第134話 ヴェダの領主

 結局、大騒ぎになりギルドマスターのゴーガッツが出て来て、彼に事情を説明して現在彼の執務室である。


「お騒がせして申し訳ないです」

「いや、こちらこそ……それは良いのだが……今後ルーノの担当は俺と言う形にして貰って良いだろうか? 特別扱いはして欲しくないと言う事だが、Aランク素材の話とかは受付嬢では荷が重いからな。別にAランクレベルでなく低ランクの内容でも構わないから」

「……そうですね。それでお願いします」


 しかし、皆怯えすぎだよ。

 ……そんなに私、怖いかなぁ?


 ……怖いよなぁ。

 

 圧倒的暴力を振りかざしながら「無かった事にしない」を結構連呼したからな。今思えば、あんな舐められるような恰好をしておきながら、いざ舐めた真似されたら「無かった事にしない。死ね」な所はやり過ぎた。せめて打撲拷問で強さを見せつけた後「次は無いぞ」と、一回くらいは警告を挟んでおくべきだったよ。

 それに私の怒り方は弱者基準だったからね。「強い奴に従え」なこのヴェダの街の気風に馴染んだ冒険者や受付嬢にとって、私の怒る基準が分かりにくいのかもしれない。


 何に怒るか分かり難い上に、怒らせたらワンミスで終わり――私はそんなイメージなのかもしれない。


「ところで……今日は何でフード付きローブなんだ? 昨日の格好で来るものと思っていたのだが」

「え? えっと……恥ずかしい……ので……」

「……は? ……今なんて?」

「いや、昨日のあの格好は、恥ずかしくてですね」

「……はあ?」


 困惑のゴーガッツ。


 いやまあ、今世の私の見た目に、あの魔装服が似合ってるとは思ってるよ。

 見る分には大変私好みで眼福である。見る分にはね。

 だけど忘れちゃ困る。私の前世は男。中身はオッサンだぞ?

 見る分には良いけど、自分がそういう格好をして他人から注目されるのはキツイんだよ。

 体にフィットしてて体のラインを見せながらも、袖や裾等所々にフリルやレースが使われてて中々にフリフリ。そして極めつけの絶対領域。


 キツイわ!


 いや、ホント、視線が凄いってのよ! 視線に鈍いはずの私でも嫌でも感じるわ!

 アイドルって、よくあの視線に耐えられるな。


 昨日までは、魔装服姿を晒したのは魔物以外では、ルタの村の人達と勇者シルヴィナスパーティーだけだった。『誠実の盾』の生き残りもか。

 勇者シルヴィナスパーティーとは、ダンジョンでの不意の遭遇で仕方なし。

 ルタの村では魔装服作成者のイリーナさんの「着なさい」眼力が凄まじかったのもあったが、あの頃は私がまだ、剣と魔法の異世界に幻想を抱いていたのもあったんだよね。

 大きい街に行けば、フリフリな可愛い服を着た可愛らしい格好の魔法少女とか、防御性能に疑問がある様なへそ出し軽戦士美女とか、そんなファンタジー美女美少女冒険者が普通に居るのかと思ってたんだ。

 あの頃は……。


 だけど、それなりに旅してきて分かった。


 居ないよ、そんな奴!

 私だけだわ!

 敢えて言うなら、あのサキュバスくらいか?


 イリーナさんの作成した服、何処の誰が着てるんだよ?

 いやまあ、貴族なんだろうけどさ。だからイリーナさんの服着てたら家出貴族令嬢と間違われるんだろうけどさ。着てなくても間違われてるけど……。


「う……む……そ、そうなのか。いや、しかし……申し訳ないのだが……既にルーノに関する各所通達は、昨日のルーノの服装で伝えていてだな」

「ええー!?」

「誰にでも分かり易いからな。それに今朝の様なトラブル防止の為にも、ルーノには分かり易い姿で居てもらいたいんだ。スリストの魔剣で攻撃されても燃え尽きない程だから、防具としても高性能なのだろう?」


 ぐぬぬ……。

 しかしまあ、今更目立たず周囲に埋没しようとするのも無理があるか……。

 それに例の件が起こったのは基本的にグラッツのイチャモンが原因だが、敢えて私に原因が有るとしたら、舐められるような恰好だった……というのはあるからな。

 それを言ったら、魔装服姿の私も大概強そうには見えないのだが……この格好の方が周知し易いというのは分かる。

 あのような一件の再発とトラブルを防ぐ為と言うのなら仕方がないか。


「……分かりました。この街では、なるべくこの格好で居る事にします」


 ローブを脱いで魔装服のみ着用姿となる。まあ、この方が動きやすいしね。


「協力に感謝する。さて、早速だがルーノはこの街の領主様に会う気はあるか?」

「出来れば貴族の方とは関わりたくないのですが……私の事は領主様の耳にも入ってるのですか?」

「実は俺はこの後、昼過ぎから領主様と面会する予定になっている。その時に報告するつもりだ。既に面会希望の手紙にも事のあらましを書いて送ってある。ドレイクバスターズを相手に、あれだけの人の前で圧勝したルーノの存在を隠すのは無理だからな。領主様も絶対注目する事になる。完全に関わらない様にと言うのは無理だが、会う気が無いのなら、そういう方向で話してみるよ」

「会わないで済むなら助かりますが……可能なのですか?」

「何とかするよ。この街が脛に傷がある奴であっても、余程の犯罪者でなければ受け入れているのは知ってるな? その方針を打ち出されたのは領主様だからな。実力者の中にも貴族に会いたくない者が、一定数居るという事は理解されてるさ」

「なるほど、ではお願いします」


 理解のあるタイプの貴族なのかな?

 とはいえ、競争原理を利用し、貧富の差を大きくする様な政策をとる領主だからな。


 街中や門外に溢れている、浮浪者達の姿を思い出す。


 優秀な一面を持つ領主なのだろうけど、私とは相性が悪いかもしれない。

 会わないで済むのならその方が気楽だ。


「領主様には、昨日、ルーノに誓った通りの方針にギルド体制を変更する事を報告する。領主様の協力も得られるだろう」

「え?」


 本気か?

 いや、確かにそういう話ではあったけど……一晩経って冷静に考えてみたら、随分と私寄りの方針過ぎるし、実力主義な今とはベクトルが逆で実行は難しいのでは? と思い始めてたんだけど。


「確かにそういうお話でしたけど……今までと方針が逆になると思います。それでも領主様から協力が得られるのですか?」

「……ふむ」


 ゴーガッツは少し思案した後、私を見据える。


「ルーノには誠実であるのが一番だと思うから、正直に言うよ。実は俺も領主様も、現状の方針転換がしたかったんだ」



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