だけどそれは彼等に対して、やっちゃいけない気がしたんだよね。

 彼等の事は私の初めての、誇り高き決闘相手として、心に刻んでおこう。

 それが彼等に対する供養になるのかは分からないけど……。


 私の置いた聖剣と白金貨と金貨の入った袋、そしてスリストの置いたマジックバッグとスリストが投擲した事によって残った魔剣を回収する。

 そしてドレイクバスターズとの決闘跡に向かって手を合わせて彼等の冥福を祈り、ボス部屋へと向かった。

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