第140話 ヴェダダンジョン攻略開始
翌日、ギルドで凪原旅団と待ち合わせてダンジョンへ向かう。
ダンジョンの入り口へは、冒険者ギルドの建物内の通路から行ける……というより、ダンジョンをギルドの建物が囲んでる。
ダンジョン都市と言われ、ダンジョンから産出されるドロップアイテムを主な産業としているだけあって、ギルドに隣接されたダンジョンの入り口を囲う建物は大きく、ちょっとした球場位の広い広場がある。
闘技場を思わせる造りのダンジョン前広場は高い壁に囲まれており、壁の上にはバリスタが設置されている。スタンピード対策だろうね。
ダンジョン入り口近くの広場には魔法陣がある。転移の魔法陣だ。
ギルドが管理してるダンジョンだけあって、十階毎に転移の魔法陣が設置してあり、一度魔法陣に登録すればこのダンジョンの好きな転移魔法陣へとワープ出来る。
逆に言えば三十階に設置してある転移魔法陣を使う為には、一度だけでも三十階まで自力で到達する必要がある。
というのが、資料室で予習したこのダンジョンの知識。
流石ダンジョン都市。転移システムが構築されてるとは。
まあ、ダンジョンドロップが産業の街なんだから効率化を図るとそうなるよね。
「おい、見ろよ。ルーノさんだ」
「今日からダンジョン攻略らしいぞ」
「ダンジョンにあの格好で行くのか?」
「見た目に反してあの服は、スリストさんの電撃の魔剣の攻撃でも、全く焦げてなかったからな」
「色々と見た目詐欺だよな」
周りの冒険者達の声が聞こえる。
見た目詐欺で悪かったね。正直私もそう思うよ。
更に言うなら中身オッサンだからな。君達が言う以上に見た目詐欺だよ。
転移魔法陣に繋がっている、転移碑と呼ばれる石碑の様な物に手を伸ばす。
転移碑に触れると転移碑を通じて魔法陣と何かが繋がったような感覚を感じた。これで登録出来たって事なのだろう。
転移魔法陣の登録も終わったので、凪原旅団のメンバーと入り口近くに集まる。
「確認ですが今回の目的は、ルーノさんを四十階と四十一階の階段の踊り場に設置してある転移魔法陣まで案内する事です。ですので道中は基本寄り道する事なく、真っすぐ下へと向かいます。Dランク帯までは我々がメインで戦い、Cランク帯ではルーノさんがメインで戦う。これでよろしいですか?」
「はい」
「……その前に……良いだろうか?」
ニクスの言葉に肯くと、普段は寡黙な斥候役のリヴァルが口を開く。
「ルーノさん……その恰好に関しては高性能魔装服と打ち合わせで聞いたので言う事は無いですが、武器とか持たずに手ぶら……ですか?」
「ああ、言われてた食料とかは異空間倉庫の中のマジックバックの中に入れてありますよ。武器もですね」
マジックバッグなんて持っていないけど、一応、持っていると言う設定だ。流石に大量の荷物を異空間倉庫に持っていると言うのは、規格外過ぎるはずだ。
「維持する魔力が尽きればマジックバッグごと物資を失います。……不用心です」
「うおい! ルーノさんに失礼な事言うな!」
リヴァルの発言に槍使いのファンドが慌ててる。
やっぱりファンドは私が怖い様だ。
「ご指摘御尤もです。ですが魔力切れを起こして物資を失った事はありません。魔力量には自信ありますし、私は魔法適性が何も無いので魔力の使い道がないですからね」
「武器を持っていないと見ると、良からぬ事を考える者も居ます。せめて武器は持ってください」
ふむん。
要らない心配だけど、彼等を心配させない為にも素直に従うか。
私が襲われたら、彼等も巻き込まれる訳だしね。
「仰る通りですね。分かりました」
昨日購入した黒鉄製メイスを取り出して手に持つ。
「……ではそれでお願いします」
「はい。他に何かあれば言ってくださいね」
「……はい、では俺が先行します」
そう言ってリヴァルが先頭でダンジョンに入っていく。
「す、すみません。気を悪くしないで下さい」
「いえ、全然」
リーダーのニクスが申し訳なさそうに言ってくる。
「彼がこのパーティーで厳しい意見を言う役割みたいですね」
「え?」
「あれ? 違いました? すみません。適当な事言って。忘れてください」
「あ、いえ、その通りですよ。分かりますか?」
「リーダーが言うと角が立つ事を、敢えて言ってくれてるのかなと」
「……流石、Aランク相当の実力者ですね」
「ああいや、冒険者としての経験で言ってる訳では無いのですけどね」
人が良いだけでは、優秀な護衛パーティーとして務まるとは思えないからね。
前世で職場の同僚達に相手にされなくなるという経験を持つ私にとって、厳しいながらもやるべき事を言ってくれる人はありがたい。
リヴァルに続いて皆でダンジョンに入る。
ヴェダのダンジョンは今までの洞窟型のダンジョンと違い、床や壁も石造りのダンジョンだ。
洞窟型と比べて歩き易いし、小部屋等も多い。
小部屋には何時の間にか宝箱が設置されてる事も有るが、その反面罠も何時の間にか設置されてる事も多いし、そもそも宝箱自体が罠だったりする事も多いらしい。
小部屋には魔物が潜んでる事も多いが、中の魔物を倒し罠が無い事を確認すれば良い休憩場になるそうだ。中に人が居る間は魔物が湧く事は無いらしい。
なので「使用中」と書かれたプレートが小部屋の前に置かれてる場合、誰かがその小部屋を使ってると言う事だ。
そういう小部屋で休息が取れるのも、このダンジョンが人にとって利用しやすい理由なんだろうね。
リヴァルを先頭にニクス、ファンド、カンナ、私と続く隊列でダンジョンを進む。
Cランク帯の三十一階までは、私は基本付いていくだけだ。
ダンジョンを進んで行く。
「最近混んでると聞きましたが、思ったより人が少ないですね」
前を歩くカンナに話しかける。
「え? いえ、結構混んでますよ」
「え? これで混んでるんですか?」
「はい、さっきから魔物と全然遭遇しませんし」
「……そういえばそうですね」
私は今まで人気の無いダンジョンしか入ってないから、人気ダンジョンの普段や混んでる状況というのを知らない。
混んでる狩場と言えばこう……もっと人がうじゃうじゃ居るものだと思ってたけど……こんなものなのか?
確かにこのダンジョンでは、所々で他パーティーの戦闘音や光源の明かりが見えるけどさ。混んでると言ってもこんなものなのか。
まあ、私が今までダンジョン内で他人と遭遇したのって、勇者シルヴィナスパーティーだけだしな。
それからは他の冒険者パーティーとすれ違う事はあっても、魔物と遭遇する事無く三階まで降り、適当な小部屋を見つけて野営となった。
斥候のリヴァルが上手く魔物を避けてたのもあるのだろうけど、一回も遭遇しないと思わなかった。やっぱり混んでるという事なんだろうね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます