第148話 ポールメイス「やっと出番か」
ヴェダダンジョン攻略も既に四週目である。
今日から三十一階層で出現する魔物がCランクになる所謂Cランク帯に入る。
「それでは打ち合わせ通り、この階層からの戦闘はルーノさんメインでお願いします。案内と索敵は引き続きこちらで行いますので」
「分かりました」
Cランク帯からは私がメインで戦う。
凪原旅団もCランクパーティーなのでCランクの魔物と戦えるが、魔物の構成によっては時間が掛かるし勝てない場合もある。
「それとギルドマスターからの依頼ですね」
「ですね」
加えて今回、私と凪原旅団は冒険者ギルドマスターのゴーガッツから、とある依頼を受けている。
それは『サイクロプスの目玉』の採取である。
「Cランクモンスターのサイクロプスはパワーとタフさに関してはBランク級です。もっとも動きは単調ですし、弱点もハッキリしてますので、倒す事自体はそこまで難しくは無いのですが……」
「弱点の目を攻撃して倒すと、肝心の『目玉』をドロップしないんですよね」
「そうなんですよ」
ダンジョンという不思議空間に存在する魔物は、外に居る魔物とは違って倒せばすぐに死体がダンジョンに吸収されてしまう。
ダンジョンの仕組みは厳密には誰にも分からないのだが、ダンジョンを構成している地脈からの魔力によって生み出された魔物なので、倒せば魔力に戻ってしまうと考えられている。
そしてダンジョン内の魔物のもう一つの特徴として、特定のドロップ品を落とす。
これは各ダンジョンによって固定らしく、このヴェダのダンジョンとは別のダンジョンのサイクロプスは『目玉』ではなく『牙』をドロップしたりするそうだ。
更にドロップする条件があるらしく、ここのサイクロプスの目玉を攻撃して倒したら、目玉をドロップしないそうだ。
厳密には目玉に損傷を与えたらドロップしなくなる。例えば火魔法で体全体を焼き尽くしたら目玉をドロップしない。
「弱点である目玉を攻撃して倒したら、ドロップ品が無いので旨味が無いのですよね」
「だからといって、弱点攻撃無しで倒そうとするにはタフ過ぎるんです。動きが単調とはいえ、狭い通路では逃げ場が少なくて事故が怖いですしね」
「でも、サイクロプスのドロップで一番価値が有るのが目玉なんですよね?」
「その通りなのですが、危険を冒す程の価値は無いですね。弱点攻撃無しで狭いダンジョン通路で戦うのであれば、ほぼBランクの魔物相手にしてるのと同じレベルですし」
「そんな実力あるならBランク帯で狩りしますよね」
「一番価値が有る物をドロップするからといって、それが『当たり』とは限らない訳ですか……」
「そういう事になりますね。Cランクの俺達からすれば、目玉でなく牙をドロップしてくれた方がありがたいですね。要するに『ハズレ』です」
ルタの村のダンジョンのモノクロスパイダーもそんな感じだったな。
火を使えば厄介な糸も蜘蛛本体にも有効なのに、火を使うと肝心の高値で売れるドロップ品である糸玉を落とさない。
Dランクの魔物だけど火を使わずに倒す場合、Cランクレベル並みに厄介とされていた。
「とはいえ、ギルドマスターも可能であればと言ってましたし、移動優先で行きましょう」
「分かりました」
ダンジョンに入り、転移陣で三十階と三十一階の階段の踊り場に転移する。
そして今まで最後尾だった私が、今回から二番手を歩く。
先頭は今まで通り斥候のリヴァル。最後尾は私に変わってニクスが後方警戒だ。
ダンジョンを進む事しばらく……。
「……サイクロプス……この先に居ます」
「早速ですね」
ズンズンと足音が聞こえる。
「先程話した理由で、サイクロプスは放置されてる事が多いですからね」
「目玉は手に入らなくとも魔石は手に入るのでは?」
「サイクロプスは巨体なので基本一体で行動してます。事故の可能性も有るサイクロプス相手に時間をかけて、成果がCランクの魔石一個では割に合わないんですよ」
「なるほど」
