第136話 専用化は凄い事だった

「Aランク素材や魔石を売りたいと言う事だったな。流石にすぐには現金化出来ないが、それで良ければ売りたい物を出してくれ」

「はい」


 魔石やドロップ品を出す。さっきやっちまったので控えめに。


「さ、流石だな。ドレイクバスターズを圧倒するだけの事はある。俺が見た事のない素材まである」

「ダンジョン都市でならAランク素材も珍しくないのかと思ってましたよ」

「……もしかしてルーノは魔境付近の国から来たのか?」

「いえ。というかむしろ、その魔境って何処ですか? レベル上げしたいんで行ってみたいんですが」

「俺も詳しい場所は知らないな。少なくともこの近辺には無い。国を幾つも跨いだ先に有るという話だ」

「魔境ならSランクの魔物が徘徊してたり、Sランクの魔物が雑魚で出て来るダンジョンとか有るんですかね?」

「有るらしいがSランクの魔物とか死ぬぞ……と普通なら言う所だが……ルーノは本当に別格みたいだしな……」

「大体の場所で良いので教えてください」


 と言う訳で、ゴーガッツから魔境の場所を教えて貰いメモを取る。

 魔境――人の手に負えない魔物が出ると言う。人が住めない場所。

 でも現状の私にとっては、レベル上げするのに適正な場所な気がする。

 レベル上げは私に出来る努力であり、強くなる事は身の安全の保障にも繋がるからね。もう十分過ぎる様な気がしないでも無いが。


 それに何時の日か……私が悪魔バレした時の逃亡先となるかもしれない。


「では魔石と素材は預かる。Aランクの魔石一つは領主様に献上で良いな?」

「はい、よろしくお願いします」


 ゴーガッツの提案を受けて魔石を一つ、領主に献上する事にした。直接会わないにしても、権力者の御機嫌を取っておくにこしたことは無い。

 むしろ一個で良いんすかね? まだ沢山有るんだけど。まあ、余計な事は言うまい。


「それと武器を作りたいと言う事だったな」

「この素材で武器を作れないかなと思いまして。メタルミノタウルスの鼻輪です」

「メタルミノタウルスの鼻輪か。初めて見るな。確かに特殊な金属の様だ……そもそも金属なのか? この街の職人達も見た事無いかもしれん」

「これを目利きしてくれた人は『鍛冶屋辺りは喜ぶだろう』って言ってたんですけどね」

「その目利きした人物は誰だ?」

「す、すみません。秘密で……。えと、エルフの人だったとだけ……」

「エルフか。もしかしたらそのエルフの言う『鍛冶師』とは『精霊鍛冶師』という意味かもしれん。だとしたらこの街に精霊鍛冶師は居ない。スレナグも鉱山都市だから精霊鍛冶師は居ないな」


 まじすか。

 あのロンゲエルフ……自分の興味のない物に関しては適当な事言いやがって。

 いやまあ、何か分からない物を目利きしてくれただけでもありがたいのだが。


「これも一応預かって良いか? 鍛冶職人に相談してみる。取り扱えないという結果になるかもしれないが、そこは了承してくれ」

「分かりました。別にその素材でなければ駄目と言う訳では無いので。一番欲しいのは私用に専用化された武器なんですよね」

「専用化出来る鍛冶職人なんてこの街に……というかこの国には居ないぞ」

「え?」

「専用化はかなり特殊なスキルだ。使える人物も少ないし、使える条件も厳しいと聞く。製作者と使用者の相性等もあって、金と素材さえあれば作れるという物では無いんだ」

「国に一人居るか居ないかレベルのスキルだったんですか……私が今着てるこの服が、私用に専用化された魔装服なんですけど……」

「ということは、魔裁縫師イリーナ女史の!?」

「は、はい」


 この魔装服を作ってくれたイリーナさん、本当に有名な人だったんだ。

 更に専用化して貰うのは相当凄い事ぽい。

 でもぶっちゃけ、イリーナさん、頼んでも無いのに勝手に作って勝手に専用化してくれたんだけど……と言う事をゴーガッツに話してみる。


「服飾関連の職人に冒険者用の服なんて、普通はどれだけお金詰んでもやってくれそうにないがな。話を聞く限り、イリーナ女史にとって、よっぽどルーノを着飾りたかったのと、ルーノの好みのデザインが一致したんじゃないか?」

「私の好みが関係あるんですか?」

「俺も専用化に関しては詳しく知らんが、製作者の思いと専用化対象の思いが一致するのが条件らしいぞ。武器だったら製作者のこだわりと使用者の使い方に対する信念。これが一致しないと専用化出来ないらしい。服に関してだから、ルーノを着飾りたいイリーナ女史の思いとルーノの好みのデザインの一致が、専用化の条件だったのではと予測する」


 まじか。

 いや、確かに割と私好みのデザインだなと思ってたけど。

 それにイリーナさんのフリフリ好みが一致したのか。

 あれ? でもどうして私の好みがイリーナさんの作る服に反映されるんだ?


