第111話 人の世は難しい

 来た道を戻る為、坂道を登っていく。

 エグベルトは追って来てはいない。

 だけど……。


「ちっ……。警戒心の強い娘だ。おい、お前はあの娘の後を付けろ。俺は次の手の準備をする」

「エグベルトの旦那。お言葉ですが焦り過ぎじゃないですかい? マルコが無茶しやがったせいで、ちょいと騒ぎになってますぜ。これ以上は衛兵も見て見ぬ振りは難しくなりやす。少し時間を置いちゃいかがですかい?」

「確かに白昼堂々と市場で攫おうとするとは流石に思わなかったな。だが、それだけイエル団も本気で目を付けてるとなれば急がねばならん」

「しかし上がゴタゴタしてる今は……」

「あの娘を直接見ていないからお前はそう言えるのだ。かつて見た事が無い程に極上品だぞ。あの娘はルベリオス様に献上するべきだ。我等の権益を保護して貰う為にもな」

「例の事件すか? そんなに悪い状況なんですかい? イエル団も随分と無茶しやがるとは思いやしたが……」

「……まだ他の奴等には言うなよ。例の事件……ウチの上や公になってる分だけでは無いらしい」

「マジすかっ!?」


 既にエグベルト達とはかなり距離があるけど、意識を向ければ私のPERなら十分会話を聞き取れる。

 どうやら諦めてはくれない様だ。

 しかもこの街の衛兵と繋がってる感……。ヤバいのに目を付けられちゃったな。

 何があったのか知らないけど、どうも急いで権力者に媚びを売らなきゃいけない状況らしい。

 それでも人目の有る所では、これ以上無茶出来ない感も有るぽい。

 人気のない場所に行かなければ大丈夫……なのか?

 物理的に来る間はどうにでもなるけど、なるべく人目のある場所で行動しよう。


 分かれ道まで戻って今度は右の道を進むと、誰かに聞くまでも無く冒険者ギルドが見えてきた。

 丁度良かった。宿はギルドでオススメを聞こう。尾行もギルドの中までは出来ないだろう。


 ギルドに入り、冒険者登録の為に受付に並ぶ。


「ルーノさんには、こちらの給仕のお仕事がおススメですよ!」

「いえ……別の仕事でお願いします」

「看板娘になれば収入も大幅アップですよ! ルーノさんならすぐに看板娘になれますよ!」

「いえ……荷運びの仕事とか無いのでしょうか?」

「では、良い情報を教えちゃいます! ルーノさんて、領主様の長男であるルベリオス様の好みを超ハイレベルで満たしてるんですよ! 看板娘となって噂になれば、ルベリオス様に見初められる可能性有りますよ!」

「いえ……そういうの目指して無いので……」


 それ、むしろ悪い情報です。

 もうね……この給仕の仕事を猛プッシュしてくるの、勘弁して欲しい。リーアムでもそうだったけど……いや、リーアムの時よりも猛烈にプッシュしてくる。

 なんなの? 可愛い子を紹介すると、酒場から見返りでもあるの?

 この街では門に入る時以外はフードを被ってたんだけど、この受付嬢は声で私が女だと分かると、遠慮なくフードの中を見てきた。そして私の顔を確認した途端に、給仕仕事の猛プッシュである。

 鉱山街だから女の子が不足しているのだろうか? 

 というか、なんでギルドの受付嬢が領主の長男の好みのタイプを知っているのか。余程、女好きで有名なのか?


 給仕仕事猛プッシュをなんとか躱し、オススメの宿と武器屋の場所を聞いてギルドを出る。

 仕事探しはまた明日、別の受付の人に聞いてみよう。

 久しくベットで寝てないからね。宿を確保して時間が有れば武器を見に行きますかね。


 エグベルトの部下の尾行は……分からんな。

 あの部下はエグベルトみたいに香水を付けてた訳じゃないし、他に人が多いから分かんなくなった。ギルドの中にまでは入って来なかったはずだけど。

 

 宿を取り、教えて貰った武器屋へ向かう。

 登録したてのGランクと言う事で、ギルドの受付嬢は初心者用の武器屋を教えてくれようとしたが、それよりも強力な武器を売っているお店の場所を教えて貰った。

 だって、初心者レベルの耐久性の武器では、私のパワーに耐えられないのは分かり切っている。

 良い武器さえゲットすれば、この街での冒険者ランクアップにこだわる必要は無い。元々仕事は有れば良いな程度で、武器の購入が目的だったのだ。

 状況次第では、この街から早急に立ち去らないといけないしね。


 武器屋に着き、店に入る。

 

「出ていけっ! ド素人が来る店じゃねえっ!」

「ちょっ、ちょっと待ってください。お金なら有ります!」

「金の問題じゃねぇっ! 手前なんざ数打ちか鋳造品でも握ってろっ!」

「わ、私の何が駄目なんでしょうか? えっと、例えば冒険者ランクが上がれば売って貰えるんですか?」

「そういう話が出て来る時点で失格だ! 出ていけっ!」


 ……追い出された。


 えぇ……。


 店主はドワーフだった。

 初めて見るドワーフに感激したのも一瞬、ドワーフ店主は私を一目見るなり「出ていけ」だった。取りつく島も無し。


 いや、マジで何が駄目なん?

 ローブ姿だし、まともな防具も身に着けてないからだろうか?


 ……しばらく追い出された武器屋を遠目に見てみる。何か見えて来るものが有るかもしれない。

 しかし、分からなかった。

 様子を見ている間に三組程、店に入っていく客を見たけど、中には普段着ぽい格好の人も居た。

 そりゃ街中だからね。武装してなくてもおかしくは無い。

 でも私の様に、追い出されたりはしていない。


 なんでー? なんでー?


 やっぱ冒険者ランク? せめてEランクの冒険者証を首から下げてないと、話すらして貰えない店だったのだろうか?

 いや、それならそもそもギルドが教えてくれないよね?


 ……分からん。

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