第142話 知らぬ張本(人)悪魔
何事も無く十階と十一階の間の転移魔法陣に辿り着いて転移碑に登録し、転移魔法陣で入り口に帰還。
初めての転移は……いきなり目の前の景色が変わったという位かな?
段々、魔法のある世界に慣れてきたのかもしれない。
明日明後日は休息及び準備日にして、三日後からまたダンジョンに潜ると打ち合わせして凪原旅団と別れる。
そのままギルドに入って、ゴーガッツに面会し、経過報告をする。
「そうか。順調な様で何よりだ。凪原旅団とは問題ないか?」
「素人目にも優秀な護衛パーティーだと思いました。段取りや案内も上手な方達ですね」
「それなら良かった」
ホッとした様子のゴーガッツ。
そんなに私は気難しいと思われてるのかね?
確かに人付き合いは得意では無いけど、少なくとも無駄に攻撃的な性格では無いと思ってるんだけどね。
相手に悪意が無ければだけど。
「最近の情報としては、隣国ラディエンス王国からの移住者が少なくなってきたな」
「確か戦争が起きそうだから、移住者が増えてたんですよね?」
「そうだ。ラディエンス王国の国王が急死してな。内戦が起こると噂になってたんだ。内戦に巻き込まれない為の移住だったようだが、内戦までには至らないだろうと考える者も多くなったようだ。ラディエンス王国へと戻る人も出始めている」
「そうでしたか。内戦にならなくて良かったですね」
もし内戦勃発ってなったら、大量の難民がこの街に押し寄せて来るだろうからね。
「いや……まだ分からん、というのが俺の見立てだな」
「え?」
「情報が錯綜してる為に正確な所は分からんのだが、国王が急死しただけでなく、同時に王太子も急死したとの噂でな」
「同時に跡継ぎの王太子まで? それってもう誰かの謀反じゃないですか?」
「だから内戦間違い無し……のはずだったのだが、どうも誰の犯行か不明だとか、様々な派閥貴族が集う場での急死だったとか、その死に様が異常だったとか……少なくとも国王と王太子の同時急死に際して、権力者の座を奪わんと行動を起こした者は皆無だったらしい。皆、寝耳に水といった感じだったそうだ」
「それは……よく分かんないですね。でも、たまたまとは思えない急死状況ですよね」
「文字通り情報が錯綜し過ぎて判断が付かん。ラディエンス王国は一時的に複数の有力貴族による共和体制を行ってる。権力争いが無い訳では無いのだが、武力衝突は避けている様だ。それに……急死した国王と王太子には色々と黒い噂のあった方達でな。案外あの国はこれで良かったのかもしれん」
「それなら内戦に至らない様に思えますが」
「ラディエンス王国だけで見ればな。国王と王太子の急死は他国の暗殺の可能性も有る。とはいっても、隣国にも動きが見られないのだがな。それとルーノは東にあるルジアーナ聖教国を知っているか?」
「行った事は無いですが、名前は聞いた事あります」
シルヴィナスを勇者に、ミーシアを聖女に認定している国で、私が接触を避けたい国だ。
ここでその名が出て来るとは。
「あの国は無くなって、聖教と言う宗教は終わるのかもしれん」
「え?」
「ルジアーナ聖教国の事実上の支配者である教皇が、大規模な集会の最中に急死した。その死に様がとても異常だったそうだ」
「その教皇も、異常な死に様ですか?」
「『悪魔による仕業』と見た者は口を揃えて言っているとか」
「あ、悪魔ですか?」
私以外に悪魔が居たのか?
でも三剣岳で会ったサキュバスは「悪魔は絶滅した」って言ってたしな。
また妖魔の仕業かな?
「教皇の死やその異常な死に様は、集会の最中だったから、目撃者も多すぎて隠蔽も不可能。聖教国は大混乱だそうだ」
「それはそうでしょうね。でも国が無くなったり宗教が終わると言うのは?」
「聖教は弱者救済を教義としていたのだが、教皇の死後の調査で、教皇がその教義を隠れ蓑に、大量の儀式用生贄を確保する手段として利用していた事が判明してな。人間を儀式の生贄にするのは重大な禁忌だからな。意図的に飢饉や内戦を引き起こす工作までやっていたらしい。そうやって弱者を生み出しては弱者救済を謳って信者を獲得し、その裏で生贄を確保する。とんでもないマッチポンプだよ。もうあの国も聖教も終わりだ」
「それは酷いですね」
「故に『悪魔による仕業』ではなく『天罰』だったとも言われてるな」
「『悪魔による仕業』という形に挿げ替えたのは、聖教国が自己正当化する為のプロパガンダだったんですね」
「いや、異常な死に様に関しては目撃者が多過ぎたからな。教皇の悪行が暴かれたのも『悪魔による仕業』と言われた後からだ。挿げ替えた訳では無いな」
「そうなんですね」
まあ、異常な死に様とやらに関しては気にならない訳では無いが、それよりも聖教国ルジアーナが混乱中という方が私にとっては重要だな。
知らない仲では無いし、生贄確保なんかに関わってたとは思えないから、シルヴィナスやミーシア達がどうなってるかは少し心配だ。
だけど、聖教国が私に構っていられない状況なのは、私にとって都合が良い。
「さて、そこで本題に戻る。どうもラディエンス王国の国王達の死に様は、聖教国ルジアーナの教皇の死に様と同様だったという噂だ。死亡時期も一致する。更にラディエンス王国の国王達も、人身売買や生贄確保を秘密裏に行っていたともな」
「と言う事は、同一犯の仕業ですか?」
「もしくは同一グループの仕業だな。両国の距離はここから西と東でかなり離れてるのに、急死事件は同じ時期だからな。それに両国だけでなく、各所で同じ様な事件が起きてるらしい」
「こ、怖いですね」
「今の所、狙われてるのは違法人身売買や禁忌である生贄集め目的の奴等ばかりらしいからな。直接的にはそう怖がることもあるまい。まあ、悪党ばかりとはいえ国や組織のトップ達が急死してる為に、どうしても混乱は起きている」
「なるほどそれで、まだ分からないと言う事ですか」
「そうだ。ここ最近の情勢は正直読めん」
なんか世間は大変みたいだ。本当に誰かの仕業であれば、恐ろしい事をするなぁ。
まあ、直接的には私には全く関係の無い事件だ。
それより、この後はまた資料室でダンジョンの勉強しておこう。
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