第113話【閑話】勇者聖女協会元認定勇者視点

 俺はルフレット王国王都ムオルムに有る、勇者聖女協会ムオルム支部の支部長のフレッド。

 現在、協会の支部長室で、とあるメモを見ながら思案中だ。


 そのメモはおよそ二ヶ月程前に、旅のエルフの女がこの支部に持ち込んだ物。


 そのエルフが言うには、このメモのリストに載っている人物には、妖魔王ディスロヴァスなる存在が憑依しており、仲間がその妖魔王に捕らわれているから救出して欲しいと言う。更にその妖魔王は、人と人を合成した様な体を操り、儀式魔法の為に多くの生贄を欲しているとも。


 余りに突拍子の無い話であり、受付の段階でそのエルフを追い払ったと報告を受けたのだが……。

 人前に姿を現す事が珍しいエルフが持ち込んだ情報という事もあり、一応、後でそのエルフが置いていったというメモを見てみたが、とても真に受ける事が出来ない内容だった。

 なにせ多くの権力者、更には我々勇者聖女協会が認定している勇者や聖女までもが、その妖魔王に憑依されているという内容だったからだ。


 その時は馬鹿馬鹿しいと思い、そのメモをその辺に放り投げた。

 しかし、今になって再び、そのメモを散らかった資料の中から掘り出し、載っているリストを眺め、呟く。


「……聖教国ルジアーナ教皇アドルフが、大集会の最中に悍ましい変死を遂げた……か……」


 二週間前に東の聖教国ルジアーナの教皇アドルフが、多くの信者を集めた中で行われていた大集会の最中に突如、体が腐っていき黒い塵となって消えるという、悍ましい変死を遂げた。

 この王都でも、かなりの話題になったものだ。

 悍ましい死に様から悪魔の仕業とも、聖教の黒い噂を知っている者からは天罰とも、密かに言われたり。

 

 聖教国ルジアーナ教皇アドルフ――このメモのリストに載っている人物だ。


 実は今朝、同じくこのリストに載っている認定聖女が、同じく二週間前に体が腐っていき黒い塵となって消えたという知らせを受けたのだ。


 このメモのリストに載っている人物が、同時期に同じ様な奇怪な死に様をした。

 これは偶然なのか?

 このメモを置いていったというエルフと、その仲間の仕業なのか?


 未確認情報だが、この国の北方面に勢力を持っている違法奴隷商のボスも、最近変死したという噂も有る。

 ボスの詳細は明確では無かったが、目星を付けていた人物は居た。その人物もこのリストに載っている。


 ハッキリした事は分からない。何の証拠も無い。

 しかしこれは、本部に知らせるべきであろう。


 そこまで考えた時、部屋の扉がノックされる。


「誰だ?」

「フレッド。アローゼンだ」

「アローゼンか。丁度良い。入ってくれ」


 俺と同じく、引退した元認定勇者アローゼンが部屋に入って来る。

 アローゼンはこのルフレット王国の南西にある、ラザトーラ王国の勇者聖女協会支部の副支部長で、現役時代からの付き合いである。

 アローゼンの意見も聞いてみよう。


「フレッド。丁度良いとは?」

「このメモを見てくれないか?」

「――これは!? フレッドの元にも届いていたのか!?」

「何!? ではアローゼンの元にも?」

「ああ、一ヶ月と半月程前にな」

「それは女エルフから届けられたのか?」

「うん? いや、矢文で撃ち込まれたものだった。ここにはエルフ女が直接届けてきたのか?」


 ふむ。ラザトーラの支部には半月遅れで、矢文でか。

 もし、そのエルフが受付で訴えた内容が正しかったとすれば、勇者聖女協会に所属している憑依状態の勇者聖女が、自分を捕らえる為に網を張っていると考え、矢文で知らせる手段に変えたのかもしれないな。


「今日ここに来たのは、正にこのメモに関する事だ。聖教国ルジアーナの教皇の変死事件の詳細を確認に来た。隣の隣の国になるから、詳細がハッキリと分からなくてな」

「やはり、このメモのリストに教皇アドルフの名が載っているからか?」

「そうだ。同じくこのメモのリストに名が載っている、北のラディエンス王国の国王と王太子が、二週間前に二人同時に変死するという事件があってな。聖教国の変死事件との関連性を――」

「――なんだとぉ! その二人は、どの様な死に様だったのだ!?」

「――!? ま、まだ公にはなっていないが、調査員の話では左足から身体が腐っていき、最後は黒い塵となったそうだ」

「なにぃ!?」


 もう、これは完全に偶然では無い!

 もしや、このリストに載っている人物全員が、同時期に同じ死に方をしているのではないか!?

 すぐに本部に知らせなければ。


 そしてこのメモを持ち込んだ女エルフを、探し出しさねばなるまい。


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