第143話 説得(物理)

 ダンジョン攻略の合間の休息日、ブルースに注文していた武器を受け取りに、鍛冶工房までやってきた。


「こんにちは~」

「あ、ルーノさん。こんにちはっす。最初の注文の品は出来てやす。手間取らせて悪いんすけど、重いんで置いてある場所まで来てもらえますか?」

「分かりました」


 彼の後について案内された部屋……ではなく中庭に案内される。

 石造りの台座の上に布を被せられた何かがある。


「すいやせん。重量が凄いんで、机の上にとはいかなくてすね」


 そう言いながらブルースが布を取ると、そこには漆黒のポールメイス。

 握りの部分は私の小さい手に合わせて、それなりに細いが打撃面は広い。更に先端は尖っている。

 手に取ってみる。握り部分はバッチリだ。


「注文通り重心やバランスよりも、握り易さと当て易さと丈夫さを重視しやした」

「ありがとうございます。握り部分はバッチリですね」

「丈夫になる様に連結部分も無くしたので、柄の部分も黒鉄製です。つか全部黒鉄製す。重さは大丈夫すか?」

「ええ、問題ありません。ありがとうございます」


 私にとっては重さは問題無い。握り易くて長くて丈夫なら、それで良いのだ。

 だから親方に「つまらん」と言われて、親方は作ってくれなかったんだけどね。


「一応、突き攻撃も出来る様に、丈夫さに支障が出ない範囲で先端だけ尖らせやした」

「使いこなせるか分かりませんが、ありがとうございます」

「こっちこそ初めて鍜治場使わせてもらえやした! 指名ありがとうっす」

「いえ、こちらこそ。要望をちゃんと取り入れてくれて助かりました」

「使い勝手で何かあれば言って欲しいっす」

「分かりました。正直言って一本くらいは壊しそうなので、予備と他のもお願いしますね」

「……すいやせん。それなんすけどね。予備は良いんすけど、例の物は親方に『武器じゃない』と言われやして……作成許可が出なかったっす」

「はい? 私にとっては重要な武器なんですけど……確かに試行錯誤の段階ではありますけど……親方に会わせて貰えますか?」

「すいやせん。分かりやした。お待ちを」


 一応、私はこの街のトップ冒険者だからね。

 厳密に言えば私自身の面子はどうでも良いけど、トップ冒険者の私が舐められると、冒険者全体が舐められかねない。


 しばらく待っていると、ブルースが親方を連れて来た。


「嬢ちゃんよ。ウチは武器や防具専門の鍛冶屋だぜ。それ以外のモンは他を当たってくんな」

「試行錯誤の段階では有りますが、私にとっては武器です。武器の注文であれば、ブルースさんに作って頂けるお話でしたよね?」

「あの馬鹿デカイ団扇うちわの何処が武器なんだよ!?」


 団扇うちわ――そう、私がブルースに注文した変わり種の武器とは、幅広の団扇うちわの様な形状の武器なのだ。

 勇者シルヴィナスパーティーメンバーの鬼人ルドに「点では無く面で攻撃すれば技量による回避は不可能」とアドバイスを貰っていたので、面攻撃用の武器として注文したのだ。

 注文する際に、適正な大きさを測る為に、樹脂の様な錬金素材で大まかな型を作っていた。親方の言っている巨大な団扇うちわとはその事である。


「面攻撃用の武器ですよ」

「素人が屁理屈言うんじゃねぇ。アレを普通の素材で作れば強度が足りん。武器になり様が無い。全部黒鉄製にすれば振り回せる訳が無い。そのポールメイスの何倍もの重さになるぞ」

「素人なのは否定しませんが、屁理屈では無いですよ。ではお見せしましょうか」


 そう言って、受け取ったばかりのポ-ルメイスに魔力を流す。

 漆黒のポールメイスが赤黒く淡い光に包まれる。


「――!? お、おいおい。ブルースから聞いちゃいたが、本当に赤黒――うおっ!」


 ――ズシン!

 ――ズシン!


 魔力を流すと重くなるという黒鉄の特性によって、超重量となったポールメイスを持ち歩きながら、親方達と距離を取る。

 そしてポールメイスを振りかぶり――振る。


「ぬお!?」

「ひぃ!?」


 超重量の物体を振った時の振動と風圧で、地面が振動し壁や植木が軋み、親方とブルースがよろめく。

 思い付きでやったけど、コレ良いな。黒鉄の団扇うちわでやれば、風圧による衝撃波的な攻撃が出来るかもしれない。


「見ての通り、魔力を相当量流して重くなったポールメイスを振り回せるので、重さが数倍になったところで問題は有りません。そして武器になり得る事もご理解頂けましたか?」


 にっこり微笑んで、引きつった顔の親方に問いかける。


「……あ……ああ」

「私に技量が無い事は自覚しております。ですから技量が無いなりに工夫しております。そういう事情を汲んで、一緒に工夫してくれるブルースさんには感謝しております。素晴らしい工房だけあって、良いお弟子さんをお持ちの様ですね」

「……う……む」

「今後のヴェダはベテラン冒険者ばかりではなく、新人冒険者にもチャンスを与える体制になるみたいですよ。ブルースさんの様な鍛冶師は今後活躍されるでしょうね」


 そう言って話を締めくくる。


 うーん。

 こういう駆け引きというか、体面を保つやり方は難しいな。相手の体面も保ちつつ……というのが。


 今回の私のやり方はベストでは無かっただろう。

 でも、やらないよりは良かったと思う。多分。きっと。おそらく。

 それに、特殊な武器は作って欲しかったしね。なので、今回は強引に行かせてもらったよ。それなりの立場を得たこの街で無いと、こんな特殊な注文はそうそう受けて貰えないだろうしね。


 後は、ゴーガッツに任せよう。



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