第114話 迷宮都市ヴェダ

※迷宮都市ヴェダ編では、所謂ざまぁ展開……とは違うかもしれませんが、前半は感じの悪い話が続き、そして主人公が……。ご注意ください。


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 スレナグの街から逃走して二日後。

 朝日が昇る頃に迷宮都市ヴェダの街が見えてきた。


 スレナグの街を出てからは追っ手を警戒して街道を通らず、街道沿いの山々を進んだ為……逆に五日程掛かるらしいスレナグからヴェダへの道程を、半分以下で移動出来てしまった。

 街道を外れると、整備されていない山を掻き分け進まないといけないし、雪や魔物という障害も有るのだが……そこは私のチート身体能力によるゴリ押しである。整備された街道を常識的な速度で進むよりも、チート身体能力で悪路走破した方が早いという。


 こういう不自然な事は頻繁にしない方が良いと思うのだけど、今回は人攫い達から逃れる為だ。スレナグでは美少女故に散々な目に遭ったので、ヴェダでは”貧相な小僧”として過ごそうと思ってる。

 もしスレナグから人攫いが私を探しに来たとしても、ヴェダに辿り着くのが五日掛かるはずの美少女と、それより三日も前に到着した小僧とは結び付ける事は出来ないだろう……多分。


 迷宮都市ヴェダは、今まで訪れた街では一番大きい。

 まず城壁が大きい。外敵からの防衛は勿論、ダンジョンから魔物が溢れた時の為でもあるのだろうか?

 ただ、城壁で囲まれた街そのものは大きいが、城壁の外には街道沿い以外は森と山に覆われてる。街近郊の村落は見当たらない。

 遠目に門番や通行人の動きと会話から、魔道具による鑑定が行われていない事を確認する。どうやらこの街では入る時に鑑定は行っていない様だ。

 これなら安心して街に入れる。


 門へ向かい街に入る列に並ぶ。

 そして私の番になる。


「次!」

「身分証は有りませんので、通行税です」

「ふむ、仮面を外して顔は見せんのか?」

「お見せするにはお見苦しいかと。というのも以前、住んでいた集落を襲って来たゴブリンシャーマンの魔法で、顔と喉を焼かれ……」

「もういい。通れ」

「――え? あ、はい」

「次!」

 

 あっさり街に入れた……。

 上手く顔を見せずに街に入る事が出来た……と言えるのだろうか?

 上手くいったというより、特に誤魔化そうとする必要が無かった感じだったな。この街のセキュリティは大丈夫なのか?


 今の私はモコモコローブに仮面である。

 見た目がすこぶる怪しいのだが。


 因みに仮面は勇者シルヴィナスのパーティーメンバー、ロンゲエルフのユリウスから、魔物素材の対価として交換した魔道具の一つで声が変わる仮面だ。仮面の効果で、声がしゃがれた濁声に変わっているので、火傷で喉がやられたという設定でいくつもりだ。お陰で声で女とバレずに済んだ。

 自分で言うのも何だけど、今世の私の声は、透き通るような美声でどうにもならない程に女声なのだ。


 先程の門番とのやり取りの様に、このヴェダは良くも悪くも余り詮索されない様だ。おそらく迷宮都市故に冒険者が多く、冒険者は詮索を好まない傾向が有るので、それに配慮しているのかもしれない。

 鑑定してるかどうか遠目に見ていた時に、私以外にも顔を隠したまま、街に入ってる人は結構居たので、今回こうして顔と声を仮面で隠していこうと思い立ち、実行してみたのだ。

 あそこまで温いとは思ってなかったけど……。


 聞くところによると、迷宮都市ヴェダは実力主義の街と聞いている。

 迷宮都市とは言葉通りで、ダンジョンの魔物の落とすドロップ品を産業としている都市の事だ。とにかく等級の高いドロップ品を沢山持って帰れる人が偉い。

 後ろ暗い過去が有ろうと無かろうと実力が有れば、余程目に余る悪行を街で働かない限りは大手を振って歩ける街だそうだ。そういう街なので、スレナグとはまた違った意味で柄の悪い街である。

 余計な詮索がされないのなら、上手く貧相な小僧としてやっていけるかな?

 給仕仕事猛プッシュも防げるしね。


 街に入ると広い大通りに面した場所で、露店が乱雑に開かれている。賑やかだ。

 その一方で少し狭い路地に目を向けると、やせ細った浮浪者ぽい人達が座り込んでいる。なんとなく暗い目で私を観察している気がする。


 なんというか……混沌としていて怖い街だ。


 この世界は良くも悪くも奴隷制度が有るので、意外にも浮浪者や孤児と言うのは少ない。食うに困ったとしても、身売りして奴隷となれば、労働の対価に衣食住は保証される。

 違法奴隷なら話が違ってくるが、街の公認奴隷商に身売りすれば、それ程酷い事にはならないはずなのだ。それでもまあ、売れ残り続けると悲惨らしいが……。

 この世界には契約魔法や契約の魔道具が有る為、前世での奴隷と違って奴隷が契約途中で逃げる事が出来ない反面、主人が理不尽な暴行をしたり、食事を与えなかったり、契約外の性行為強要等といった事が、基本的に出来ないのだ。


「……あ」


 ……と、ここで気が付いた。

 路地の浮浪者達……腕が無かったり、片目や耳が無かったり……。


 あ~……つまり……身売りする事も出来なくなった人達と言う事か……。

 奴隷制度はこの世界でのセフティーネットという一面が有るのだけど、あくまで働ける人に対してである。

 働けない人に対しての社会保障なんて……この世界には無いのだ。


 私には再生能力が有ったから良かったものの、一度、腕を斬り落とされた事があったからなぁ……再生しなかったらと思うと恐ろしい。

 そういえば当初、お金を稼げなくて……あんな風に浮浪者になるか、奴隷落ちを想像して怯えてたなぁ……。


 何とも言えない気持ちを抱きながら、冒険者ギルドを探して歩き始める。


 ヴェダの街の冒険者ギルドはとても大きかったので、すぐに見つかった。今まで見た中で最大だ。流石ダンジョン都市の冒険者ギルドだけはある。

 街の中央にダンジョンが有り、ダンジョンを囲う様に分厚い壁が有り、そのダンジョンの入り口近くの壁の前にある大きな建物が冒険者ギルドだった。

 冒険者ギルドの周りにも沢山の人達。商人と思われる人も見られるが、やはり多いのは冒険者。これまで見てきた冒険者達と比べて、装備のレベルが全体的に高い気がする。


 ふと、魔力が漂ってるのが見えてそちらに目を向けると、ハイレベルな冒険者達の中でも、更に一際豪華な装備を身にまとう四人組が見えた。

 その中の一人、高価そうな青白い鎧を身に着けた男が背負う大剣から魔力が漂っているのが見える。あれは魔剣なのだろうか?


「あ、やば」


 私の視線に気が付いたのか、その四人組が私に向かってくる。


 こ、これは「何見てんだ? ァアン?」な流れか!?

 アワアワしている間に、魔剣と思われる大剣の持ち主が声を掛けて来る。


「よお、初顔だな?」

「は、はい」


 話しかけられてしまった。


「この街のダンジョン目的で来たのか?」

「えっと、これから登録する初心者です。ダンジョンにも機会が有れば潜ってみたいなと思ってます」

「これから登録? ……ふぅん。そっか、頑張んな。じゃな」

「……え? あ、はい」


 特に何もなく、あっさり去って行く、強そうな四人組。


 ……なんだったんだ?

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