第139話 黒鉄という素敵素材
「武器作成の依頼は少し考えさせて下さい。取り急ぎ今日は、出来合いの武器を見せて頂けますか?」
「了解っす。案内しやす」
丁寧語が微妙なブルースに別室に案内され、武器を見せて貰う。
「この辺が頑丈な鈍器になりやす。大体の傾向として鉱石を使った武器は値段が高くなりやすが、この街以外の鍛冶屋でも手入れして貰えるっす。この街のダンジョン産の魔物素材で作った武器は値段が安くて魔力の通りが良いっすけど、他の街での手入れが難しくなるっすね」
「なるほど」
ずらりと並べてくれた鈍器の中から、一番握り易いメイスを手に取り、軽く素振りをしてみる。
「握り易さはこれ位が良いですね。ただ軽いですね。これより重くて長くて頑丈なのって有りますか?」
「そ、それで軽いっすか? お待ちを」
ブルースがやや長めのメイスを持ってくる……重そうなので途中で運ぶのを手伝う。
「ありがとうっす。これはヴェダダンジョンに出て来るブラックメタルゴーレムがドロップする黒鉄っていう素材を使ったメイスっす。このままでも頑丈で重いっすけど、魔力を流すと更に頑丈かつ重量が増しやす」
「おぉ~。良い素材なんですね」
「いや~、重過ぎて扱いづらいっす。だからあんま人気無いんすけどね。でもルーノさんの力なら扱えそうすね。どうぞ試しに魔力を流してみて下せえ」
「……外で試してみて良いですか?」
「外? なんですか?」
「もしかしたら重さで、床抜いちゃうかもしれないので」
「ハハハ………………まじすか?」
真顔の私の様子で察してくれたのか、中庭に案内される。
中庭まであるのか。広いな、この工房。
中庭の中央に立ち、黒鉄製のメイスに慎重に少しづつ魔力を流していく。流す魔力を増やし続け、なんとなく赤黒く光り始めた所で、それ以上の魔力を増やすのを止める。おそらくこれ以上は爆発しかねない。
その魔力纏い状態で素振りをしてみる。
――ズン!
――ズン!
――ズン!
私が足を動かす度に、まるで巨大な魔物が歩くような音がする。メイスが相当な重さになってる様だ。
明らかに自分の体重を越える重量の物体を振り回すのは、物理法則的に無理なはずなのだが、魔力とかステータスなんてものが有るこの世界では可能だ。
今の私とドラゴンが正面から殴り合ったら、ドラゴンの方が吹っ飛ぶからね。
この世界は完全に前世の物理法則を無視している訳では無いけど、魔力という前世には無い要素が、物理法則に干渉してる感じなのかな、と思ってる。
詳細は分かんないけどね。
「な、なんだ? 地震か?」
「スタンピードか!?」
あ、やべ。
私が起こす地響きで、工房の人達が騒ぎ出した。
武器への魔力の供給を止める。
「これは迷惑ですね。すみません」
「……あ……いや……な、なんすか? さっきの赤黒い光は……」
「分からないですけど、おそらくあれが魔力纏いの限界の前兆なのかなと」
「……さ、流石……Aランク……規格外すね。初めて見やした」
「因みに、これより黒鉄の純度が高い物とか有りますか?」
「これより……まじすか…………すんません。黒鉄は金属の様でやはり魔物素材なんで、金属みたいに純度を高くするという概念は無いんすよ」
「そうですか。仕方ないですね。これ位の握りで、これより長いのってありますか?」
「すんません。作らないと無いすね」
「それはブルースさんで作れますか?」
「不可能ではないっすけど、自分じゃまだまだすよ? 鈍器と言っても重心とか打撃の芯となる箇所とか、バランス調整とか、簡単じゃないすからね」
握り易くて丈夫なら別に良いんだけどな……なんて事を思う程に素人だから、親方に「つまらん」って言われる訳か。
鈍器だからって、誰が作っても一緒な訳は無いか。
注文する時はまた改めてする事にして、素振りさせてもらった黒鉄のメイスを購入して工房を出る。
そのまま冒険者ギルドで、ギルドマスターのゴーガッツに工房での出来事を話す。
「そうか、全くあの親方は……ドワーフの鍛冶師というのは気難しいからな……大目に見て貰えると助かるのだが……」
「まあ、私の強さは少々歪ですからね。私は気にしませんよ」
「……ふむ」
「見習いさんで良ければ作って貰えるそうなので注文しちゃって良いですかね? ゴーガッツさんに紹介して頂いた相手と違ってしまいますが」
「……ルーノがそれで良ければ俺は構わんが……良いのか?」
「黒鉄製の武具はあの工房でしか扱ってないみたいですしね。黒鉄の特性は私にとって魅力的ですね」
「実利を取るか。ルーノは貴族では無く商家の……あ、いや……詮索は無しだな」
どっちでも無いけどね。
ゴーガッツの了承も貰ったので、改めて工房に向かい黒鉄製のポールアームを注文する。
購入したメイスは少々短いからね。
それに加えて、ちょっとした変わり種の武器も注文する。
「お、自分にやらせてくれるっすか!? ありがとございやす! 自分なりに最高のポールアームを作らせてもらいやすぜ!」
「ええ、楽しみにしてます」
ブルースさんも私の注文なら、鍜治場使わせて貰えるとあって喜んでる。
ゴーガッツが特に面子を気にしないみたいで良かったよ。そもそも私の気にし過ぎだった様だ。
それから長さや握りの確認を行い、工房を出てギルドの資料室でダンジョンの予習をする。
そしてその日の晩、宿で寝ようとした時に、ふと思った。
今回、面子を気にしなきゃいけなかったのは――私自身の面子だったのかな?
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