このダンジョンはCランク帯までは冒険者が飽和状態で混雑気味なのだが、それでも放置される程に、サイクロプスは不人気なようだ。
「別の道を行きます」
「あ、最初に一体、試しに私が戦ってみて良いでしょうか?」
「……サイクロプスの目玉収集はあくまでサブクエスト。お言葉ですがメインクエストである移動の方を優先すべきかと」
「私がサイクロプス相手に手間取るようならその通りですね。でも私がサクッとサイクロプスを倒せるのならその方が移動も早いですし、ギルドマスターの依頼もこなせます。一度試す価値は有るかと」
「……そうですね。分かりました」
リヴァルが道を変えようとしたので、戦ってみようと提案する。
サイクロプスを避けなくて済むなら、むしろ移動が早くなるだろうしね。
「ウゴォォオオ!」
サイクロプスは体長四メートルはある巨人である。
一つ目に長い牙。手に持った棍棒……というか丸太を振りかざして襲ってくる。
「来ました。お願いします」
リヴァルが私の後ろへ引く。
「ルーノさんなら心配いらないと思います。お力拝見させてもらいます」
「サイクロプスは本当にタフです。動きは単調とはいえリーチも攻撃面積も広いです。お気を付けて!」
「はい」
これまでの魔物との戦闘は凪原旅団が効率的に殲滅し、背後からの奇襲を受ける事無く立ち回っていたので、私は今まで戦う機会が無かった。
何気にこれが、このダンジョンでの私の初めての戦闘となる。
かなり前から入手していながら、出番の無かった特注の黒鉄製ポールメイスに魔力を流す。
赤黒い光を放ち始めた所でポールメイスを構え、サイクロプスに向けてダッシュで懐に踏み込み、サイクロプスの腹を横殴り。
――ボシュッ!
「あ」
巨体を殴った音にしては、何処か軽いような……そして焦げ臭い匂いと共にサイクロプスが跡形もなく消滅した。
「「「「……は?」」」」
唖然とする凪原旅団四名。
「……」
……いや……だって……タフだタフだって言うからさ……。
まあ、タフって言っても……Cランク基準だしな。
私はAランクドラゴンを軽く殴って倒せるわけだし……その私が魔力込めた武器で割と本気で殴ったら、そりゃこうなるか。
「す、すみません。目玉ごと全て吹っ飛ばしてしまいました」
魔物の体全体を爆散させたら、魔石も残らないんだよね。
それからは、私が魔物を薙ぎ倒しながら進む。
魔物を避けて回り道する位なら、私が倒して進む方が早いのだ。
「ウゴォォオオ!」
「ほい」
「ゴパッ!」
サイクロプスの腹を、黒鉄製ポールメイスの尖った先端で貫く。
ライフリングの要領(大袈裟)で当てる時に捻ると貫通し易い。ブルースさん、良い仕事してくれたぜ。
工夫した結果、こうやって腹に穴をあけて倒せば魔石も肝心の目玉もドロップするのでこうしてる。
ドロップした目玉を異空間倉庫に収納する。後で纏めてマジックバッグに入れると言う事にしてる。
「凄まじいな……」
「強いと知ってたけど、これ程とは……」
「最初から戦闘全部ルーノさんに任せてりゃもっと早かったな……」
後ろで凪原旅団の面々がヒソヒソと呟いている。高いPERによって全部聞こえているけどね。もっと褒めてくれて良いんじゃよ。
まあ、確かに最初から私が戦闘を全部担当していれば、もっと早かったかもしれないね。
だけど、凪原旅団の戦い方を後ろから見るのは中々勉強になった。
厳密に言うと彼等の連携して戦う戦闘法は、ソロの私と違いが有り過ぎて参考にし難いが、Cランクの強さの基準を知れた。
他のパーティーの戦いを見る機会なんて、そうそう無いのだ。
「予定より早いペースです」
「そうですか。サイクロプスを狩れそうなら、多少寄り道しても良いでしょうかね?」
「分かりました」
「よろしくです」
当初はサイクロプス狩りに消極的だった斥候役のリヴァルも同意してくれた。
こうして十分な数のサイクロプスを討伐しながら、順調に四十階層と四十一階層の転移魔法陣まで辿り着いた。
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