第138話 最強の素人
「ルーノ。彼等がCランク冒険者パーティーの『凪原旅団』だ」
「リーダーのニクスです! 盾士です!」
「や、槍使いのファンドです」
「斥候……リヴァル……です」
「土魔法使いのカンナです」
「ルーノと言います。よろしくお願いします」
翌日、ギルドの応接室でゴーガッツから、四人組のCランク冒険者パーティーを紹介される。
ニクスは大柄の熊獣人の男。
ファンドは長身の人間の男だが、どうも私に怯えてる様子。
リヴァルは寡黙な狼獣人の男。
カンナは人間の女。魔法使いらしいけどローブでは無く革鎧姿だ。
年代は二十代後半と言った所。Cランク冒険者は一般的にはベテラン冒険者という位置らしいから、こういったお年頃になるのが普通なのだろう。
「契約内容はルーノを地下四十一階以降のBランク帯までの案内だ。進行状況にもよるが、概ね一週間に五日が活動日で、二日が休養日と準備期間だな。細かい調整はリーダーのニクスと女性のカンナに任せたいと思う」
「分かりました。私はまともにパーティーを組んだことが無いので、段取りは凪原旅団にお任せします」
「はい! お任せください!」
「凪原旅団はこの街と近隣の街への行商人の護衛を主に仕事にしてる。数組の商人からの指名依頼が来る程に、信頼の高い優秀な護衛パーティーだ。では頼んだぞ」
そして凪原旅団の人達と打ち合わせ。
打ち合わせとか苦手なんだけど、流石優秀な護衛パーティー。打ち合わせの進行が上手い。
早速、明日からダンジョンへ行く事になった。
打ち合わせを終えた昼過ぎ。ゴーガッツに紹介された鍛冶屋に向かう。
求めるのは武器である。現状私が持つ武器と言えるのは、ルタの村で買った木製棍棒一本だけなのだ。
聖剣を持ってるけど、あれは色んな意味で使えないしね。炎の杖は武器とは違うし。
様々な工房が軒を連ねる工業区を進む。
「ここ?」
紹介された鍛冶工房は周りの工房よりも一際大きい。
ゴーガッツも「周りの工房より大きいからすぐ分かる」って言ってたけど本当に大きい。
「失礼します」
大きな両開きの扉を開くと、トンテンカンと言う鍛冶屋っぽい音もするが、奥の方では大凡鍛冶屋っぽくない魔法陣や魔道具らしきものが見える。
この工房は魔物素材を使った鍛冶をやってる為に、そういった設備も有るのだろう。
ここは例のメタルミノタウルスの鼻輪を調査に出してる工房で、ついでに取り急ぎの武器を見繕おうとやって来たのだ。
「こんな所に嬢ちゃんがなんの用……もしかしてルーノさんすか?」
「はい。これが冒険者ギルドマスターから貰った徽章と紹介状です」
対応に出て来た、まだ見習いらしき男性に紹介状を渡す。
「親方を呼んできやすんで少々お待ちを」
そういって彼は奥に入り、しばらくして如何にも鍛冶屋一筋といったドワーフの男を連れてきた。
親方と思われるそのドワーフは私をギラリと睨む。怖い。
前世仕事出来ない人間だった私にとって、こういう怖い上司系の人の方が、ドラゴンより怖く感じてしまう。
とはいえ、まずは挨拶を。
「初めまして。ルーノと――」
「――お前に作る武器は無い。帰れ」
「……ぇえ?」
挨拶もぶった切ってこれである。
確かにゴーガッツから「悪い人物では無いが気難しい気性の親方だからな。くれぐれも気を悪くしないでくれ」とくどい位に聞いてたけど、紹介状まで持って来て取り付く島もないのは参った。
「お、親方? 冒険者ギルドマスターの紹介状持って来た方すよ? Aランク相当の徽章も確認しやした」
「お前がAランクだぁ?」
「こ、この街では……ですけど」
再び親方が睨んで来る。めっちゃ怖い……そう思った瞬間――
「――っわ!?」
「ぬぅん!」
「わわ、えっと?」
