第125話 ある意味勇者登場?
「山の方にオーガの集落を複数見つけてある。探す手間は俺が省いてやるよ。連れて行ってやるから、すぐに行くぞ」
「ま、待って! こんなのおかしいでしょ!」
エミリアが叫ぶ。
グラッツ達も焦って騒ぐ。
「そ、そうだ。オーガを何体も狩れる訳が無い!」
「お前等が袋の中身は自分で集めた物って言ってた癖に、語るに落ちてるぞ。ゴチャゴチャ言ってないで早く行くぞ」
「ち、違う。こんなの……こんなの……騙したなっ!?」
「そ、そうだ。卑怯だぞ! このオーガの角は何処かで買った物で、こっそり忍ばせたんだろ!?」
「そうよ! 後でオーガの角を入れたんでしょっ!」
「俺達を先にオーガと戦わせて、死なせて、うやむやにする気だろ!?」
「オーガ程度で騒いでんじゃねえよ。それなら俺が先に討伐証明してやるから、早く来い」
「「――あぁっ!」」
騒ぐグラッツとエミリアの首根っこを掴んで引き摺る。
「や、やめてくれぇぇえ! お、オーガの集落なんて、殺す気かよ!?」
「いやぁぁあ! こ、殺される!」
こいつ等の言う通り、グラッツとエミリアをオーガの集落に放り込めば、確実に死ぬだろう。
だけどそれはこいつ等の自業自得だ。やり過ぎだとは思わない。
実際にこいつ等が私にした事は、地元民でもないGランク冒険者にとって命に関わるレベルだった。基本的にGランク冒険者の稼ぎだけでは、生活するだけで精一杯だ。他の街に移動するのだって、魔物の居るこの世界では大変な事なのだ。
私は普通のGランク冒険者では無かったから、命に関わる様な事にはならなかったが、それは結果論だ。普通ならGランク冒険者の収入を断つ様な嫌がらせなんて死ね、もしくは奴隷に落ちろ、と言っているのと同義だ。それか無茶をして怪我をして……この街に屯す浮浪者の一員となる。こいつ等の嫌がらせによって、生まれた浮浪者だって居るのだろう。
こいつ等のやった事は、明確な悪意有っての殺人に等しい。
……いや、正当化するのは止めよう。
私を陥れる為に作った、自分達の話で死ね。
「すまないっ。俺が悪かったぁ! お前が盗んだなんて嘘だ! や、薬草の時も騙してました! 嘘付いてごめんなさい。ごめんなさいっ」
「ち、違うんです! 私は違うんです! グラッツさんがあの袋の中身も、薬草の時も盗まれた物だと言ってたから! 私も騙されただけなんです!」
グラッツはようやく謝罪に転向したらしい。エミリアは酷過ぎる。
だけど今更謝っても遅い。
グラッツの謝罪は、どう考えても自分の危機的状況を回避する為の謝罪であって、反省しての謝罪では無い。
反省してるとしたら『喧嘩売る相手を間違えました』という意味であって『弱い奴になら何をしても構わない』という行為を反省している訳では無い。
反省出来る様な奴なら、そもそも最初からそんな事しない。
エミリアに至っては論外だ。
「最初の俺の訴えを全く聞きもしなかった癖に、都合が悪くなってからの謝罪なんて受け取らん」
「た、頼む……いや、お願いしますっ。二度とこんな事はしません! 反省してます!」
「お願いしますっ。追放は取り消して、ギルド職員としてあなたの名誉回復と今後の活動に、可能な限り配慮しますのでっ!」
「お前等の反省も配慮も今更要るか」
「いや、だからっ! 謝るから契約解除してくれ……してください! オーガなんて無理だ! 死んじまう!」
「その時は自分達の作り話で死ね。俺の知った事か」
「そ、そんな!?」
「いやぁあああ!」
二人を引き摺ってギルドの出口へ向かう私に、グラッツのパーティーメンバーが縋り付いて来る。
「待ってくれ!」
「お、オーガなんて……し、死んでしまう」
「契約はグラッツとエミリアの二人に対してだ。お前等は参加するなり、見殺しにするなり、好きにすればいい」
「でもそれだと、グラッツが死んじゃうんだ!」
「俺達じゃ四人でもオーガに勝てないんだ!」
「剣を向けて悪かったっ! すみませんでした!」
「どうか、どうか……お許しを!」
「俺達とグラッツは幼馴染なんです。お願いしますっ!」
三人が道を塞ぐように土下座し、グラッツの為に命乞いをしてくる。エミリアは良いのか?
