第119話 嵌められた

 翌日、街の外へ出て再び薬草を集める。

 薬草採取しつつも、昨日の事で腹は煮えくり返ってる。


 ぐぬぬ……。あんの野郎ぉ……。


 厳しい言動と酷い言動は別物だ。前世から混同しない様に気を付けてる事だ。

 厳しい罵声を浴びせられようと、それが仕事に真摯な内容であれば、例えボロクソに言われても真摯に受け止めるべきだと思う。

 まあ……キツイ事を言われて何も感じないのも無理だったりするが……それで恨むようでは、単なる見苦しい逆恨みだ。


 だけど、あのグラッツの野郎のした事は酷い。

 私の仕事にケチ付けやがってっ!

 

 ……しかし、悔しいけど『最終的に依頼で求められてる物を納品出来なかった』という点においては、確かにその通りなのだ。

 前世で職場の同僚や上司に言われた事がある。『お前はすぐに”答え”を求めるから駄目なんだ』と。

 私はどうして良いか分からない時、原理等を考えず、すぐ過去の資料やインターネットに”答え”を求めていた。だから何時まで経っても出来ないままだった。

 今回も私のその悪い癖が出たとも言える。

 グラッツから『こうすれば良い』という”答え”を目の前にぶら下げられて、それを疑いもせず安易に飛びついてしまった。

 今になって思えば、他の冒険者が根っこ付きで納品しているのを見ていながら、グラッツの言い回しの怪しさにも気が回らず、あっさり騙されてしまった。

 情けない。


 身体能力だけ強くはなったけど……こういう所は駄目なままだなぁ……くそぅ。

 下水掃除の件に関しても脇が甘かった……いや、あれは流石に初見で防ぐのは無理な気がするが……。


 とにかく今日は昨日の倍の薬草を納品してやる。グラッツの嫌がらせに気を付けつつ、確実な仕事で信用回復していくしかない。


「……む?」


 近づいて来る人の気配を感じて目を向けると……グラッツだ。

 何しに来やがった?

 つか、なんで私の動きが分かるんだ?

 浮浪者から情報を得ているのだろうか?

 街の近くの森だからか、浮浪者が割と私の近くをウロウロしているんだよね。外壁周りにスラムキャンプみたいなのがあって、そこからの浮浪者なのだろう。


「……ふぅん。お前も懲りないねぇ。また薬草採取か」

「……」

「……」


 無視していると、グラッツも何する事も無く、去って行った。

 結局、何をしに来たのか知らないけど、今度は根っこを切っていない薬草を現物納品だ。流石にどうこう出来まい。

 

 あんな奴より仕事だ。

 

 昨日の倍以上の薬草を集めてギルドに戻る。

 そして受付に並び、順番が回ってきたので受付嬢に薬草を提出する。


「常設依頼の薬草の納品をお願いします」

「……へぇ。随分と大量に有るのね」

「はい。薬草の状態も問題無いと思います。確認をお願いします」

「薬草の状態に問題は無いみたいだけど、別の問題があるわね」

「はい? ……別の問題?」

「この薬草、何処で拾ったの?」

「……? えっと街の門から出て、右手に見える森に入って、そこから山方面へ向かった一帯で採取しました」

「……へぇ。もっともらしく自分で採取した風に言う訳ね」


 うん?

 ……何か……様子がおかしい。

 受付嬢の冷たく軽蔑した様な視線。

 周りの冒険者達も冷たい視線……いや、一部ニヤニヤしている人達が居る。


 ……なんだ?


「おかしくない? 昨日、薬効流したゴミを持って来た様な素人以下が、今日、こんなに大量に薬草を採取出来る訳無いでしょ? この冬場に」

「……え? いえいえ、今日は早朝から頑張って集めたんですよ」

「まあ、確認したら分かる事ね」


 そう言うと受付嬢は立ち上がり、併設された酒場の方に向かう。そして……。


「グラッツさん! こっちの受付まで来てくれますか?」


 そう言ってグラッツを呼ぶ。


 ……は?

 なんで?


「なんだい、エミリアさん。もしかして例の件かい?」

「はい。この薬草、どうですか?」

「袋は入れ替えてあるが……この量に時間の経過具合、俺達のパーティーが集めた物で間違いないな」

「やはりそうでしたか。盗みとは……しでかしてくれたわね」


 二人が私を睨む。


 ――はあああああああああ!?


「ち、違います!」

「……へぇ。違うって……グラッツさんの方が嘘付いてるって言うの? 碌な仕事しないGランクのあんたと、Cランクのグラッツさんとでは信用が違うわよ」

「薬草が不足するこの時期に、皆の為にと俺達が頑張って集めたのによぉ。酷い奴だぜ」

 

 ……これは……。

 ……そう……来たか……。


「グラッツさん。衛兵呼びます?」

「待ってください! 私が自力で薬草を集めれる事を証明します! ギルド職員の監視の下で薬草採取しますので、誰か来てもらえませんか?」

「見苦しいわね。そう言って街の外に出たら、逃げるんでしょ?」

「あ~、ホント見苦しいわ。エミリアさん、もう良いよ。薬草は無事に俺達の元に戻ってきたんだしよ。衛兵は事情聴取が面倒だし」

「では衛兵と一緒に監視してもらえたら、私が薬草を本当に採取出来る事を証明――」

「――いい加減にしやがれ! お前なんかの誤魔化しに、俺もエミリアさんも衛兵も時間取れる訳が無いだろ!」

「全くね。私達に手間取らせてまで立ち会って欲しかったら、金貨千枚積んで来る事ね」


 あまりの展開に呆然としてしまう。


「あんた、冒険者ギルドに十日間出入り禁止ね。というか、もう二度と来なくていいわよ」


 そう言って受付嬢――エミリアにギルド証を投げ付けられる。

 木製のギルド証には、前回までの×マークに加えて、大きく赤い文字で『十日間出入り禁止』と書かれてた。


 グラッツが私の目の前に立ち、睨みながら言う。


「最低の屑だな、お前は。どういった形であれ、納品物を持ってくれば良いとでも思ってるのか? その為に盗みをするなんて、仕事云々の前に人として間違ってるんだよ。俺、何か間違った事を言ってるか?」

「……」

「聞こえただろ。お前は出入り禁止だ! 消えろ!」


 ――ドカッカッ!


 グラッツと何時の間にか来ていた、グッラツのパーティーメンバーと思われる男達に蹴られる。


 ……。


 頭が働かず、ヨロヨロと受付から離れる。


「あ~ぁ。あの仮面小僧、ああなったらもう駄目だな。グラッツもおもちゃにしちゃってよ」

「ひゃっひゃっひゃっ。弱い奴が悪い」


 周りのこんな声が聞こえる。


「ではグラッツさん。これ薬草代ですね。Cランクのグラッツさんには、たいした金額では無いでしょうけど」

「量は結構あったし飲み代くらいにはなるだろ。ってことでエミリアさん、協力してくれたお礼に奢るから、今晩飲みに行かねえ?」

「あれぇ~。皆の為に集めた薬草の代金を、そんな事に使っちゃって良いんですかぁ~?」

「ひっひっひっ。俺がそんな柄じゃないの知ってるくせに」

「フフッ。グラッツさんが『皆の為に』なんて言いだした時は、おかしくて吹き出しそうになりましたよ」


 グラッツとエミリアの二人の会話も聞き取る。


 周りも……知ってて……。

 ……受付嬢もグル……。



 ……そうか。

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