第130話 一応の決着

「お初にお目にかかる。俺がこの街の冒険者ギルドのギルドマスターのゴーガッツだ。これ以上ギルドを壊されては敵わんからな。この状況に至った経緯を聞かせて欲しい」


 ようやく現れたギルドマスターの言葉を聞いて、改めて辺りを見ると……床が抉れ、所々穴が開き、焼け焦げている場所もある。

 ネクトの放ったのであろう流れ矢があちこちに刺さってて、ロンディアの魔法で一部凍り付いてる。

 他の冒険者や受付嬢達は離れた場所で遠目でこちらの様子を見てる。そういや、さっきから外野が若干静かだと思ってたけど、離れてたからか。


「……今更、何しに来やがった? 俺はもう冒険者ギルドを追放されている只の流れ者だ。ギルドの偉い人だろうが、相手にする気は無いね。建物を壊したのを俺のせいにして、ここのギルドの大好きなイチャモンタイムかよ?」

「あ、あの……ルーノさんの追放は取り消すと……何度も申し上げたのですが……」

「ギルドから追放するしないはギルド側の権利。好きにするといいさ。実際に好き勝手した結果だろ? だけど俺がギルドに戻るかどうかは、俺の意思もあるだろ? それを無視して、追放取り消しって言ったのに……なんて、都合悪くなったから無かった事にしようとしてるだけだろうが」

「エミリア、黙ってろ。ルーノ……が君の名前だな? その辺りの事も聞かせて欲しい」

「何を聞く気だよ? 受付嬢や冒険者達が、俺の訴えを聞かず、好き勝手弄んでくれやがった結果が今の状況だよ。もうギルド側との話し合いの段階は過ぎている。今更出て来ておいて、部下のやった事だから自分には関係ないっていう体裁で、都合良く状況をリセットしようって魂胆かよ?」

「申し訳なかった」

「………………うん?」


 いきなり私に頭を深く下げる、ギルドマスターことゴーガッツ氏。


「話をしようとする前に謝罪が必要だったようだ。順番を間違えてすまない」

「……何に謝ってるんだよ。とりあえず謝っとけな形だけの謝罪なんて要るか」


 何の反省も無い、言葉だけでその場限りの誤魔化し謝罪……喉元過ぎ去った後は、結局行動は伴わず、むしろ陰湿な報復をしてくる。

 そういうのは前世で散々体験してきた。


「その通りだ。すまないが少しエミリアや関係者から、状況を問い正す時間をくれ」

「……」

「エミリア。お前、何をした?」

「……あ、あの。た、確かに最初はルーノさんの……あ、いやグラッツさんが被害に遭ったって……わ、私はそれに騙されちゃって……」

「グラッツも含めて一から聞かせて貰おう。良いな? グラッツ」

「はい」


 こうして始まった、ギルドマスターの追及と確認。


 意外にも素直に自分の罪を語るグラッツ。

 特に意外だったのは下水道での件で、グラッツが浮浪者に小銭を握らせて、私が掃除した後にゴミを詰めさせたと、自ら自白した事だ。

 グラッツが関わってた事が意外だったのではない。敢えて自分から自白した事が意外だった。グラッツが絡んでる事は聞き耳で知っていたけど、その具体的な方法までは私には分からなかった。

 自分から言わなければ……知らない、浮浪者が勝手にやったのでは、と言われてしまえば……追及しようがなくて流せたかもしれないのに。


 逆にエミリアは質問に質問で返したり、何処までバレてるのか、何処までだったらグラッツのせいに出来るか、何処までだったら流せるか、そのラインを探ってる感が凄かった。

 しかしゴーガッツに睨まれ、最終的に非を認めた。


 私を面白半分に蹴ってた冒険者達も、対応が不味かったと他の受付嬢も謝罪してきた。

 それらを黙ったまま見つめる。


 そして……。


「ルーノ。俺を殴れ」

「……」

「ギルドマスターの俺が何の痛みを負わずに、謝罪を受け取ってもらう訳にはいかない。最後に俺を殴る事で、謝罪としてもらいたい」

「……」

「勿論、具体的な話、けじめはその後で別にちゃんとさせてもらう」

「……」



 ……なんか……イラつくな。


 なんなんだよ……全面降伏じゃないか……。

 謝ったら負け、と思わないのかよ?

 もっと往生際悪く足掻けよ。

 もっとやる事が残ってるだろ? 誤魔化しようがあるだろ? 『そんなに嫌がってるとは全く思ってなかった』だとか『馬鹿正直に真に受けるなよ。冗談だろ?』とか言って、こうなったのは私に原因が有る様に話を作らないのか?

