第109話 鉱山都市スレナグ

 うーん。

 二ヶ月ぶりの外は銀世界。神秘的で良いね~。

 ずっと暗いダンジョンの中だったから、こうして太陽を浴びてキラキラ光る雪に心洗われる気分だ。悪魔でもこういう気分になるんだね。

 雪山なんて走りにくい事この上ないけどね……。


 まあ、動きにくい雪も悪い事ばかりではないかな?

 勇者シルヴィナスの一行も、この雪では移動がままならないだろう。まだ調査を続けるのかもしれないしね。むしろ私の話だけで調査を打ち切らないで欲しい。

 彼等を勇者聖女認定している聖教国ルジアーナは、東にあるこの国の王都から更に東の国になる。彼等が国に戻ってスタンピードの事を報告するまでには、まだ猶予があるだろう。

 私の事は内緒でとお願いはしているけど……流石に厳しいかな。

 もし私の事まで報告された場合、どの程度私に対して聖教国や勇者聖女協会が動くは分からないけど、とりあえずは聖教国ルジアーナから離れる為に、西へと向かおう。

 

 雪は麓の方までは積もっていないらしいので、まずは街道を目指す。


「それにしてもこの体……改めてチートだなぁ」


 今の私は誰も見ていないので魔装服のみ身に着けてる状態だ。そこまで露出が多い訳では無いけど、雪山を旅するには明らかに薄着である。

 だけど寒くない。厳密には寒いという事は分かるけど、寒さによる悪影響を受け付けない状態だろうか。

 おそらくVITかPERか……何かのステータスの高さによるものだろう。それとも悪魔の種族特性だったりするのだろうか?


 一日野営して次の日の昼頃、街道まで辿り着いた。ここからはフード付きローブを身に着け背負子を背負う。

 そして街道を進んで三日目、鉱山都市スレナグに到着した。


 心配していた強盗団の待ち伏せは無かった。

 まあ、あれから二ヶ月以上経ってると思うし、冬だから屋外で待ち伏せなんて長期間は出来ないだろうからね。


 スレナグは鉱山都市と言うだけあって、周りを山々に囲まれた坂の多い街である。

 豊富な鉱石資源によって鍛冶職人が集まっており、武器防具が充実しているらしい。

 その一方で危険な鉱山での採掘に、犯罪奴隷や借金奴隷が多数従事しており、柄の悪い街でもあるらしい。

 まあ、この世界の奴隷は隷属魔法や隷属の魔道具で行動を制限されてるので、柄が悪いからと言って、治安がそこまで悪いという訳でもないらしい。


 この街では武器の購入と、私にとって良い仕事が有れば冒険者ランクをEランクまで上げて身分証を獲得しておきたい。

 坂の多い街だ。荷運び系の仕事なんかは多いのではないかと思ってる。


 さっさと西へ向かうべきかとも思うけど、他の街でも冒険者証が使えるEランクに上がる為には、前提のFランクに上がる為に街中の仕事をある程度こなす必要があるのだ。

 そしてこの街中の仕事というのが、地元民でない風来坊の私だと配達等の仕事が貰えない為に仕事が限られ、中々に厄介なのだ。私みたいな風来坊は長く街に留まって、じっくり信頼を構築していくのが基本となる。

 だけど、このスレナグの街は街中の仕事が多いと聞く。案外そういうタイプの街は中々無さそうなので、可能ならこの街で一気にEランクまで上げておきたい。一度Eランクまで上げて鉄製のギルド証を貰えば、今後は別の街に行ってもギルド証が使えるのだ。

 というか、一般的に冒険者を名乗れるのはEランクからだ。実は私はまだ、一般的には冒険者ですらない。


 もしかしたら追われる身になるかもしれないのに、身分証を作ろうとするのもどうかとは思うが……追われる身になるとは限らないし、身分証が無いとやはり不便だ。

 権力者や勇者聖女協会が本気を出せば、身分証が有ろうが無かろうが結局どうにもならないだろうしね。私の容姿は目立つし。


 大きな石の壁に囲まれた街の入り口に近づくと、人や馬車の行列が見える。

 行列が出来るという事は、街に入るのに鑑定でもやってるのかと身構えてしまうが、聞き耳を立てていると、どうも通行税を徴収しているだけの様だ。

 全く、驚かせやがって……。今まで訪れた場所では行列なんて出来てなかったから、ちょっとビビっちゃったじゃないか。

 リーアムの街では農作物買取と言う、別の行列は有ったけどね。


 行列に並んで待つ事しばらく……。


「次!」


 私の番となり、通行税を用意して門番の前でフードを取る。


「「「「……」」」」


 ……何だ? この反応?

 門番や周囲の人を見ると、呆けた表情で私の顔を見ている。

 そういえば、ルタの村の門番もこんな反応だったな。

 門番だけでなく周りの人達も見てるし、さっさと入ってしまいたい。


「あの……通行税です」

「……あ、うむ」

「それでは入らせていただきますね」

「待て」

「はい?」

「この街には何しに来たんだい?」


 はい?

 いや、お前、他の人にはそんな事聞いてなかったじゃん。

 とはいえ、門番と面倒事を起こす気はない。


「この街で冒険者登録しに来ました。良い仕事が有ればなと思いまして」


 本当は武器を買うのがメインで仕事は有れば良いな程度なのだが、この街の武器は中々高級品らしいからね。こんな不特定多数の人が見聞きしてる状況で、それなりにお金を持ってる様な発言はしたくない。


「お、そうなんだ。酒場の給仕とかするんだったら、勤め先が決まったら教えてよ! 君が相手してくれるなら通うからさ!」

「は、はあ……」


 給仕の仕事は余程追い詰められない限りやらんぞ。酔っ払いやナンパ男のあしらい方とか分からんし。

 というか後ろが支えてるんだけど……。


「仕事は現状では何とも言えませんので。後ろの方がお待ちのようなので失礼しますね」

「――あっ、宿ならそこの門前宿がオススメだよ!」

「……どうもです」


 オススメと言うよりは……私の宿泊先を指定する為じゃないよね?

 そう考えるのは、流石に自意識過剰か?

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