第117話 クエスト失敗
翌朝、指示書通りに下水管理所へ行き、割り当てられた地下下水道に入る。
下水道に入る際、入り口付近には浮浪者が十人程屯していて、探る様な視線を向けられた。なんでこんな場所に居るんだろう?
もしや人気のない下水道の中で襲ってくるのかと思いきや、誰も私の後を追って入って来る気配は無い。
気にし過ぎだったか……。
修練がてら魔力纏いの棍棒で、ビッグマウスという魔物鼠を蹴散らしながら進む。
ここではリーアムの地下下水道と違って魔物が発生してしまっている。よくあるダンジョンが近くにある程、空気中の魔素が高いから魔物が発生しやすいとかいう設定なのかも。詳細は分かんない。
試しに一匹魔石を抜いてみたらGランクの大きさの魔石だった。駆け出しの冒険者でもなんとかなるレベルだね。
ルタの村のダンジョンの蟻も一階の魔物はGランクだったけど、あいつ等は群れで襲って来たからなぁ。ここだとそんなに群れてないし、駆け出し冒険者にとってはレベル上げに良いのかもしれないが……人の気配が無いな。
ここは臭いが酷いからかな?
私は高いPERによる悪臭耐性のお陰で気にならないけど、普通の人は他の場所に行くか。
まあ、人気が無い方が腐攻撃を使い易い。だからこの仕事を選んだところもあるしね。
誰にも見れらない様に警戒しながら、下水口の格子に付着した汚れを、腐のオーラで腐らせ消滅させる。簡単簡単。
仕事が早いとか言われてみたいですねぇ……同じことをリーアムでも考えた記憶が有るなぁ。
そして転生吸血鬼のトオルさんと出会ったんだよね。
今頃、妻のエリさんと仲良く転生して、新しい人生を楽しんでるのだろうか。
仕事を終えるのがあまりに早いと不自然なので、魔物相手に魔力纏いを使って戦う。
転生して四ヶ月程。およそその半分以上はダンジョンで戦ってる訳だし、そろそろ何かスキルが生えて来て欲しいお年頃。
体術、武器関係のスキルレベル1なら一ヶ月程で習得出来るらしいのに……流石に遅すぎる気がするんだよね。
もしかしたら不老種という悪魔の種族特性によるものかと思ってたけど、エルフのユリウスに聞いた所、スキルレベル3から長命種は習得が遅くなる傾向にあるらしいけど、スキルレベル2程度なら種族差は、ほぼ無いとの事。
因みにスキルレベルは、1で心得有りの見習いレベル。
2で一般的にそのスキルの使い手を名乗れる。『料理人』とか『剣士』だとか『鍛冶師』等と名乗れるのはレベル2から。
3は一流。適性無しの最終到達点と言われてる。
4だと一国に数人レベルの達人で、適性有りの最終到達点と言われてる。
5は千年に一人、出て来るかどうかという人外レベルの存在。
魔法系スキルは武器系スキルより難しかったりと、スキルによって難度が違うので一概には言えない部分もあるが、大体こんな感じらしい。
……うーん、修練の仕方が悪いのか?
ただ棍棒を振り回したり、力任せに殴った蹴ったりしてるだけだと駄目なのかと思い、一応腰の入れ方とか当てる時の角度とか考えながらやってるのだけど……所詮、私の思い付きレベル。
結局、やってる事がズレてるから、努力してるつもりで実は努力にすらなってない状態なのだろうか?
普通の人には普通に出来てる事が……私には無理が来る。頑張り方すら分からない。
……結局、今世でもそういう事なのかな……。
まあ、これだけチートな身体能力を神様から頂いたんだ。スキルも求めるのは欲張り過ぎかな?
そういう問題では無い気はするが……。
頃合いを見て下水道から外に出る。
入り口付近には浮浪者達がまだ屯してた。やっぱり見られてる気がするけど……襲ってくるなら人目の無い下水道の中で襲ってくるよなぁ……ホント、こいつ等何してるんだ?
下水管理人に清掃終了を報告し、指示書にサインを貰う。この後、管理人が清掃状況を確認してギルドに報告するらしい。適当に清掃する奴も居るのだろうから、確認は要るよね。
なのでギルドで仕事の完了報告と報酬を貰うのは明日になる。今日はおとなしく宿の部屋で魔力操作の修練でもするとしよう。
因みに魔力制御系のスキルは難度が高く、適性有りでも習得に一年くらいかかるらしいから、コツコツやってかないとね。
……一応まだ期待している私。
それに時間潰せる娯楽なんて、この世界には余り無いしね。
翌朝、冒険者ギルドへ向かう。
そして、受付で下水掃除の指示書を提出すると……。
「あんた。ふざけた仕事してくれたわね。下水管理人が激怒してたわ」
「……はい?」
「管理人からの報告では、格子はゴミで詰まっていて、前より酷くなってたそうよ。何しに行ったのよ」
「――え? ぇええええ!? いえいえ、ちゃんと格子の汚れを取ったはずです! 場所は確かに合ってるんですか?」
「……へぇ。ギルドや管理人の方が嘘を付いてると主張する訳ね?」
「いえ、どっちかが嘘を付いているとかではなく、誤解か行き違いが発生してるのではと思うんですよ。今からその下水道に確認に――」
「あんたはもう、下水管理局に出入り禁止よ!」
「……あう」
「嘘付きの上に反省の色も無し。当面、あんたに仕事は紹介出来ないから。はい、次の方」
「どけっ! 簡単な仕事も出来ない屑が!」
――ドカッ!
蹴られる。
昨日、何回か蹴られたが、今回のはかなり強めに。
当然の如く受付嬢と私を蹴った冒険者は、私を無視してやり取りを始める。弁明のしようも無い。
スゴスゴと受付を離れる。
……簡単な仕事も出来ない屑……か……。
物理的ダメージは無いが、精神的には……。
……ハハハ。前世では、そう言われ慣れてたと思ってたが……。
いや、こういうのは慣れちゃ駄目だよ。簡単だろうと何だろうと、仕事はちゃんとしないと。『仕事出来ない』って言われても何も感じなくなったら、仕事する人として終わりだ。
……しかし……何故?
やる場所は……間違えようが無い。場所は指示書を提出した管理人に案内されたのだから。
やり残した格子があった?
いや、清掃した格子の数は指示書の通りだった。
……分からん。もう一度確認を……って、下水管理局にはもう出入り禁止か……。
手元に戻ったのは赤字で”×”と書かれた、木製のGランク冒険者証。
これはさっき言われた『あんたに仕事は紹介出来ない』の証と言う事か……。
……え? これ詰んだ?
たった一回の失敗で?
いや、これも甘えだな。
その一回が下水管理局にとっては、大迷惑だったんだ。
ギルドだって信用商売だし、この世界が前世より信用が重要なのは私でも分かる。
掲示板の依頼は紹介されなくなっても、まだ常設依頼が有る。
別の仕事で信用を取り戻さないと。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます