第124話 物分かりの良さは捨てた

「ま、待ってください! 分かりました! 分かりましたから! ゴブリンを倒したのは、あなたであると認めます!」


 エミリアがそう叫ぶ。


 だけど、事ここに至って、物分かり良く話をするつもりなんて無い。

 物分かりの良さは捨てたよ。お前等によってな。

 そもそも、今更都合が良すぎるだろ。勝てないと分かったから、相手をねじ伏せられないと分かってから、止めた……なんて認めない。

 戦いや喧嘩は始めるのは簡単だけど、終わらせるのは難しいと言う。

 好き勝手に私を悪役になる様に話を捏造しやがって……軽々しく無かった事にしようとするんじゃねぇよ!


「分かったって、何が分かったんだよ? そもそも、待てって言うタイミングがおかしいだろ? こいつ等が武器を抜いた時には止めなくて、なんで今、俺を止めようとしやがる?」

「と、止める間が無かったんですよ」

「武器を抜いて俺に駆け寄り俺に斬りかかるまで、結構な間が有ったのにか? そもそも『あんな奴、やっつけて』とか言って、俺にこいつ等をけしかけたのは、お前だろうが」


 私がグラッツを殴るのに夢中で、聞こえていないとでも思ったのか?

 私のPERは誤魔化せないよ。


「き、気が動転してて……。と、とにかくあなたの実力は分かりました。報酬の手続きをしますので……」

「手続きってなんだよ? 俺はお前によって、もうギルドを追放された身だ。分かったって言うのは、それだけか?」

「つ、追放の件は取り消します。申し訳ありませんでした」

「……」

「契約金もお返ししますので……」

「それだけか?」

「……え?」


 結局、エミリアの言う「分かった」って言うのは、私をねじ伏せられない事だけ……って事ね。

 グラッツのパーティーメンバーを焚きつけておいて「止める間が無かった」だの「気が動転してた」だの、ああ言えばこう言うタイプだ。

 そして、言い訳出来る所だけ答えて、都合の悪い所は答えない。

 肝心の、私に冤罪を着せた事は黙ったまま。グラッツのパーティーメンバーをけしかけた事もぼやかしたまま、契約の解除へ勝手に話を進めようとしてやがる。

 半端な謝罪で流そうとしてる。



 認めん。



「お前の分かったは信用出来ん。散々俺の事を信用出来ないと言ってくれてたよな? 信用出来ない者同士、残るはお互い契約履行するだけだ」

「……えっ!? だ、だから! あなたがゴブリンを倒した事を認めますからっ!」


 エミリアを無視して、蹲るグラッツの胸倉を掴んで起き上がらせる。


「……ぐ……あ……ああぁ」

「契約履行といこうじゃないか。狩場は見つけてあるから連れて行ってやる。そこの三人もパーティメンバーだから、望むなら一緒でいいぞ」

「……う」

「現場で立ち会うエミリアの護衛は、それぞれ魔物を狩る方が守るで良いな? さっさと行くぞ」

「ま、待ってください! 今からですか!?」

「契約の時に、今からと言ったぞ」


 狩場に連れていかれるエミリアが慌てるが、知った事ではない。

 私が狩る時には結界の魔道具でエミリアを守ればいい。勇者シルヴィナスのパーティメンバー、ユリウスから貰った魔道具の中に、Aランクの魔物との戦いを想定した強力な結界の魔道具が有るから、それを使えば良い。エミリアの逃亡防止にもなる。

 グラッツが狩る時は知らん。グラッツがエミリアを守り切れなければ、そのままエミリアが死ぬだけだ。逃亡阻止だけはするけどね。


「……ぐ……い、良いぜ。契約履行すれば……も、文句無いんだろ?」

「契約履行すればな」


 ようやくグラッツ達も喋れる位に回復したようだ。

 契約部分には文句言わないよ。契約だから。

 契約してない部分は言う。


 まあ、そもそも、お前等は契約履行出来ないだろうけどね。


「な、なら……その袋一杯分のゴブリン位……討伐出来るって……証明してやるぜ。け、契約だからな」

「そ、そうだ……こっちは四人で良いんだろ?」

「あれくらいの量ならゴブリン百匹くらいか? 中々の量だが雪の森の中でも十日もあれば十分だぜ」

「さっき言った通りに、ゴブリンの耳を集めて契約履行した後は、文句言うなよ!」


 流石Cランクパーティー。二週間でゴブリン百匹程度なら可能らしい。



 ……ゴブリンならね。



「何を言ってるんだ? あの袋の中身はゴブリンの耳だけではない」

「「「「は?」」」」

「俺を盗人呼ばわりしておいて、中身を知らねぇのかよ?」


 私の持って来た袋を手に取り、逆さにする。

 ザザザーと中身が全て出る。

 そしてゴブリンの耳の中から、数十センチはある角が転がる。底の方に入れてた物である。


「……え? あれって……」

「お、オーガ……の角……なのか?」

「よ、四本……いや、五本有る?」


 Bランクの魔物、オーガの討伐証明である角を見て、グラッツパーティーとエミリアが……いや、野次馬含めて皆硬直する。

 ゴブリンを探して山を彷徨っていたら、ゴブリン達を支配するオーガの集落をいくらか見つけたのだ。

 我ながら雑な罠だとは思うけど、上手くいった。

 契約前に先に角を見つけられる事だけは、心配だったんだよね。

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