第127話 つまらない意地
「何処まで事情を知ってるのかは知りませんが、私はこの二人との契約を履行しようとしているだけです。口出しは無用です」
「そう言うなって。ルーノは冒険者のレベルが高いと言われてるダンジョン都市の冒険者ギルドで、ここまで大立ち回り出来る強者だ。この俺達が名前を覚える価値が有ると思わせる程にな」
「別に名を売る為に、力を振るっていた訳ではありませんよ」
「まあ、顔を隠してると言う事は、そういう事なんだろうな。だけどもう実力を隠す気は無いんだろ? 俺達がルーノが強者である事を認めてやるよ。ドレイクバスターズも認める強者とあれば、今回の件を知らない奴等にも、街の連中にも効くぜ。だからこれ以上の威圧は不要だ」
……話が嚙み合わない。
しかし……私に対する配慮を感じるのがやりにくい……。
余計なお世話なのだが。
「ご配慮ありがとうございます。ですがそれには及びません」
「……あん?」
「考え方の違いですね。私が力を振るっているのは、相手を従わせる為ではありません。無抵抗な存在になら何しても構わないと、好き勝手してくれた事のけじめを取らずに無かった事にしようとする卑怯者に、キッチリけじめを付けさせる為です。無かった事にさせない為です」
私がそう言うと、今まで黙って様子を見ていたグラッツとエミリアが騒ぐ。
「だ、だから謝ってるじゃないか! それにルーノさんに、もうそんな事二度としません!」
「わ、私だって追放を取り消すと言ってるじゃないですか!」
「自分の都合でコロコロ言ってる事を変える奴は黙れ」
「うぎゃあああああ!」
「うぎぃいいいいい!」
二人を殴って黙らせ……いや、悲鳴でうるさいが……。
そりゃ私にはもう二度としないだろうけど、別の無抵抗そうな奴を見つけて、また同じ様な事をやるんだろ?
「弱者が好き勝手されてる、って所が気にいらないのか? それは弱者が悩む事だ。強者であるルーノが考える事では無いだろ。敢えて言うなら、悔しいなら強くなってやり返せって話だ」
「スリストさんの仰る事が間違っているとは言いませんが、私の考えとは違いますね。スリストさん達を巻き込む気は無いので、関わらないで貰えますかね?」
「……あ~、成程。以前は弱くて好き勝手されてたのか? そして今、強くなってやり返してる。弱者に好き勝手し返してるから邪魔するな、って事か?」
「前半はその通りですが、後半は違いますね」
「まあ聞けよ。ギルド職員を死に追いやれば面倒だぜ? それにそのCランク冒険者達も今の不景気な状況に腐ってるがよ。Cランクになる程度にはダンジョンで稼いで、酒場で飲んで経済回してる。二人共、歯車になれない程の弱者じゃない。強者だけで世の中回らないからな。昔に何があったのかは知らないけどよ。こういう奴等は歯車として、従わせておく方が賢明だぜ」
心に刺さる事言ってくれるね。
正しい。正しいよ。
昔の……前世の私は歯車にもなれない弱者だったけどね。
「けじめを付けさせないと納得出来ないなら…………そうだな。おい、あんた。ルーノをギルド追放取り消しだけではなくCランクまで上げろよ。実力は俺達が認めるからよ。そしてあんたは十日間の謹慎を上に申請しな」
「え? あ、はい! え? ええ? 謹慎?」
「痛みを背負わないとけじめにならねぇだろ? それとお前等も十日間謹慎ね。出歩いてるの見かけたら、俺達がぶっ飛ばすからな。後は薬草を騙して横取りしたって聞こえたな。その分の弁償な」
「「「「は、はい!」」」」
「ルーノ。思う所はあるだろうがよ。落としどころとしてはこの辺で良いだろ?」
スリストが堂々たる風格で、グラッツとエミリアに話を付け、私に問いかけて来る。
流石、ダンジョン都市の冒険者のトップなだけあって貫禄がある。
落としどころとしても、とてもとても妥当だと思うよ。
周りの皆も納得だろうね。
私以外はね。
結局、歯車にもなれない弱者は好き勝手されてろ、って事だよな?
