第128話 やる以上やられる覚悟が有る

 無抵抗だった意志を切り替える。

 その途端に私の高いステータスが仕事をし始め、固められた腕を難なく戻し、抑えられた頭を上げる。


「――何っ!?」


 いきなり私の体を自分の力で動かせなくなった事に驚いたのか、スリストが距離を取る。力技で振りほどかれると思っていなかったのか、スリストの仲間達も警戒の表情を浮かべている。


 私は立ち上がって、スリストに言う。


「俺の方が強いと分からせてやるよ。その後は口出しすんじゃねぇぞ」

「……ようやくその気になったかよ。いいぜ。俺とタイマンだ」


 スリストと向かい合う。


「お、おい。マジかよ。あの仮面小僧。スリストさんとやり合う気か?」

「ドレイクバスターズに逆らうとか、馬鹿か?」

「頭に血が上り過ぎだろ。無謀過ぎる」

「い、いや、グラッツ達Cランクを、まとめて相手に出来る奴だぞ?」


 周りの冒険者達が騒然とする。

 というか……タイマン?

 

「四人全員でかかってこい。まとめて相手してやるよ」

「――いい加減にしやがれっ!」


 スリストが弾かれたように、真っすぐ飛び込んで来る。

 流石にグラッツ達より早い。

 ただ、グラッツ達と比べたらの話だ。

 私との間に絶大な差が有るのには変わりない。


「――っと!」


 ――なんて思っていたら、スリストが目の前で急に加速。更に私の顔目掛けて目の前に迫った拳はフェイントで、足を払いに来ていた。

 慌てて足払いを避ける。

 目の前で速度を変えてくるとは。

 加速しても、まだまだ私にとっては遅い。

 遅いのだが、緩急と虚実織り込んだ攻撃は流石Aランク冒険者。見事だ。

 巧みで避けづらいコンビネーションを、距離を取りながら避け続ける。

 しかし距離を取るだけの避け方だと、次第に壁へと追いつめられていく。避ける方向を誘導される。ホント流石だな。


 しかしそれでも、私との間には絶大な能力差が有る。

 流れるような攻撃だが、それでも攻撃の撃ち終わりには隙がある。


 撃ち終わりの引きのタイミングで懐に入り込み、打撲拷問を意識して殴る。


「ぐぅうおおおお!」


 スリストを仲間達の元へと殴り飛ばす。


「うお!」

「ス、スリスト!」


 流石のスリストも、私の圧倒的な速度には反応し切れなかったようだ。

 大幅にレベルの上がった今なら、あのサキュバスでも私の速度に反応出来ないかもしれない。


「げぇえ! スリストさんが!」

「て、手加減し過ぎたんじゃ……」

「馬鹿言え! スリストさんが吹っ飛ばされる前の、凄まじい攻防を見ていなかったのか!?」

「「「早すぎて見えてねえよ!」」」

「実は俺にも見えてなかった」


 騒然とする外野達。


「ぬううあああああ! ふざけやがってぇえええ! 許さんぞぉおおおお!」


 その騒然とした空気を吹き飛ばすかのように、スリストが叫びながら立ち上がる。

 打撲拷問の一撃を喰らって、すぐ立ち上がるとは凄い気力だな。


「ふざけやがってぇえ! 望み通り四人で相手してやるっ! ダムザード! ロンディア! ネクト! マジでやるぞ!」

「おう! 今のは許せねぇぜ!」

「なんたる屈辱ぅ!」

「キツイお灸が必要なようだなぁあ!」


 ……。


 いきなり四人で来るのかよ……。


 いや、確かに四人まとめて来いって言ったけどさ……私が言うのも何だが……キレ過ぎじゃね?

 残りのメンバーもブチ切れてるし。


「そっちから殴りかかってきた所を、殴り返しただけだろうが。殴り返されたからってそんなに怒るのなら、そもそも――」

「「「「――違うわぁああ! ボケェエエエエ!」」」」」


 お……おおん?


