第149話 ゴーガッツという男

「これで凪原旅団の皆さんは依頼完了ですね。お世話になりました」

「はい。お陰で俺達もここの転移陣を使えるようになりました」

「ルーノさんの強さのお陰ですね」

「こちらこそ凪原旅団の皆さんのお陰で、順調にここまで来れました。ありがとうございます」


 三剣岳ダンジョンの時とほぼ同じペースではあるが、あそこは私以外誰も居ないから、自由に全力出せたっていうのもあるからね。

 三剣岳ダンジョンでは基本的にずっと走ってたし。このダンジョンで同じ事をやると異常だろう。

 他のパーティーの目もあるこのダンジョンでの案内は助かった。

 色々教えて貰ったしね。


 入り口の転移陣に戻ってきて共にギルドへ向かう。


「では私はギルドマスターに報告してきますね」

「はい。俺達も受付に報告してきます」

「それでは、また機会が有ればご一緒してください」

「ははは……俺達ではルーノさんと強さが釣り合いませんよ」


 まあ……それはそうだね。

 ただ、彼等は気の良い親しみやすいパーティーだった。突っ込んだ詮索もしてこないし、また一時的に組んでも良いと思える。

 ゴーガッツが私を刺激しない様なパーティーを選んだんだろうけどさ。


 ギルドマスターの執務室に入り、ゴーガッツと面会する。


「おおおおお! サイクロプスの目玉をこんなに! 流石だな。感謝する」

「リヴァルさんの索敵のお陰ですよ」

「それでも目玉を残す様に倒すのは、Bランクでも中々に難しいんだぞ」

「確かに頭に衝撃が伝わらない様に倒す力の入れ方には工夫が必要でしたね。最初の方は目玉ごと吹き飛ばしてしまって大変でした」

「……そういう発言が出てくるあたり、やはりルーノは別格だな」


 まあ、所詮Cランクだしね。

 ……と言いつつも多分、Aランクの魔物相手でも、ほぼ同じ事が出来る気がする。

 

「領主様からせっつかれてたからな。これで領主様にも面目が立つ。助かるよ」

「領主様にも喜んで頂けるのなら良かったです」

「領主様も、ルーノのお陰で体制の変更が一気に進んだと仰っていたぞ」

「私は以前の体制をそこまで知らないのですけどね。そんなに一気に進めて良いのでしょうかね?」

「むしろ、こういうのは少しづつ、という方が難しいからな。ルーノの恐ろしさは職人商人の間にも伝わっているからな。今が一気に事を進めるのに良いタイミングだ。前にも言ったが、元々以前から計画していたからな」

「冒険者の間で……なら分かりますけど、なんで職人商人に私の事が? というか、恐ろしさ? あの一件以来、私は大人しくしているはずですが」

「堅物で有名な工房の親方を相手に、文字通り大地を揺るがし震撼させて我を通したとか、雑貨屋で通達を無視した古参冒険者をぶっ飛ばしたとか、最近では冒険者の間だけでなく、一般市民の間でもルーノの話が鳴り響いているぞ」

「……」


 ……それ……ゴーガッツが広めたんじゃね?

 その方が、ゴーガッツや領主様がやり易いだろうし。

 

 ……しかし、このゴーガッツと言う男。

 当初は頼りない印象だったけど、なんだかんだ言って優秀な男なんだよなぁ。

 まあ、ダンジョン都市の冒険者ギルドなんて花形部署だろうからね。そこのギルドマスターが無能な訳が無いか。

 私と交わした約束通りにギルドによる主導で、新人だからと言って差別を受ける事のない様に取り組んでる。

 受付では新人冒険者と思われる人達相手に、ちゃんと対応してる受付の姿が見られるし、街中のお店でもそういう傾向が見られ始めてる気がする。こっちは領主様の働きも有るだろうけどね。

 もっとも、それらの取り組みはギルドの権限が強くなる様な形で……な気がするけどね。まあ、それは私が実行してるのでなく、ギルドが実行してるのだから、そういう方向に行くのは当然なのだろう。

 そしてなによりゴーガッツ自身の権威が、ここ最近明らかに強くなってる気がする。気難しくて暴れ出したらAランク冒険者でも手に負えない超危険人物(真に遺憾ながら私の事)を御せる唯一の存在として、皆に頼られているのだ。ぐぬぬ。

 おそらくそれも、自然とそうなったのではなく、そうなる様にゴーガッツが立ち回ってるんだろうね。


 まあ、それはそれで良いかな。

 私は小物だし、自発的な人間でもない。せっかく強大な力を手にしても持て余してる。手にした力を以って何かを成そうという気概も無い。

 それなら、優秀な人間に上手く利用されてる方が、世間に貢献出来るのだろう。


 それに本当の思惑はともかく、ゴーガッツはある意味、私の理解者でもあるんだよね。

 あの私が大暴れした時、彼は当初、私と交渉しようと思ってたみたいだけど、すぐに私が何に対して怒っているかの理解に努め、誠実な謝罪に転じた。

 あの時の私は『泣き寝入りして後悔する位なら悪魔バレして後悔してやる』という、身の破滅も厭わない相当に面倒で危険な思考状態だった。利を求めていた訳でも無いし、穏便に事を済ます気は微塵も無かった。

 そんな私に『交渉』に努めていたら、おそらくドレイクバスターズの時と同様に、碌な事にはならなかっただろうね。

 私が何に対して怒っているかの理解に努め、その対策を実行してくれてる。

 方針の転換をしたかったからというのもあるし、そのやり方も私の威を借りてギルドの権限強化に利用してる所があるみたいだけど……本当の思惑はどうあれ、ゴーガッツだけが私の理解者であった。


「いよいよBランク帯、そしてダンジョンボスのドレイクだな。ルーノなら余裕が有りそうだし、また不足気味の素材収集を依頼して良いだろうか? 勿論、可能な限りで良い」

「どんな内容ですか?」

「集めて欲しいのはサラマンダーの角だ。パターンとしてはサイクロプスと同じだよ。角が炎を発生させる器官だから、角を折るなり水で鎮火させれば比較的楽に倒せるんだが、それをやると角をドロップしない。角を傷付けない様に倒すにはサラマンダーが常に身に纏ってる炎が厄介でな」

「そういうパターンでしたら私でも対応可能ですね。分かりました。なるべく角を集めておきます」

「おお! 頼もしいな。頼むよ」


 ゴーガッツが私に便宜を図ってくれる様になって以降、この街での活動は本当に快適だし情報も沢山手に入ってる。

 ギブアンドテイク。

 この街で活動してる間は、彼の為に働くとしますかね。

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