第147話【閑話】妖魔バイアル1

 俺は妖魔バイアル。新たなる妖魔王となる者。


 三週間程前の勇者アレンとの遭遇。あの時はヤバかったぜ。

 アレンから逃げる為に、かなり無理して自爆気味に気功覇を使ったからな。気功をアレンにぶつけつつ、自分自身をその反動で吹き飛ばした。

 なんとか離脱出来たが、お陰でかなりのダメージを負ってしまった。

 仕方なく妖魔王の座を競うライバルである、呪霊王ドスバレルを頼って回復に専念する羽目になったぜ。

 だがようやく、完全に回復した所だ。


「バイアル。具合はどうかのぅ?」

「ケチチチチ。お陰で完全に回復したぜ。ドスバレルよ。一応感謝しといてやるぜ」

「感謝なんぞ要らんよ。契約は果たすんじゃぞ? まあ、果たさずしてアンデッドとなって、儂の配下となってくれても儂は構わんがのぅ」

「ケチチチチ。そりゃ御免だ。わーってるよ。礼の仕事はちゃんとやるぜ」

「なるべく歴史の有る血筋の貴族の娘が良いのぅ。多くの魔石無しの知る歴史が有る血筋程、呪いの効果対象が多くなるからのぅ」


 ドスバレルの世話になる対価に、仕事を契約させられてしまった。

 癪だがドスバレルの固有能力『呪契約』に反するのはやべぇ。冗談抜きで呪いでアンデッドにされちまう。


「わーってるっつーの。そんじゃラディエンス王国にでもちょっかい出すか。あの国結構長いだろ? それにあの国のディスロヴァスの拠点も探してみたいしよ。まだ残ってりゃ良いがな」

「この町に影響が出ない様、東側で頼むわい。それともし、ディスロヴァスの死体が残っておれば欲しいのぅ」

「残ってる可能性、有るのか? 魔石無しの間で騒ぎになってる事件、全部ディスロヴァスの奴の憑依体だろ? 並列思考スキル絡みの実験での自爆だろうな。ケチチチチ」

「そんな迂闊な失敗をする奴では無かったはずじゃがのぅ。しかしおかげで、勇者聖女協会が最近ピリピリしておって、やりにくいわい」

「ケチチチチ。ドラゴンスレイヤー一党なら、ほぼ始末してやったぜ」


 ドラゴンスレイヤーの異名を持つ勇者シルヴィナス。

 混乱中の聖教国に戻って来たシルヴィナス達が、混乱対応の為にバラバラに動いてくれたのは都合が良かった。聖女ミーシアだけは本部で医療活動していたせいで、始末し損ねたが、それ以外は上手く各個撃破出来たぜ。


「じゃから余計に協会が騒いどるんじゃがのぅ。始末するのならアレンを始末して欲しいのぅ」

「ケチチチチ。無茶言うな。ありゃ、やべぇよ。おそらくラミィもアレンに倒されたんじゃねぇか?」

「かもしれんのぅ。ラミィが倒されるとは……奴だけはこの町に来て欲しくないわい」


 サキュバスのラミィ。

 ディスロヴァスに従っていたが、アイツも生きてりゃ俺達のライバルに成り得た奴だ。

 しかし数か月音沙汰無しだ。どうやら死んだらしい。

 ラミィを倒せる存在なんて、勇者アレンしか思い当たらねぇ。


 俺が思うに、ディスロヴァスの奴は、勇者アレンの気を引き過ぎたんだ。

 奴の拠点に有った大量の祝福持ちの体、その祝福持ちの仲間と思われるエルフをアレンは探していたと言っていた。ディスロヴァスは相当無茶した挙句、アレンを呼び寄せちまった。

 それで、奴に従っていたラミィはアレンに倒され、焦ったディスロヴァスは実験を急いで失敗……およそこういった事情だろう。

 俺の勘はよく当たるんだ。間違いないぜ。


 ま、俺は新しく手に入れた『マップ』と言う特殊能力のお陰で、今後はアレンとふいに遭遇しちまう事は無い。マップの権能で『マーキング』したからな。アレンの居場所は常時把握している。十分な力を得るまでは奴を避け続ければ良い。

 勇者アレン以外に、この俺を倒せる魔石無しが居るとは思えん。奴にさえ気を付けていれば問題は無いさ。


「そんじゃ、ちょいと仕事してきてやんよ」

「アレンには気を付けるんじゃぞ? 奴が儂が隠れているこのラトニアの町に気が付くような様なヘマはせんでくれよ」

 「ケチチチチ。しねーよ、そんな事」


 ドスバレル。お前はせいぜい勇者アレンの影に怯えていな。

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