「でもこの服は専用化する前からこのデザインでしたけど?」

「その前に身体に触れられてたりしなかったか? それと髪の毛とか体の一部を編み込むとかな。その時にスキルでルーノ深層心理から好みのデザイン参照してると思うぞ。それがイリーナ女史の好みと一致したんじゃないか?」

「思いっきり心当たり有りました」


 初めてイリーナさんの店に行った時の着せ替え人形の刑の際に、めっちゃ身体触られたわ。髪の毛も何時の間にか採られてたし。あの時にスキルで私の記憶の中の好みを読み取ってたって訳か。

 しかしなるほど……この魔装服、文明レベル中世のこの世界の服にしては、妙に現代的なデザインだな……とは思ってたけど、スキルで私の心の中にあるデザインを参照してたからこうなった訳ね。

 厳密には私の思い描くデザインでは無く、前世の絵師たちの創作したデザインだけどね。それが可愛いモノ好きのイリーナさんの心に刺さった訳だ。


 かなり凄い服だったんだな……この魔装服。


 いや、実際に魔力を流せば大抵の攻撃は弾くし、燃え尽きても再生するし、汚れても勝手に綺麗になるし、伸縮自在で動き易くてどんな動きをしても、ナニを見せないんだから凄まじい性能だよな。

 だからと言う訳じゃないけど……今更ながらイリーナさんが貴重なスキルで作ってくれた服だ。なるべくこの格好で過ごすか。


「今後のルーノのこの街での冒険者活動に関してだが、ダンジョン攻略だよな?」

「そうですね。ボスのランクは幾つなんですか?」

「Aランクのグレーターファイアドラゴンで別名『火竜ドレイク』だ。現状この街での踏破者はドレイクバスターズだけだ」

「それが彼等のパーティー名の由来でしたか」

「そうだ。彼等が最初の踏破者と言う訳では無いが、ダンジョン都市に集う優秀な冒険者達であっても、Aランクのドラゴンを倒すのは並大抵の事では無いのさ。ルーノは踏破出来る見込みが非常に高い冒険者と言う事になるな」

「ダンジョン知識がまだまだですが、ボス部屋に辿り着けさえすれば、討伐に問題は無いと思います」

「頼もしい限りだ。ドレイクの素材は様々な組織や国から求められていてな。勿論素材をどうするかの権利は踏破者にあるが、ルーノが良ければ素材はオークションに出してもらえるとありがたい」

「構いませんよ」

「おお! 助かるよ。その代わりと言ってはなんだが、Bランク帯までの案内冒険者をルーノに付けたいと思っているのだがどうだろう? 彼等の雇用費はギルドで受け持つ」

「案内ですか?」

「話した通り、現状Cランク帯までの狩場は混んでいる。ルーノにはさっさとBランク以降で狩りをして貰いたいんだ。ルーノとしてもCランク帯に今更用は無いんじゃないか?」

「そうですね。分かりました」


 正直、Bランク帯にも用は無いが……Bランク以降の素材を集めてねって事か。

 それでも早く攻略出来るのはありがたい。


「誠実な性格のCランク冒険者パーティーを案内に付けるよ。紹介するから明日また昼前にギルドに来てくれるか?」

「分かりました」

「よろしく頼むよ。他に何かあるか?」

「そういえば、このギルドに資料室みたいなのはありますか?」

「資料室という程大袈裟なものでは無いが、Eランクになった奴の説明用の部屋に、ダンジョン情報を公開してる資料なんかを置いて閲覧出来るようにしてる。あんまり利用されて無いがな」

「では私がその部屋の利用は可能ですか?」

「勿論だ。利用はEランクからだが、ルーノはこの街ではAランク扱いだからな。案内しよう」


 仮称資料室は十畳程の部屋に本棚一つと机と椅子が幾つかというレベルだった。だけど何気にこの世界に転生して初めての本を読む事になる。

 情報に溢れてた前世のありがたみが分かるね。

 少ないながら周辺国の情報(戦略上の問題なのか地図は無かった)やスキルに関しての資料が有るのは助かる。

 ダンジョン攻略をしながら、ここの資料は全部読じゃおう。


 この日は資料室で資料を読み漁った。

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