 まだまだ私の言動には粗が有るだろう? 粗捜しやこじ付けすれば、まだまだ言い様があるんじゃないのか? 何故其処を突こうとしない? 弱い者苛めする奴等って、そういうの大好きだろ? なんで今回に限ってしないんだ?

 前世で事ある毎に私に見せ付けてくれた”私相手には絶対に非を認めるものか”と言わんばかりの、凄まじい執念は何処行ったんだよ!?

 こじ付け、粗捜しだけでは飽き足らず捏造までして、被害者面しないのかよ!?

 そういうのと戦いに来たのによ……何でアッサリ謝ってるんだよ!?

 



 ……。




 ……はい。


 分かってます。本当は分かってました。

 簡単。誰にも分かる簡単な事だ。


 前世の私は怒らせようが、敵に回そうが怖くないから……だから私に非が有ろうと無かろうと好き勝手してくる。私には何しても良いと思ってる。どんなに自分が悪かろうが、格下に見てる私相手には、絶対に謝りたくない。

 だから”私相手には絶対に非を認めるものか”という凄まじい執念を持つのだ。


 今の私は怖くて敵に回せば勝ち目はない。泣き寝入りさせる事は不可能。

 だから言いたい事があっても飲み込んで従ってくる。私を格下だと見てないから、頭を下げる事が出来る。


 ……当たり前過ぎる事だ。


 なんというか……力を手にしたら……その時には叩きのめしたかった相手は、もう居ない。消えちゃう感じ?

 私は存在しないナニカと、戦おうとしてたのだろうか?


 結局、前世の鬱憤を思いっきり今世の連中にぶつけてるだけの現状……我ながら色々破綻してるな……。


「……」


 辺りを見回すと、皆、真っ青な顔で私の答えを待っている。


 ……さて、どうしますかね?


「……ギルドマスター、一つ聞いて良いですかね?」

「な、なんだ?」

「ここが実力主義というのは聞いた事があるのですが、今回の私が受けた件はそういった類だと思いますか?」

「……ここ最近、隣国から人が流れて来ていてダンジョンが混雑していた。それ故に競争原理の一種として発生してしまったものだと思う。だが健全ではない。今回のルーノの件は明らかに度が過ぎてる。あんな弄ぶような真似はな。俺としても苦々しく思う」

「……」

「他人事で済ますつもりは無い。今回の様な件が起きたのは俺の失策だ。今まではギルド内の風紀を、古参冒険者達の裁量に任せ過ぎていた」

「……」

「今後は理不尽な目に遭ってる新人の訴えに、耳を貸せる体制を。そして理不尽を強要する冒険者を裁く体制を構築を考えている。正直、完全に無くす事は難しい。だがこれからはギルドで風紀を管理したい。職員達も再教育だ。だから……その始めとして、今回絡んだ奴等の裁きは俺に任せてほしい」


 ふーん。本当かな?

 体制を変えるなんて、そんな簡単では無いはずだけど……。


「弱者救済しろとまでは言いませんよ。慈善事業ではないでしょうからね。ただ初めてギルドに来た私が、まともに話も出来ない……というのは理不尽過ぎますね」

「その通りだ。申し訳ない。ルーノの様な目に遭う新人は今後出さない様に誓う」


 ……そうか。

 私と同じ様な理不尽に合う人が居なくなるのなら、まだやった甲斐があるかな?


 ……なんて嘘だな。


 今後の誰かの為では無い。他の誰かの為では無い。

 私自身が、そういう環境を求めていたんだ。

 弱者の私でも、まともに話を聞いて欲しかったからだ。

 結局、私は私の事しか考えていない。


 ……とはいえ、ここが落としどころかな?


 どこまで本気で言ってるのかは分かんないけど……色々と対応改善すると言っている、このギルドマスター相手に意地張る事も無いな。

 少なくとも、しばらくは様子を見ても良いだろう。


 魂契約は発動可能だけど……乱発は止めておこう。

 約束通りにしてくれるなら良し。裏切ったら街からさっさと立ち去ろう。こんな街にリスクを負ったり、労力を注ぐ方が勿体ない。


 もう、グラッツやエミリアなんか、どうでも良い。

 あいつ等より、ドレイクバスターズだ。

 このギルドマスターに対応して貰うか。



「……分かりました。あなた方の謝罪を受け入れます」

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