第151話 スキルの宝珠探し

「姉貴! こっちだぜ!」

「……どうも」


 今日は市場にスキルの宝珠を探しに来ている。

 スキルの宝珠はダンジョンの宝箱からしか出ないので、ダンジョン都市なら種類が豊富なはず……と思っていたのだけど、当てが外れていた。

 というのも、ゴーガッツ曰く「逆にダンジョン都市だからこそ、権力者やお金持ちが有用なスキルの宝珠を買い漁りに来てるんだ。だから碌なのが残ってないぞ」との事。有用なスキルの宝珠は獲得者が使ってしまうか、売ってしまうか、ギルドに納品されても権力者やお金持ちが予約していてすぐに買い上げてしまう為、市場にはハズレしか出回らないらしい。

 それでもダンジョン攻略はおそらく次がラストになるので、この機会にスキルの宝珠を売っている場所を探しに来たのだ。

 今までは鍛冶屋に行ったり、資料室での調べものや物資調達、凪原旅団との日程合わせの必要があったので、ゆっくり探せなかったんだよね。


 そうしてスキルの宝珠を探していたら、グラッツが現れて勝手に案内し始めやがってる所である。

 なんなの? ストーカー?

 私に嫌がらせしてくれてた時も、妙に私の動向を把握してたよな?

 おそらく街中の浮浪者達に小銭を握らせて、私の情報を得てるのだろうけど。

 ……鬱陶しいなぁ。

 私の器量の小ささも有るけど、実際コイツが私にした事はかなり質が悪かったぞ。

 話は付いてるし謹慎してけじめも付けた以上、あの一件を蒸し返してグダグダ言うつもりは無いが、だからといっていけしゃあしゃあと、私に親し気にしてくる神経が分からん。

 こういう相手を甚振って悦に浸るタイプの人間って、自分に都合の悪い事や自分が行った酷い事に関しての、許される基準が低すぎる気がするんだよね。それがなんか頭に来るんだよな。

 ……と、私がそんな事を考えてるとは一切考えてないであろうグラッツが、一軒のお店を案内してくれた。


「……これは……普通に探していたら、見つけられなかったですね」

「余りモンしか市場には流通しないからな。物好きな奴しか扱わないんだよ。ここ以外だとガラクタ扱ってる露店にある位だな」


 確か、ゴーガッツに聞いても「露店くらいにしか置いて無いだろうし、偽物も多いからあまり勧られない」との事だった。

 グラッツに案内された店は、なんとも怪しげな雑貨屋。看板なんて無い資材置き場の様な建物だ。一人で探してたら絶対に入らないであろう外観だ。というか、お店に見えん。

 こういう裏通りにある様な隠れ家的な店に関しては、ゴーガッツよりグラッツの方が詳しい訳か。


 店の中に入る。

 埃っぽくてカビ臭くて、訳の分からない物が多い。天井から乾燥させてると思われるナニカの草とか尻尾とか干物が沢山ぶら下がってる。


「……グラッツか。今日はその娘を売りに来たのか?」

「馬鹿な事言うな! 姉貴に失礼だぞ!」


 店の奥から片目の潰れた男が現れた。元冒険者なのだろうか……中々にガタイが良く、目が普通なら今でも冒険者やってそうな感じだ。


「そのピンク髪にその恰好……では嬢ちゃんが、あのルーノさんかい?」

「あのルーノ……と言うのがどういう意味なのか少し気になりますが、ルーノと言います。今日はスキルの宝珠を探しに来ました」

「ほう」

「姉貴相手に偽物出したり、ぼったくろうとしたり、嘘を付くんじゃねえぞ。俺がちゃんと見てるからな」

「分かった。分かってるよ。こっちとしてもドレイクバスターズをぶっ飛ばす様な冒険者に下手な真似しねぇよ」

「ハンッ。強さと見る目は違うとか、よく言ってるくせによ」


 グラッツが私の為に取ったまともな行動に、イラっと来てしまう。


 何故だろう?


 ……あ~……そうか……自分が気にくわない奴が、まともである事にイラっと来てる。つまり気にくわない相手が、自分の望むような悪で無い事が、気に入らない心理状況になってるのかな?

 ……それって私が忌み嫌う、自分を正当化する為に私を悪役になる様に、好き勝手話を作ってくれた、被害者面する加害者達と似た様な思考になってないか?

 あ~ヤダヤダ。

 そういう卑怯者達と同じ……それだけは嫌だ。


 モヤモヤ気分で店員の後に付いていく。

 そして奥の部屋に入ると、そこには膨大な数のスキルの宝珠が乱雑に積まれていた。


「この倉庫の中は全部スキルの宝珠だ。種類でいうと千種類は有るんじゃねえか?」


 千種類!?

