第121話 淘汰する側へ

 二週間ぶりにヴェダの街の冒険者ギルドに入る。


 入り口のドアを開けると同時に、私に集まる視線。

 一瞥した後、すぐに興味を無くして視線を外す人、そうでない人。


「お、あの仮面小僧。よくまた来れたな」

「ん? なんなの? アイツ」

「グラッツがオモチャにしてた奴。受付で出入り禁止喰らってた」

「ヒャヒャヒャ。それ、もう詰んでるじゃん」

「ハハッ。ここではもう無理なのが分かんないのか。馬鹿だな」


 そんな会話が聞こえる。

 私みたいな小物を、よく覚えておいでで……。


 彼等の視線が動いたので、その視線の先を見ると……グラッツが少し奥の席でパーティーメンバーと酒を飲んでいた。

 そしてグラッツのパーティーメンバーの一人が私に気が付き、グラッツに教えてる。グラッツも私に気が付いたようだ。


 受付の方に目を向けると……エミリアも居るね。

 良かった。こいつ等が居ないと始まらないからね。居なければ出直すところだった。


 とある物を詰め込んだ丈夫で大きな麻袋を手に、エミリアの担当する受付の列に並ぶ。

 並んでいると、グラッツが私の方にやって来る。


 それでいい。


 こういう奴は執念深く、放っておいてくれないタイプだと思ってたよ。

 もう私に絡むのに飽きたとかで、何事も無く終わるならそれで良し。絡んで来て不条理なイチャモン付けてくるなら、なお良しだ。


 ……いや、嘘だな。


 何事も無く終わってしまったら困る。


 ――ドカッ!


 グラッツに蹴られる。


「おい、薬草泥棒。もうこの街から居なくなったと思ったら、どの面下げてまた来やがった? ……つって仮面で隠してるから、問題ないとか言うんじゃないだろうな? その袋はなんだよ?」

「私は盗みをした覚えはないですし、この袋の中身はあなたと関係ないですよ。放っておいてください」


 こういう奴は「放っておいて」と言えば、逆に放っておかない。私を困らせる事に執着しているだろうからね。


「『関係ないから放っておいてくれ』なんて泥棒の言い逃れの典型例じゃねえか。お前がまた俺様から盗んだって自白してる様なもんだ。最近見かけないと思ったら、俺達が油断するのを待ってた訳か。おお、怖いね~。卑怯者は」

「この袋の中身があなたからの盗品だと? では当然中身を知ってるって事ですよね? 中身は何ですか?」

「……ハンッ! 知っちゃいるが二度目の窃盗。今回は前みたいに生ぬるい対応じゃ済まさねぇ。受付でじっくり裁いてやる」


 受付で中身を確認して、もっともらしく話を捏造してから、イチャモン付けます……って事ね。


 そんなやり取りをしている間に、早くも受付の順番が回って来る。

 というよりも周りも面白がってか、先に並んでた奴等がニヤニヤしながら私の後ろに回っていく。


 お先にどうぞ……と言う事らしい。

 他の周りの冒険者達も面白半分で集まってきてる。野次馬する程に暇なのか?


 良いねぇ。

 正直、面白がってる周りの連中にも頭に来てんのよ。


 順番が回って来たので、受付嬢のエミリアの前に行く。


「盗品は受け付けてないんだけど? 自首なら憲兵詰所に行けば?」


 ――と、エミリアが言う。

 二人共、盗品扱いしたね。


「私は盗みなんてしてませんよ。盗品と決めつけるって事は被害届けでも出てるんですか? では中身は何ですか? 当然、知ってるはずですよね?」

「前科があるくせに良く言うわね」

「だから盗まれた物って何ですか?」

「……先程、グラッツさんと話してたでしょ? 聞こえてたわよ」

「先程から何が盗まれたか、この袋の中身が何なのか明言を避けてますね。知らないのですか?」

「……」


 そこまで私が言うと、エミリアは無言になり、グラッツに視線を送る。

 

 ――ドカッ!


 グラッツに蹴られる。


「偉そうにしやがって! 自分の立場が分かってない様だな。逆だろうが! 言い訳ばかりのお前に先に情報渡したら、その情報次第で言い逃れする気だろ? お前にゃ前科が有るからだ。俺、何か間違った事言っているか?」

「中身を見てから話を作りたいのは、そちらでは?」

「……もう一度言うぞ。立場が分かってない様だな。盗んでないと言うのなら、前科の有るお前が、先に無実を証明して見せろよ」

「前科なんて無いんですがね。それに薬草を私が採取した物であると証明すると私は言ったのに、それを受けなかったのはあなたやギルドの方でしょう? では私が薬草を集められる事を、今から証明しますので、立ち会ってもらえますか? 前回の薬草泥棒の件が冤罪だと証明して見せますよ」


 話の後半の辺りで、受付嬢のエミリアにそう問いかけるが、彼女は黙ったままだ。


 ……むう。


 ――ドカッ!


 グラッツに蹴られる。


「現場に立ち会えなんて手間かかる事を言うからだ。外に出たらそのまま逃げる気だったんだろうが」

「では無実を証明しろって、どうすれば良いのですか?」

「その袋の中身を出せよ。被害者の俺様とギルド職員のエミリアさんとで、判断してやるよ」

「中身を見せるのは構いませんが、先に中身を教えてくださいよ。盗まれた被害者なら中身を言えるんでしょう? あなたの答え次第で中身を見せないなんて事しませんから」

「……なるほどな。分かったぜ。そこまで言うって事は盗んだ物は別の場所に隠していて、その袋にはゴミでも詰めてんのか~? 俺様を罠に嵌めようって気か~? 卑怯者の考える事は怖いね~」

「……そんな事しませんよ」


 人を言いなじるのが趣味の様な奴だからか、流石に口が回るな。そう言われると困った。


 ――ドカッ!


 グラッツに蹴られる。


「いい加減見苦しいんだよ! とっとと中身を出せ!」

「……あの~。さっきから何度も蹴られてるんですが、ここの冒険者ギルドって暴行を認めてるんですか? ギルド職員であるあなたの目の前で蹴られてるんですけど、何も言わないのですか?」


 そうエミリアに問いかける。

 しかし彼女はツンとしたまま答えない。

『嘘つきには良いのよ』とでも言質が取れたら良かったのに。


 う~ん。


 グラッツにはともかくエミリアには……警戒されてる?

 先程から黙ったままだが、どうもグラッツを矢面に立たせて、自分は様子を見てる感じだ。

 エミリアは私が薬草採取出来る程度の実力がある事を知っているからな。そこが前世の時と少し違う部分だ。


 ……ちょっと強気に出過ぎたか?


 さて、どうしますかね?

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