第145話 舎弟?

 再び二日間の休息及び準備日である。


 ギルドの資料室での調べ物も大方済んだので、今日は食料品の買い出しに行こうと思う。

 移住者が増えた事によって食品の値段が高騰していたが、最近移住者が減少傾向及び隣国に戻る人も出始めてる状況なので、価格が落ち着いて来たらしい。

 お金には困っていないけど貧乏性な私。割安な時に買い込もうと思った訳である。高騰中(品薄状態)に買い込むと、一般の人達の迷惑になるというのもあるしね。


 本日の服装はルタの村で最初に買った、懐かしの可愛らしい町娘スタイルの服。

 それなりにヒラヒラした服だけど、明るめとはいえアースカラーで魔装服に比べたら断然普通ぽい。膝丈だし。それにプルトの町で買っていたケープを羽織って革のロングブーツを履く。今は冬だからね。

 最近はずっと魔装服姿だったけど、今日は別に冒険者として活動する訳では無いので、普通に目立たずに行こうと思う。市民や商人の多い商店街では、私の事を知っている人はそう多くは無いけど、それでも魔装服姿だと無駄に私を怖がる人も居るしね。


 ◇


「お嬢ちゃん、荷物持つよ」

「この街の子じゃないよね? 街を案内してあげるよ」

「お昼一緒にどう? 良い店知ってるんだ」

「幾ら?」

「嬢ちゃん、俺様と一杯いかねぇ? このCランク冒険者の……げぇえええええ! 失礼しましたぁあ!」

「ねえ君、うちで働かない?」

「この街は荒くれ冒険者が多い。私が御同行致しましょう」


 UZEEEEEE!


 荒くれ冒険者に対しての心配はいらねぇよ! むしろ、冒険者ならあっちから逃げるわ!

 え? ナニコレ? なんなのこの状況?

 凄い声掛けられる。尋常じゃ無く声掛けられる。

 今、声掛けられている奴をあしらっても、次に私に声を掛けようと、待機している奴まで居る。

 

 何故だ?


 魔装服を着ていないので私がトップ冒険者だと分からないから……というのは関係が無いはず。ここは商店街だ。そもそも冒険者の事に詳しい人は少ないのだ。でも以前、魔装服姿でここを通った時には視線は凄かったけど、こんなに声を掛けられはしなかった。


 ……おそらくだけど……今の私の服装が普通ぽいからか?


 魔装服は素材が絹の様で、色合いも真っ白のブラウスに真っ黒のスカートにニーソックス、レースやフリルが所々使われてる為に、明らかに貴族関連の令嬢に見える。少なくとも一般人には見えない装いだ。

 だから男共は私に声を掛けずらかったのかもしれない。それでも来る奴は来るが、敷居が高いせいか、視線は凄まじいものの、声を掛けてくる奴は意外と少なかった。所謂、高嶺の花に見えてたのだろう。

 だけど今の私は普通の町娘の格好だ。

 それに今世の私は顔は令嬢風で、髪や肌もこの世界では抜きんでて綺麗みたいだけど、その顔立ちはゆるふわ天使(悪魔だけど)系の穏やかで大人しそうな顔だ。

 だから敷居が下がって、声を掛けやすくなっているのだろう。

 前世に何処かで『普通の女の子が最強』って言葉を聞いた事があったが、これがそういう事なのだろうか?


「ねえ君? 買い物終わり?」

「まだ必要なものが有るのなら案内するよ」

「……いえ、帰ります」

「買い物終わり? それじゃ俺達と食事行こうよ」

「……いえ、帰ります」

「絶対気に入るって! 来てみれば分かるよ」

「そうそう、はい、決まり! 行こう行こう」


 UZEEEEEE!


 現在、しつこい男三人組に付きまとわれ中。

 どうしよう……こいつら商人の家の人か?

 小奇麗な格好だし、冒険者では無さそうだ。

 これでも一応、私はトップ冒険者だ。一般人に暴力を振るうのは色々不味い。威圧もあんまりよろしくは無いな。宿にまで付きまとわれれば別だけど。

 冒険者達は大分私の事を認知してきているが、一般人は私の事を知らないよね。

 うーん、隙を見て猛ダッシュで逃げるか……。


「おう! お前等! 姉貴が迷惑がってんだろうが! 姉貴にこれ以上迷惑をかけるのは俺が許さんぞ!」

「「「「え?」」」」


 対応に苦慮していると、突如、野太くドスの利いた声と共に、大柄で人相の悪い、いかにも荒くれ冒険者な男が現れた。


 グラッツである。

 この街に来た当初から、陰湿で悪質な嫌がらせを私に加え続け、冤罪まで着せた男。結果的には踏みとどまったものの、無駄に攻撃的な性格では無いと自負している私に、ガチで殺意を抱かせた男だ。


「ひぃぃ!」

「な、なんだ? お、お、お前は?」

「こ、この子のお知り合い……ですか?」


 めっちゃビビってる付きまとい三人衆。

 いや、グラッツなんかにビビり過ぎじゃね?

 ……と思ったけど、ドラゴンの群れと戯れる日々を過ごしたせいか、私の感覚の方が麻痺しているのかな?

 改めて普通に見たら……グラッツはかなり強面でビビる見た目だ。


 思えばグラッツが私に目を付けたのも、初対面の時に私がビビる様子が無かったのが気にくわなかったから……なのかもしれない。私が怯える事無くフラットな態度で接したから「格下だと分からせてやろう」とムキになったのかもしれないな。


 しかし何故、コイツがここに?

 そういやグラッツの謹慎期間は終わってたな。

 それよりも……姉貴?


「姉貴がもう帰るつってるだろうが。ちょろちょろと姉貴の道を塞ぐんじゃねえ!」

「「「ひぃいいい!」」」


 しつこい三人衆は一目散に逃げていく。


「ハンッ! 姉貴に迷惑かけるたぁ、ふてえ奴等だぜ!」

「……えと……ありがとう……ございます?」

「礼なんて不要だぜ! 姉貴!」

「……グラッツさん?」

「さん付けなんて止めてくれよ姉貴。俺の事は舎弟と思ってくれ!」

「……」


 ニカッと男くさい満面の笑みを浮かべるグラッツ。





 ……誰?


 いや、グラッツなんだけどさ。

 見た目、全然変わってないけどさ。見た目は。


「姉貴……俺は本当に反省してるんだぜ。あれだけ強い姉貴がコツコツと下積みからやっていこうとしてるのを、邪魔しちまった事をよ」

「……」

「罪滅ぼしって訳じゃないけどよ。これからは姉貴の活動を全力で応援させてもらうぜ! 俺は姉貴の強さに惚れたんだ」

「……」

「買い物続けるなら付き合うぜ。姉貴に舐めた真似する奴等は俺に任せてくれよ!」

「……」





 ……誰?

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