第110話 モテ期?

 再びフードを深く被り、門前から続く広い道を見る。

 とりあえず宿を探そう。ダンジョン暮らしが長かったから、久々にベッドで眠りたいよ。

 それか先に冒険者ギルドを探して、ギルドでお勧めの宿を聞けば良いかな?

 

 そう考えながら歩き始めてすぐ、後ろから男が一人、私に追い付いて来て、話しかけてきた。


「こんにちは、美しきお嬢さん。一度見れば忘れようのない程の美貌。私、初めて見させて頂きました。この街は初めてではないでしょうか?」

「え? ええ、初めてですが……」


 なんか気障ったらしい男が話しかけてきた。

 見た感じ清潔感のある服装に、人の好さそうな温和な笑顔のイケオジだが……。


「それはそれは、申し遅れました。私、この街のとある商会の会長のアルベルトと申します。よろしければ私がこの街をご案内致しましょう」

「いえ、自分でなんとかしますので……」

「申し上げにくいのですが……この街はお嬢さんの様な可憐な少女には、いささか柄の悪い街でして……。いえ、柄が悪いと言っても私が付いていれば怖い事などありませんよ。この街ではそれなりに顔が効くものでして。なに、悪い様には致しません」


 うーん。

 冒険者ギルドの場所は聞きたいところだが、この人は怪し過ぎる……というか……。


「ちっ。先を越されたか。エグベルトめ」

「エグベルトが声掛けてやがる。あの子、明日には闇オークションに出品されてるな」

「いや、ルベリオス様が、ああいうタイプの奴隷を欲しがっていたから、しばらく調教してから献上するんだろう」


 こんな感じの周りのヒソヒソ会話を、私の高いPERが拾ってくるんだけど!

 悪い様に致す気満々じゃねぇか!

 後、アルベルトって偽名かよ!

 とある商会って違法奴隷商会って訳ね。


「おかまいなく。こう見えてダンジョンとかで修行してきたものでして。失礼します」


 そう言ってさっさと歩きだす。


「そうでしたか。何卒お気をつけて」


 アルベルト……いや、エグベルトはアッサリと私を見送る。

 ……意外だな。もっと喰らい付いて来ると思ってたけど。

 まあいいや。冒険者ギルドは何処だろうね。


 大通りを進むと左右に道が分かれてる。元々この街は山に囲まれた街なので平地が狭い。

 左の道がなんか市場に続いているぽいかな。冒険者ギルドは逆方向にありそうな気がするけど、市場で買い物ついでに宿と冒険者ギルドの場所を聞きますかね。

 ゆったりとした坂道の左右を食料品店や日用品店が並んでいる。ジ〇リに出てきそうな街並みだ。

 市場の店を見て回る。こういう場所だからか基本的に食料品が高いね。


 ダンジョン生活が長かったから、ゆっくり見て歩きたいところだけど……エグベルトがコッソリ後を付けて来てやがるな……。

 アイツは香水を付けてたから分かり易い。何を企んでるんだか。


 そして市場を見ながら路地のある近くまで歩いて来た時――路地から大男が飛び出てきて私の腕を掴む。


「おん?」

「おい、来い――うっ!?」


 路地に連れ込むつもりなのか、腕を引っ張られるが私に動く気が無い為、微動だにしない。

 私の体重だけなら軽く引っ張られそうなものだが、私に抵抗の意思があれば何かのステータスが働くのか、私を引っ張る事は出来ない。

 私はドラゴンの尻尾振り回しすら軽く受け止められるからね。多少力が有る程度ではビクともしないよ。


 それにしてもこの大男、エグベルトの手の者だな。

 最初に騙せなかったからって、すぐに力技で来るとはやってくれるじゃないか。

 そう思い、背後の私を尾行して来たエグベルトの方に意識を向けてみる。


「エグベルトの旦那! イエル団のマルコがっ!」

「しまった! 奴等に先を越されたか!」


 ……違った。

 この男、エグベルトとは別の違法奴隷商の人間なんかい!

 ……め、めんどくせぇ……。

 

「うぐぐ……ぐぬぅ」

「……いきなり私の腕を掴んで何用でしょうか?」

「――っちぃ」


 私を路地に連れ込むのが不可能だと悟ったのか、男は路地へと逃げて行った。

 周囲の人達も最初は何事かと遠目に見ていたが、今は私と目を合わせようとせずに、普段通りの行動に戻ってるようだ。


 ……はぁ。


 なんかゆっくり買い物って気分では無くなってしまった。

 もう、どっかパン屋にでも入って、パン買うついでに冒険者ギルドの場所を訪ねて冒険者ギルドに行くかぁ。

 ここは食料品や日用品ばかりで、武器も置いて無いみたいだしね。鍜治場や武器屋は上の鉱山近くの方に有るのかもしれない。


「こんにちは、美しきお嬢さん。先程は少々危ない状況だったのではありませんか?」


 うげぇ!

 エグベルトが来やがった。


「いえ、あの程度。魔物に比べれば大したことありませんでした。それでは」

「お待ちを。先程の様な事が起こる街です。やはりこのアルベルトめが御同行致しましょう。あなたの様な可憐な少女が――」

「――結構です」


 もうやだこの街。柄は悪いけど治安が悪い訳では無い……って聞いてたけど、めっちゃ治安悪いじゃねぇか。


「それではせめて安全な宿を案内させてください。私の顔で割引も効きますよ」


 しつこいな。

 さっき他のグループに先を越されそうになったせいか、今回は喰らい付いて来やがる。お前の紹介の宿なんて、一番危険じゃないか。


「……門から私の後を付けてましたよね?」

「いえいえ、私もこの市場に買い物に来てただけですよ」

「う~ん、怪しいですね~。せっかくの御厚意ですが遠慮させてもらいます。付いて来ないでくださいね」

「これはこれは。そのようなつもりでは……」


 ジト目で追及しても、流石にポーカーフェイスで躱される。

 とりあえず”私はあなたを怪しんでます”アピールをしておこう。

 少なくとも怪しまれてると自覚させれば、エグベルト自身が絡んでは来なくなるだろう。

 これで諦めてくれれば良いのだけどね。

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