第141話 オート手入れ
三階の小部屋での野営を終えて、今は出発準備中である。
「皆さん、生活魔法で水はまだ出せますよ。足りない方は居ますか?」
「ルーノさん、まだ魔力に余裕が有るのですか? マナライトも点けっぱなしですよね?」
「余裕ですよ」
「異空間倉庫の為にも、念の為に魔力は節約された方が」
「節約どころか使い道に困ってるんですけどね」
「凄い魔力量ですね」
「私も異空間倉庫のスキルの宝珠を使ってみようかな。荷物管理が凄く楽になりそう」
「やめとけ、カンナ。伊達にハズレ宝珠とは言われてない。ルーノさんが別格なだけだ」
「うーん……そうよね」
実力バレのメリットとして、この辺の規格外の力を無理に隠さなくても良い所が有るよね。
実力バレのメリット結構有るな。
いや、結果的にダンジョン都市での有力者の冒険者ギルドマスターであるゴーガッツが、色々と配慮してくれているからだろうね。普通なら色々と面倒な事が発生していただろう。
「そういえばこの『使用中』のプレートって、ダンジョンに吸収されちゃったりしないんですかね?」
「厳密な理屈は不明ですが、基本的に魔物の死体はすぐに、このダンジョンの魔物のドロップ品や魔石は数時間で吸収されるみたいです。それ以外は丸一日は吸収されない様ですよ」
「なるほど……一日くらいなら持つのですね」
ホント、ダンジョンとは不思議な空間だ。
その日も順調に二階層進んで、五階の小部屋で野営。
一日二階層進むペースだ。
十階層毎に転移魔法陣が有るので、このペースなら五日目には十階と十一階の間の転移碑に辿り着ける。
ゴーガッツが「一週間で活動日は五日程」って言ってたけど、なるほど丁度良い感じだね。残り二日は休息と準備と言う訳だ。
同じ規模の三剣岳ダンジョンでは、私は一日に二階層ペースだったから、ペースとしては実は変わらない。
だけどあそこでは人目が無いから好き勝手出来たからね。人目を気にしながらの私一人だと、このペースで進むのは無理だっただろう。やはり案内を付けて貰ったのは助かるね。
五階、六階でようやく魔物との戦いが発生。
ダンジョンの入り口からも、十階と十一階の間の転移魔法陣からも、離れてるからだろうか、比較的この真ん中の階層は空いてる様だ。
もっともこれ位の階層の魔物は、凪原旅団の連中があっさりと片付ける。
まあ、彼等もCランクだからね。
順調に進み、九階層の小部屋で野営をする。
食事も終えて後は見張りの順番を決めて寝るだけという段階で、凪原旅団紅一点のカンナが遠慮がちに話しかけて来る。
「あ、あの……ルーノさん……本来、こういう事は話す内容では無いと思うのですけど……その……女性としてどうしても尋ねたい事が……」
「はい? なんでしょう?」
「ルーノさんの髪とか肌は、何時手入れしてるんですか!? それと、どういう手入れを!?」
食い気味に聞いて来るカンナ。
……あー。
遂に来たか。いつか聞かれるんじゃないかと思ってたけど……。
まあね……ダンジョンという閉鎖空間では装備を外す事が出来ないから、せいぜい顔を洗う位。一日中歩いて時には走って時には床を這いずって(罠を避ける為)石床の上で寝る様な生活が数日続けば、どうしたって体や衣服は薄汚れてくる。
それなのに私は異常に小奇麗で清潔なままだからね。
特にカンナとは女性同士(?)と言う事も有り、常に一緒に行動してた。
だから余計に違和感を感じたんだろう。
「ハハハ……そういうスキルを持っているとでも言っておきましょうかね。詳細は内緒と言う事で」
詳しく聞くな。私も知らん。
いや、ホントなんなんだろうね? この私の謎の自動浄化は。
浄化作用によって髪や肌はべた付かないけど、再生作用のお陰か適度な潤いは保たれている。自発的な手入れはしてないけど、自動的に常に手入れされてる感じなんだよね。女性にとっては垂涎の効果だろうね。
ただ……凄い便利だけど、こういう時に違和感を出しまくるのがね。
「そんなスキル聞いた事無いですよ! うぅ……内緒ですかぁ……」
残念そうなカンナ。
いや、申し訳ないけど悪魔の種族特性なのか、活性のスキルが作用してるのか、詳細は私にも分からないんだよね。
種族が悪魔と言う事を知られる訳にはいかないから、鑑定してもらう訳にもいかないし。
しかし「そんなスキル聞いた事無い」か……。
資料室でスキル調べても、確かにそんなの無かったな……。
「カンナ。そういう事を聞くのはマナー違反。確かにルーノさんは体臭がほとんどしない。非常に隠密向き。そういうスキルの詳細を簡単に話せる訳が無い」
「いや、そういう意味で聞いた訳ではないんだけどね!」
リヴァルの少しズレた指摘によって、とりあえずそれ以上の追及は無かった。
でももし、悪魔特有の種族特性だとしたら、あまり人に知られたくない案件だね。
やっぱり私は、あまり他人とパーティーを組むべきでは無いなぁ。
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