第131話 ギルドマスターと事後処理

 グラッツとエミリアとの契約を双方同意の上で解除し、ギルドマスターの執務室に案内され、ギルドマスターのゴーガッツと話す。


「今回の件に関わった奴等の裁きだが、主犯のグラッツは反省の色が見られる為、二週間のギルド出入り禁止と罰金で済ませたい。その後はギルドの監察対象とする。良いだろうか?」

「はい。お任せします」

「……ありがとう。ギルド資格を剝奪したら、盗賊落ちコースだからな。あれでも一端のベテラン冒険者だからな」


 ……ホッとした様子のゴーガッツ。


 別にあんな奴、今後私に関わらなければ、もうどうでもいい。

 まあ、敢えて自分から言わなければバレなかったであろう事も自白したのには、些か驚いたが、それは私が怖いからであって、本当に反省した訳ではあるまい。

 とは言ったものの……ちょっと気になる事が。


「グラッツさんって私が見る限り、ずっと酒場で飲んだくれて、私に執念深く絡んで来るくらい暇に見えてたんですけど……それでも一端のベテラン冒険者なんですか?」

「ここ最近はな」

「ここ最近?」

「一ヶ月程前から、内戦や戦争の噂のある西のラディエンス王国から、大量の人がこのヴェダに流れて来ててな。特に身軽な冒険者の多くはこの街に来て、ダンジョンに入るようになったんだ。それでダンジョンが混み、グラッツだけに限らずこの街の古参冒険者全体にとって、効率が悪くなってる事に苛立ってたみたいでな」

「……」

「だからまあ……おそらくだが、新しくやって来たルーノが、それなりに薬草とか採取出来るのを見て……」

「……そう……でしたか」


 自分の生活や立場を守る為だったのなら、少し理解出来る所はある。

 勿論、それを理由に好き勝手して良いと言うつもりも無いが……。


「古参冒険者としての縄張り意識や面子も有ったと思われる。結局、悪意あっての事だがな」

「出る杭を打っていたという気持ちは……少し分からなくも無いですね。あのやり方は悪質過ぎでしたが……」

「……ルーノは弱い者苛めする奴が許せないという?」

「ハハハ……まあ過去にちょっと色々ありまして」


 過去と言うか前世だけどね。


「ふむ。貴族社会ではそういったのは更に苛烈だろうからな」

「貴族?」

「ルーノは貴族出身ではないのか?」

「……はい? いえいえ、貴族では無いですよ」

「しかしその見た目で……いや、詮索はしないでおこう。当初は仮面を付けてたという話だから、そういう事だよな」

「……」


 ここで気が付く。


 今の私の格好――魔装服のみ着用。


 あるぇええ!?

 変声の仮面と着込んだローブは!?


 ……。


 あ~、あれか……あの時だ。


 スリストに魔剣で斬り付けられた時に、電撃で燃えちゃったんだ。もしくは私が流した膨大な魔力量に、専用化された魔装服以外が耐えられなかったんだな。

 てことは、私はこのゆるふわ天使(悪魔だけど)系美少女の顔で、フリフリの服で、絶対領域晒しながら、一人称俺で暴れてたのか?


 ……やべぇ。


 なるほど……ゴーガッツは私が貴族社会の苛烈な苛めから逃げ出した、貴族令嬢だと思った……って感じか。

 しかし私はそんなに貴族令嬢に見えるのだろうか? 確かに高貴な令嬢でも通じる美少女顔ではあるが、貴族的なオーラや雰囲気は私には無いと思うのだけど……。

 あ、いや、だからか……。

 私は貴族令嬢だと思われているのではなく、貴族社会に適応出来ずに家出した家出貴族令嬢に見える訳だ。


「ど、どうした? いきなり頭を抱えて」

「い、いえ。本当はこの見た目も実力も隠しておきたかったのですが……もう無理な状況かなと」

「大勢の前であれだけ派手にやったんだ。今更箝口令を出しても無理だよ」

「ですよね~」

「隠したかった理由は聞かないよ。ルーノを敵に回したくないしな」


 ま、まあ、もうどうしようもないか。

 とりあえず、詮索はしないというのなら、ありがたい。


「話を戻すが、今回の薬草の件はグラッツが騙して、根を切ってしまった物も含めてギルドから報酬を出すよ」

「う~ん。根を切った物は良いですよ。私の知識が浅かったのも原因ですしね。使えない物に、お金を出してもらう訳にはいきません」

「……そうか。分かった。何も無かった事にはしないから、グラッツには罰金として加算しておく。それとルーノを俺の裁量でCランクにしたいと思う」

「それもありがたいのですけど、先程の薬草の様に、私には知識や経験がさっぱりなんですよね。護衛とかもやった事無いですし。Gランクから経験を詰みながらやっていきたいです……ってのは無理ですかね?」

「む……しかしダンジョンに入れるのは規定によりEランクからだぞ? ルーノ程の強さなのに勿体ないと思うが」

「あ~、そうでしたね」

「まあ、ルーノの意思を尊重するよ。この街でしか使えないが……」


 ゴーガッツはそう言いながら執務用の机の引き出しから、紋章の様な物を取り出し、私に渡して来る。


「この街に限り、この徽章を持っている者をAランク冒険者相当と認めるという証だ。これでダンジョンにも入れる」

「あまり特別扱いは恐縮なのですが……あ、でもこれって宿屋とかにも効きますかね?」

「この街でなら高級宿でも効くさ……と、言いたいところだが……ルーノの見た目は冒険者には見えないから、いきなり持って行っても疑われかねないな……。早速今日、宿を移るつもりか?」

「宿を移ると言うか……現状、私は宿無しなので」

「どういうことだ? 確かにこの街は冒険者ランクによっては入店や宿泊を断る店や宿があるが、泊まれる宿が全く無い事は無いだろう?」

「最初は泊まれてたんですけどね。ギルド証がこうなってからは……」


 そういって私のギルド証を見せる。

 粗末な木製のGランク冒険者証には、赤い文字で大きく『ギルド出入禁止』『下水局出入禁止』と書かれてたり、×マークが書かれてる。

 それを見たゴーガッツは、疲れたように溜息を吐く。


「……本当に申し訳ない。現場ではこういう事になっていたとはな……これら全て取り消すよう受付に言っておく」

「ええ、お願いします」

「この話が終わったら、ギルドの向かいにある『竜の息吹亭』という宿に話を通しておくよ。ギルド前の一等地の高級宿だが、白金貨持ってるルーノならお金の問題はないだろう?」

「助かります」


 これで宿無しから解放された。

 別に野営でも問題は無いんだけど……久しぶりにベッドで寝たい。


「……話の続きだが、エミリアも二週間の謹慎と罰金だ。その後は観察対象……グラッツと一緒だな。良いだろうか?」

「はい。お任せします」


 エミリアはグラッツ以上にどうでもいい。


「それと一番ルーノに危害を加えたドレイクバスターズに関してだが……」

「私個人としては、彼等は罪に問いたくないです」

「……弁護の余地が無い位に、殺そうとされたのにか?」

「グラッツさんやエミリアさんと違って、彼等に悪意はありませんでした」


 私が前世で弱い者苛めされる側だったから、なんとなく分かるのだが、ドレイクバスターズは弱い者を甚振って悦に浸る様な奴等では無い。まあ『弱い奴に時間かけるのなんて無駄無駄』位には思ってそうだが……。

 確かに危害は加えられたが、それは主張のぶつかり合いによるもの。グラッツやエミリアの様な『弱者には何しても良い』という悪意による危害とは、全くの別物だ。


 私の主観ではそこが大事なのだ。

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