 それだけあると一つ一つ確認するのは厳しいな。

 プルトの町でも確か、ダイス(二)、ダイス(三)、回転、墨、打撲拷問、ガラス音、苔、蝶寄せ、肥やし、泡立て……そんなラインナップだったな。

 何に使えるのか分からない物が多いが、打撲拷問みたいな私にとっての当たりが有ったりするから侮れない。

 そして乱雑に積まれたスキルの宝珠を見ていく。


 蕾、結晶、塩抜き、霧吹き、弦、栞、硯、ボタン、張力……。


 うーん、今の所の何かに使えそうなのは……塩抜きとか……使えるか? 何に使うのか現状思い付かないけど。

 蕾とか、そもそもどんなスキルなんだよ。

 効果がよく分からないのが沢山有るのに、更に千種類も有るとなると、やはり全部見るのは厳しいなぁ。


「異空間倉庫の様に効果は凄いけど、魔力消費が多すぎて役に立たない類のは無いですか? 鑑定ぽいのとか転移ぽいのとか」


 店員に聞いてみる。


「うーん、異空間倉庫がそれだな」

「もう異空間倉庫は覚えてます」

「そういう類のはそんなに思い当たらないな」


 まあ見る限り、使い道その物がよく分からない物ばかりだもんね。


「因みに異空間倉庫のスキルの宝珠ってお値段いくらですか?」

「ハズレスキルだから金貨一枚だな」


 ……ほほう。プルトの町で私は金貨百枚で買ったのに、ここでは一枚で売ると。


「因みに再生のスキルの宝珠だと?」

「それは有用なスキルの宝珠になるからな。権力者やお金持ちがすぐに買いにくるぜ。持っているなら単体でも金貨千枚で買い取るぜ」


 ……ほほほほう。プルトの町で私は金貨十枚で売ったのに、ここでは千枚で買うと。


 おのれ、プルトの町の露店商め。どんだけぼったくってくれたんだ。ある程度勉強料としてぼったくられるのは容認していたつもりだったけど、百倍は度を過ぎてるぞ。今度見かけたらタダでは済まさん。

 もう顔も覚えていないが……。


 私が怒りに震えていると、店員が一つの宝珠を見せて来る。


「思い当たるのが一つあった。この種作成なんかどうだ?」

「えっと……種作成?」

「自身の記憶にある植物の種を、魔力で創造するスキルだ」

「おおお……凄……い?」

「やっぱ微妙だよな。植物に対して正確な知識が有れば有る程、種作成に必要な消費魔力が減るらしいが、それでも一般的な農民が普段扱ってる作物の種を作成するのも不可能な位に魔力消費が大きいらしい。なんとか作成しても種一つだしな」

「それ、ください」

「何に使うんだ? この辺の作物の種も珍しくなる様な遠くに行けば価値が出るかもしれんが種一つではな……そもそも使えるのか? 農業をやってるようには見えないが」

「魔力ゴリ押しでなんとかなる……かも?」

「伊達にハズレスキル扱いされてない。そんな甘くないぞ? まあ買うって言うなら売るけどよ」


 私はそこまで植物に詳しい訳では無いが、魔力ゴリ押しであらゆる種を作成出来ると思う。それこそ前世の作物の種でも。前世で人間関係が怖くなって、脱サラして農業やろうと(農業に逃げようと)した事があるから、少し農作物の事は調べたりした事は有るんだよね。実際はそんな逃げの性根で出来る様な甘いものでは無かったが。

 現時点では使い道が思いつかないけど、いつか現代チートが出来るかもと思い、購入する事にした。といっても検証するのにも、何処かの土地に落ち着かないと出来ないし、使う事は当面は無いだろうけど。

 もし……使うとしたら悪魔バレした結果、誰も居ない土地に逃げた後の自給自足の為になるかもね……。


 他にはめぼしい物は見つけられず、『種作成』のスキルを覚えて店を出る。


「今日はありがとうございました。これで一杯やって下さい」

「お、これって王都のワインじゃねえか! 最近、中々手に入らないからありがてぇ!」


 案内してもらったグラッツには、プルトの町で買っていたお酒をお礼に渡した。

 グラッツの案内が無ければ店を見つけれなかっただろうし、グラッツの仲介が無ければ、店員の対応も違った物になった可能性も有っただろうしね。一応、前回もナンパ避けで世話になった訳だし。

 正直、心の狭い私としては未だにグラッツを許しきれていない所が有るのだが、それはそれとして世話になった事へのお礼はしないとね。


 ……関わらないのが、一番な気がするんだけどね。


 こういう私の半端で優柔不断な所は死んでも変わらないな。

 まあ、明日からダンジョン攻略再開。そしてそのままダンジョンクリア予定だ。

 その後この街を去れば、グラッツと関わる事も無いしね。

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