第150話 遂に肩書を持たない流れ者を卒業
翌日、冒険者ギルドの資料室に来ている。
遂に正式に冒険者ランクがEランク……を飛び越えて一気にCランクになったので講習を受ける為だ。
ダンジョンのCランク帯を突破した上に『サイクロプスの目玉』の収集クエストを数十件分達成したので、ゴーガッツ曰く「特別扱いでは無く一般的な評価基準でもCランク」との事だ。
冒険者ランクはG、Fは見習いもしくはアルバイト的なポジション。Eランクからが本格的に冒険者として扱われるし、ギルド証も金属製になって身分証明として使えるようになるのだ。またギルドに預金出来たりする。その街のギルドでしか預金出来ないけどね。
Eランクになった冒険者には、そういった説明を行う講習がされるのだ。
これまでずっとEランクを目指しながらずっとGランクのままだったんだよね……。
ルタの村では依頼が無くて、リーアムでは吸血鬼騒ぎがあって、スレナグでは違法奴隷商に目を付けられて、尽くEランクどころかFランクになる前に移動してきた。
何気に遠かったEランクをいきなりすっ飛ばしてCランク。なるときはアッサリなもんだね……。
「ところで講師はギルドマスターがやるんですか?」
「……職員は皆、ルーノにビビってるからな」
「……」
と言う訳で、私の講習の講師はゴーガッツである。
ギルドマスターにこんな基本的な事させてスマン。
まあ、私の講師を務める事によって彼は『気難しくて暴れ出したらAランク冒険者でも手に負えない超危険人物を御せる唯一の存在』という立場を強固に出来る訳だ。ぐぬぬ。
「さて、冒険者ギルド証が身分証明になる事。再発行にはお金が掛かる事。ギルドにお金が預けられる事。この辺はもう知ってるな?」
「はい」
「預金を引き出すことが可能なのは預けたギルドのみ。預金に関してはCランクだと五年の預かり期間が有る。五年間音信不通になると預金はギルドの物になるから気を付けてくれ」
「分かりました」
「Eランク講習は以上だ」
「これだけですか!?」
「ルーノは読み書き計算なんかの教養はあるからこんなもんさ。Eランクになっても読み書き出来ない奴等の場合には、依頼書の簡単な区別の仕方とかを教えてるけどな」
「そういうのはEランクになる前に……というのは労力的に無理ですよね」
「うむ。せめてEランクになる位の奴等でなければ、ギルドもそこまで手を掛けれないな。これは何処のギルドでも同じだよ」
「それはそうですね」
「GやFランクの読み書き計算の出来ない奴等は、出来る奴に教えて貰うか、受付に聞くことになる。それが最近の人の多さ故に疎かになってたんだよな」
「手間の掛かる人をつい敬遠しちゃうのは理解出来ます」
ギルドも慈善事業では無い。
読み書き出来ずに手間の掛かる新人より、手間の掛からない出来る新人の方を優先するとかは、どうしてもあるだろう。
ある意味では差別だが、かといって出来ない奴ばかりに時間掛けるのもまた、別の意味で出来る奴に対する差別になってしまう。
何を基準にするかで変わるし『皆平等』なんて永遠の理想をギルドに強要する気は無い。
「まあ、私は読み書き計算出来ても、まともな対応をされなかったんですけどね」
「むぐう……す、すまない」
能力差や立場の強さの違いが存在する以上は、ある程度の差別が発生するのはどうしても無くならないだろう。
ただ、私の件は罪の捏造レベルだったからね。流石にある程度の範疇を越えていた。それを良かれとするかどうかは別だ。
ギルド職員までもが、見て見ぬ振りどころか結託してたからね。
周りの冒険者達も当然って感じだったし、ドレイクバスターズだって「それは弱者の悩みであって、強者であるルーノには関係無いだろ」って感じだったからな。
だけど、ゴーガッツは私の要望(脅迫?)を聞いた形とはいえ、体制を変えたい状況だったとはいえ、良かれとしなかった。
そこはゴーガッツに感謝してる。
「Eランク講習は終わりだが、Cランクになったルーノには続いてBランク以上に関する説明もさせてもらう」
「はい、お願いします」
「Bランクからは預金を他のギルドで引き出すことが可能になるし、他にもCランクとは別格の特典を受けられるようになるが、王都で試験を受けて貰う事になる。試験を受けるにはギルドマスターの推薦状が必要だ。ルーノになら推薦状を出すけど、どうする?」
「確かBランク冒険者からは、国やギルドに個人情報を管理されるのですよね?」
「その通りだ。だからこそCランクまでとは信用度が違う。預金を他のギルドで引き出せるなんて、それくらいの信用がなければ不可能だしな」
つまり……個人情報を調べられると言う事。
具体的にどう管理、調査されるのか分からないけど、鑑定されるのは確定だ。
それは私の悪魔バレを意味する。無理だ。
「国やギルドに縛られたくないのですよね~」
と、言っておこう。
どうせ不老種な私は、ずっと同じ場所に居れないしね。
「そうか。分かった」
「……あまり、Bランクになる様に勧めて来ないのですね」
「ルーノには複雑な事情が有るんだろ? 実家に居場所を知られたくないとかさ」
「……」
「ああ、詮索するつもりは無いよ。ただ例えば出奔した貴族子弟なんかが、そういった理由でBランク以上の実力が有ってもCランクに留まっている、なんてのは珍しくは無い……とまでは言わないが、無い訳では無いんだよ」
「なるほどです」
「それよりも多いのが後ろ暗い過去を持つ奴――犯罪系の称号を持ってる奴だな」
「ああ……それはそうでしょうね。ということは、Bランク以上の実力を持ちながらCランクに留まってると、そういう類と思われる事も有るのですね」
「まあな。だけどルーノなら訳有り貴族なんだな、と思われるだろうよ」
「そんなに私は貴族令嬢に見えますかね?」
貴族オーラ的なものは私から出てないと思うんだけどね。
町娘の格好をしたらワラワラ声掛けられたのも、普通ぽい格好なのに加えて、私に貴族的な雰囲気が無い事も有るのではと思う。
「見た目もだが、話した印象として犯罪を犯すタイプでは無いのは分かるからな」
ふむん、そうなのか。
まあ、私は自分を善人とは思わないが、それ以上に犯罪を犯す様な度胸が無いからね。
ともかく、私以外にも鑑定されたくない……というか個人情報を把握されたくない冒険者は一定数居るというのは私にとって好都合だ。
それなら私がCランクで留まっていても、極端に不自然ではないみたいで安心だ。
そしてゴーガッツから特殊な金属で出来たギルド証を受け取り、私はようやく……ようやく、正式な冒険者となった。
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