「てんめぇえええ! ふざけた反撃しやがってぇえ! どこまで俺に舐めた真似してんだぁごらぁあああ!」

「そうだ! 手加減系のスキルの発動を感じたぞ! 俺達には分かるんだよ!」

「手加減されるとはぁああ! なんたるなんたる屈辱ぅ!」

「手加減なんて出来なくなるまで、追い詰めてやるぁああ!」


 え?

 キレてるの……ソコ?

 そ、そう言われても……手加減しないと殺しちゃうんだよ。


「これでも手加減出来るもんなら、してみやがれぇえ!」


 巨漢のダムザードを先頭に、他の三人がその後ろに続く。

 ダムザードの陰で、残りの奴等の動きが見えにくい。

 相手からも私が見えにくいだろうが……そこはちゃんと連携取れてるんだろうな。同じ理由で怒る位に絆の強そうな四人だし。

 参考になりそうだし、場合によってはじっくりこいつ等の技量を見てやりたいところだったが……それは、こいつ等に対して更なる侮辱になりそうだ。


 それにいい加減……うざいんだよ。

 正面からぶちのめす!


 相手の攻撃を敢えて避けず、四人全員とお互いに拳をぶつけ合う。


「「「「がはああああああ!」」」」


 当然、四人が吹っ飛ぶ。私はノーダメージでビクともしない。


「これで力の差が――」

「「「「――うおおおおお!」」」」


 蹲る四人に声を掛けてる途中で、苦悶の表情を浮かべながらも、すぐ立ち上がってくる四人。

 なんちゅう執念だ。


「がふっ……てっ……てめえぇ!! また手加減しやがってぇ!」

「しかも避けれたのに避けないとは……どこまでもぉおお!」

「手加減しないと、お前等が死ぬからだよ」

「……なんたる屈辱……おのれぇえ!」

「このままじゃ……終われねぇええ!」


 再び殴りかかって来るドレイクバスターズ四人を殴り飛ばす。

 それでも起き上がり続ける四人を殴り続ける。


「いい加減そこまでにしとけよ。ここまで歴然たる差が有るんだぞ? お前等の方が弱いんだから、俺に逆らうんじゃねぇ。お前自身がそういう感じの事を言ってただろ?」

「だからこそ負けられねぇんだよぉお!」


 ドレイクバスターズは何度でも起き上がり、私はそれを殴り続ける。

 形は違えど、執念深さでは私以上だな。


「……く……あくまで手加減……続けるのかよ」

「元々お前等と喧嘩する気は無い。俺の我を通すだけの力は分かっただろ? 分かったらこれ以上口出しするな」

「……俺達を……本気の喧嘩相手として……見ていないってのかよぉおおお!?」

「そういう意味で喧嘩しないんじゃないんだがな。それに何度も言っているが、俺が本気を出したら、お前等を殺しちまうんだよ。お前等と喧嘩する理由も殺す理由も無いからな」

「……そうかい」


 ドレイクバスターズの面々が武器を抜く。


 おいコラ待て。


 お前等と状況をエスカレートさせる気は無いぞ。


「ルーノ。俺達には……殺そうとする以上、殺される覚悟があるぜ」

「これでお前にも殺す理由が、本気出す理由が出来ただろ?」

「殺されたくなけりゃ……俺達を殺しにこいやぁあああ!」


 大盾を構えて突進してくるダムザード。

 スリストの持つ魔剣に魔力の流れ。

 ネクトからは私に向けて矢が放たれる。

 その後ろではロンディアが魔力を練って詠唱してる。


 ガチで殺しに来てやがる。


 あーもう。

 むかつくな。

 私がボロクソに殴ってやりたいのは、お前等じゃ無いんだよ!


 打撲拷問は本来、その名の通り拷問用のスキル。

 ドレイクバスターズ程の強固な信念や執念を持つ相手では、痛みだけの拷問では心を折る事は出来ない訳だ。


 仕方ないな。

 腕の一本や二本は覚悟して貰おうか。

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