第135話 ギブアンドテイク
ゴーガッツの話の概要としては、このヴェダの街の成長期だった過去と停滞期の訪れの話だった。
この街の領主様は十年程前からダンジョンからの産出を増やす為に、余程の犯罪者でも無ければ受け入れ、ダンジョンに入る冒険者を増やしていったそうだ。当然、人の増加に伴う混乱や治安の悪化は発生したが、街全体が好景気による上昇基調によって、多少の不平不満は飲み込んでいた……上昇基調にある内は。
好景気に沸き立ち人が際限なく増えて行った結果、如何に大型ダンジョンとはいえ飽和状態になり、停滞期が訪れた。それでも競争原理による狩りの効率化や質の向上を見込んで、人を呼び込み続けたらしい。そう簡単に方針転換は出来なかったそうだ。
しかし、街全体が上昇基調たっだ頃とは違い、既にダンジョンは飽和状態。『みんなで仲良く一緒に成長』の局面は終わっており『誰かが成長すれば、その分他の誰かが割を食う』というシェアの奪い合いの局面に移っていた。古参冒険者の老害化、競争に敗れた浮浪者の増加等、問題が目立ち始めた。
新規冒険者が淘汰される現状が長く続けば、新しい人材が出て来ないし、無駄に浮浪者が増え、治安が悪化する。
ようやく方針の転換を図ろうとした、領主とギルドマスターのゴーガッツ。
しかし、長く実力主義で上手くいっていた成功体験に執着する者は多く、上手くいっていないそうだ。
なるほどね。
なんか高度成長期と、その後のバブル崩壊後の日本みたいだな。
「俺も領主様も苦悩していた所だった。それをぶち破ってくれたのがルーノだ。圧倒的トップ冒険者となったルーノが、理不尽な目に遭っている新人冒険者の立場で、ギルドに不満を訴えてくれたからな。トップ冒険者相手に物を売らなかった店にも文句を言える。ルーノが突破口をこじ開けてくれた形だ」
「私なんかに、そんな影響力が有るのですか?」
「有るぞ。この街の産業の基幹はダンジョンドロップ。その産出を担うは冒険者達。ルーノは現在そのトップだぞ。しかも圧倒的な強さの。今、ルーノの決定に抗おうとする冒険者が居るとは思えん」
「まじすか……」
ちょっと……思った以上に……なんというか。
今の私の立ち位置って、そんな事になってんの?
いや話を聞くと、そうなんだなと理解出来るけど実感が沸かない。昨日の今頃の私は宿無しの流れ者だったんだけど……。
スケールの大きさに膝がカクカクしてきた小物な私に、ゴーガッツが頭を下げる。
「……結局、俺はルーノを利用しようとしている、と言える。申し訳ない」
「い、いえいえいえ。で、でも私は何をすれば良いのやら……」
「心配はいらないよ。具体的に何かするのは俺と領主様だ。それに既に昨日の一件で、グラッツという古参冒険者をトップ冒険者のルーノから信任されてギルドマスターである俺が裁く、という実績を作ったしな。体制の変更も行うと誓った訳だし、その実績を今から作ろうと言う訳だ」
「あれ? 今まではギルドマスターに、そこまでの権限は無かったんですか?」
「有る……はずなんだが、長い実力主義の間にギルドの風紀は実質的にトップ冒険者が決める、という風潮になってしまっていてな。ドレイクバスターズは腐った奴では無いが、そういったのには無頓着で『強きに従え。弱い奴は知らん』だったからな。というか、歴代トップ冒険者は、ルーノ以外は皆同じ様なものだった」
なるほどね。
ギルド職員の権限はギルドマスターに有るけど、冒険者相手にはそこまででは無かったのか。冒険者の立場が強過ぎるこの街では、トップ冒険者の立場は相当な訳だ。
「と言った訳で、俺に体制の変更を任せて貰えるとありがたい。対価としてこの街に滞在している間は、可能な限り便宜を図らせてもらう。領主様にも協力して頂けるだろう」
「……ただ、私はこの街に長く居るとは限りませんよ?」
「それでもヴェダダンジョンを踏破するまでは滞在するのだろう? それ位居てくれれば十分だよ。元々、ルーノがこの街に来る以前から考えていた事だからな。ルーノが居なければ、立ち行かない様な体制にするつもりは無い」
「事情は分かりました。そういう事であればトップ冒険者として、ゴーガッツさんに委任出来る事はお任せしますよ」
「ありがたい……のだが、良いのだろうか? 先にも言ったがルーノを利用しようとしているのだぞ?」
「便宜を図って貰えるのなら私にも利益が有りますからね。持ちつ持たれつの関係の方が健全です」
というか、私がギルド風紀を決めるなんて出来ないし、したくも無いよ。
だからむしろ、押し付けたい。やって下さい。
それに暴力で怖がらせて、特別扱いされたり便宜を図ってもらうと言うのは、一方的で筋が通らないし、しっぺ返しを喰らいそうで私自身嫌だった。だけど、ギブアンドテイクな形でならスッキリする。
前世では、私は利用する価値も無い雑魚だったからね。鉄砲玉として使い捨てにされるくらいだった。今世ではまともに利用価値が有る程度にはなったと言える。
酷い形で利用される訳では無さそうだし、そういう形であれば、利用されるのも吝かではない。
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