いきなり親方が手に持っていたハンマーで殴りかかって来たので慌てて回避。
その後の連撃も避け続ける。以前は冒険者だったのか中々の動きだ。
といってもドレイクバスターズの早さ、緩急虚実織り交ぜた技量と比べたら余裕である。
「……ふん。なるほど、当たりそうで当たる気がせん」
そういって親方は攻撃を止める。
「……親方。また……。ルーノさんは怒らせると怖いって通達来てたじゃないすか」
「通達なんざ知らん。こうやるのが早い」
呆れた様子の見習いさんの感じから、この親方はいつもこんな調子なのだろう。
私の実力を測る為の攻撃だった訳だね。それに関しては別に驚かない。
それより通達の内容だな。どう通達したのか後でゴーガッツを問い詰めよう。
「しかし気にくわないな。この俺が見抜けねぇ位に巧みなのは分かったが……何故、未だに隠す? ふざけてんのか?」
「……隠す……と言いますと?」
「武器を作って貰おうとしてる鍛冶師に対して、ド素人を装う意味が分からんのだが?」
「え、えっと……すみません。ホント私には分かんなくて。どういう事でしょうか?」
「……」
「……」
「……お前……その立ち振る舞いはワザとじゃないのか?」
あ~。もしかして……。
「私は身体能力は高いのですが、戦闘系のスキルは何も持ってません」
「はぁ? 嘘だろ? そんなんでどうやってAランクに成れるんだよ?」
「そ、そう言われましても……身体能力ゴリ押しでとしか……」
その後の話し合いで判明した。
剣術や体術といった戦闘系スキルの高い者は、自然と普段の立ち振る舞いにも出るらしく、見る者が見ればある程度スキルレベルが図れるらしい。
鍛冶屋は多くの冒険者を見てその冒険者達の武器を作ってきた為、熟練の鍛冶師程、特にそういった目は肥えているそうだ。
なるほどね。
スレナグの鍛冶師に「お金や冒険者ランクの問題では無い」と言われて店を追い出された理由が分かった。私がスキルを何も持っていない素人だったからか。
「……ふん。にわかには信じがたいが、先程見せた早さと反応速度とド素人の動きは確かだな」
ド素人の動きですみませんね。
「だがそうだとして、やっぱ鍛冶師としちゃつまらんな」
「……はぁ……といいますと?」
「希望は頑丈な鈍器だろ? とにかく壊れにくい物体を相手に当てりゃ良い訳だ。鍛冶師としちゃ作り甲斐がねぇよ」
「……それは否定出来ませんね」
「ブルース、お前に任せた。ゴーガッツの紹介だし、その嬢ちゃんの依頼の為なら鍜治場、使って良いぞ」
「え? 自分すか?」
親方はブルースと呼んだ男性に私の対応を全て投げ、工房の奥へと消えた。
うーん。
なんというか……。
いやまあ、グラッツやエミリアみたいな嫌がらせとは違うけどさ……親方からすれば、悪気は無さそうだけど……。
私、一応、冒険者ギルドマスターの紹介状持ちですよ?
素人にも扱える武器の作成も、腕の見せ所だとは思うんだけど……。
そう考えてしまうのは、徒弟制度が廃れた前世の感覚故だろうか?
「す、すんません。親方が失礼を……」
「いえ、私が取るに足らなかったみたいなので……ブルースさんは職人の方なんですよね?」
「……自分、まだ見習いでして……」
「……」
うーん。本当に見習いだった。
私自身は別に見習いさんの作品でも、丈夫な武器作ってくれれば良いけどさ。
これ……ギルドマスターの紹介状を持つ者に対して見習いを宛がうのは、ギルドマスターであるゴーガッツの面子に関わらないかな?
私の気にし過ぎかもしれないけど、依頼するのは一度ゴーガッツに相談してからかな。
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