歯車にもなれない弱者の語る余計な真実なんて、歯車になれる程度の被害者面する加害者の捏造話よりも何倍も害悪だ……そう言っている様に、私には聞こえてしまう。
いや、理解はしているよ。それは正しい。
スリストが私に言いたいのは「強者はこうあるべきだ」という事なんだと思う。
歯車になれる程度の奴は残して従わせておいた方が良い。その方が得だ。歯車にもなれないような奴なんて、どうでも良いじゃないか。
歯車になれる程度の奴は、もう逆らう気も無いし、従わせる事が出来るんだ。歯車になれない奴が、歯車になれる程度の奴に好き勝手されている事くらい、飲みこめよ。
……と、そういう事だよね?
それが社会の仕組みだ。正しい。
それが組織の有様だ。当然の事だ。
理解はしている。
だけど、それで私が納得出来る訳が無い。
見苦しい弱者の僻みだと我ながら思う。ただの自己満足さ。
客観的に見たら、私の方が間違ってるんだろうさ。
だけど、考えを変える気は無い!
「その程度のけじめで水に流す事は出来ませんね。契約ってそんな軽いものでは無いでしょう?」
「…………あ?」
「勝手に話を付けないでください。おい、来い。契約履行だ」
「うわああ!」
「ス、スリストさん! た、助けて! 殺される!」
二人を引き摺る。
「おい! いい加減にしろよ。俺が仲立ちしてやってんだぞ? そいつ等がさっきの話の内容を虚仮にする様な事があれば、それは仲立ちした俺達ドレイクバスターズも敵に回す事になる。軽くはねぇ」
「配慮には感謝しますが余計なお世話です。他人に尻拭いして貰う気はありません」
「……それは仲立ちしてやった俺の顔に……泥を塗ると言う事だぞ?」
「どう思おうがお好きにどうぞ」
十日の謹慎程度で、あの執念深い悪意を許す気は無い。
再び二人を引き摺って、出口へ向かおうとしたその時……。
――ズガシャッ!
――と、スリストに頭を鷲掴みにされ、床に叩きつけられる。
「頭冷やせよ。誰に楯突いてやがる」
冷淡な声でスリストが私に言う。
……クソが。手を出しやがったな。
ほっとけよ。
「……邪魔しないで貰えますかね? 考え方が違うとはいえ、関係無い人を巻き込むつもりは無いです」
「ここまで仲立ちしてやった俺達に対して、関係無いとかふざけてんのか?」
「そもそも仲立ちなんて頼んでません。何故……グラッツやエミリアの肩を持つのですか?」
「そういう事じゃねぇ。この街で俺様に従わない意味を分からせてやってんだ」
頭を床に付きつけ、そう言いながら、更に私の腕の関節を固めて来る。
流石に油断はしてない様だ。
「はぁ……はぁ」
「た、助かりました。スリストさん! そんな奴、懲らしめてやってください!」
私が床に叩きつけられたことによって、解放されたグラッツが息を整え、エミリアがスリストを煽る。
しかしスリストはエミリアの声には反応を示さず、冷淡に私に言う。
「……何故抵抗しない? 俺様を舐めるのもいい加減にしやがれ」
「関係ない人に力で訴えたくないんですよね」
「ここまで我を通すために力振るっておきながら、何を言ってやがる。中途半端な真似すんじゃねぇよ」
「余計なお世話と言え、私に配慮してくださったあなたへの配慮ですよ」
「それこそ余計なお世話だ。つか、さっきから気にくわねぇな。力を振るえばお前の方が強いと言うつもりか?」
「そういう事です。最後の警告です。私の邪魔をしないで貰えませんか?」
「だったら俺達を倒して我を通してみな」
……仕方ない。
考え方が違うとはいえ、余計なお世話とはいえ、配慮してくれたスリストの事は嫌いにはなれない。この街で初めて、私とまともな会話をしようとしてくれた人だ。
それに……前世で苛めやいびりに遭ってきた私だから感じる事だけど、スリストは確かに弱者なんてどうでも良いと思ってるタイプではあるが、その一方で、弱者を甚振って悦に浸る様なタイプでも無い。野次馬としても参加しなかった。
わざわざ、立場の弱い奴を探して、手間をかけて追い込んで、時間をかけて甚振る。そんな事にエネルギーを注ぐ、私の大嫌いな卑怯者では無い。
嫌いにはなれない……嫌いでは無いが……。
……なるべくなら関係ない奴は巻き込むつもりは無かった。
ただし、あくまでなるべくだ。
元々事を大袈裟にする気もあった訳だし、関係ない人に全く影響を与えないというのも無理がある。
そっちから勝手に首を突っ込んできて、そっちから手を出してきたんだ。
多少の痛みは覚悟しろよ!
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