しかしまあ、こういう奴等って身内や仲間に対しては、凄く情に厚かったりするんだよね。グラッツの為に恥も外聞も捨てて頭を下げている。
普段は悪ぶってるけど、実は良い所もある……ってパターンだな。
まあ……だからどうした? と思う。
その情は私に向けられたものでは無い。ほんの一部でも向けられる事は無い。
前世の学生時代、直接被害を受けていない第三者が、仲間意識の強い所を見て『普段は悪さばかりだけど、案外良い所もあるじゃないか』と苛めっ子を良い奴扱いしたりしてたが、そいつに苛められてた私にとっては、そいつはひたすら凶悪なだけだった。
そういう”案外良い奴”と言われる苛めっ子達が、私に対して行った暴力、不条理、理不尽に対して、まともなけじめを付けた事は、一度たりとも無かった。
担任の教師に強制されて、その”案外良い奴”が私に嫌々ながら「今後は気を付ける」と上辺だけの謝罪をした事はあったが、その『今後は気を付ける』は『今後は苛めをしない様に気を付ける』と言う意味では無く『今後苛める時は教師にバレない様に気を付ける』という意味だった。
そして直接被害を受けていない第三者から”案外良い奴”と言われるだけあって、仲間意識の強い仲間がやってきて、そいつ等の共通の敵となってしまった私。口裏合わせや見張り等、バッチリ連携して教師や親にバレない様に苛められ続けた。仲間意識が強い為か、仲間内での共通の敵と認識した相手には、とことん容赦が無かった。愛憎激しいと言うやつだろうか。
結局私にとっては、内容がより陰湿で狡猾で容赦無くて、更に苛めっ子が増えただけだった。
仲間を、幼馴染であるグラッツを助ける為、必死に土下座する三人。
しかしそれを見ても、全く私の心に響かない。
私をおもちゃにしてる時、騙してる時、ゲラゲラ笑いながら蹴ってる時、こいつ等からは、私に対する一欠けらの情けも感じなかった。
こいつ等の仲間を思う情が、私に牙を剥く事は有っても、私の為になる事など有りはしない。
私には関係ない情で、私に許してもらおうとか、ふざけんなよ!
「お前等が笑いながら俺をリンチにしてた時に、もし俺が今のお前等の様に土下座して、話を聞いてくれと訴えていたら……お前等、俺の話をまともに聞き入れたか?」
「……あ……あう……」
「……う」
「……そ、それは……」
三人は絶句する。
……もう言葉が出て来ないのか?
クソが……つまらん。
前世で私を苛めたり、いびってくれた奴等は、この程度では言葉が詰まる事なんて無かったぞ。
絶対にそんな訳無いのに、自分の事は棚に上げて『土下座すればちゃんと話を聞いた』だとか『冗談だった。そんなに嫌がってるとは思わなかった』だとか、無茶な主張はしないのかよ?
そうやって私の決め付けで誤解されてる被害者という体裁をとったりしないのかよ?
そうしてくれば、もっともっと甚振ってやったのによ……。
「頼む……許してくれ……」
「お前等の許しては、お前等だけに都合の良い『無かった事にしてくれ』だろ? 聞く価値無いね」
「だ、騙した分は弁償する……そ、それと……」
「何度も言ってるだろ。信用出来ん。契約履行あるのみ」
「……あ……た、助けて……」
私が拒絶すると、もうそれ以上の言葉は出て来ない様だ。
只々、許しを請うのみ。
ホントつまらんな……もう誰も私をねじ伏せようと足掻かないのか?
まあいい……もう外野はどうでもいい。
甚振るのは報復の手段であって目的では無い。甚振る事を目的としてしまっては、こいつ等と同類になってしまう。
グラッツとエミリアがオーガに惨殺されるのを見届けたら、その後は『邪魔だと思えば蹴っても良いんだよな? お前等そう言って俺を蹴ってくれたし、ギルド職員も何も言わなかったしな』を理屈に冒険者ギルドに恐怖を撒き散らした後、この街を去るか。
「誰か他に文句ある奴は居るか? 俺の邪魔をするなら、ぶん殴る」
そう言って周りの冒険者や受付嬢達を見渡すが、誰も……。
「もう十分に追い詰めただろ? その辺にしてやれよ」
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