第107話 久しぶりの外へ

 今後は私に対して詮索は無しと勇者パーティーと話はついたものの、ダンジョン入り口には聖教国ルジアーナの兵達がキャンプしているらしい。

 私一人でダンジョンから出ると、間違いなく兵士達から事情聴取等を受けるとの事で、彼等と共にダンジョンの出口へ向かう。勇者パーティはちゃんとマッピングしているお陰で、三日も有れば外に出れるらしい。

 詮索無しとは言っても、三日も一緒に居れば雑談位は発生する。

 意外にも武骨で寡黙な雰囲気だった鬼人のルドが、割と愛想よく話を聞いてくれる。

 詮索にならない様に気を付けてくれているようで、ルドからはあまり聞いて来ないが、こちらから相談した事にはよく答えてくれる。


「ほう、サキュバスはそこまでの達人だったと」

「ええ、パワーもスピードも私の方が上なのに、力の方向を空回りさせられる感じでした。最後はスタミナ勝ちしましたけど、凄まじい技量でしたよ」

「その上、魔法も強力か。ダンジョン入り口近辺に大きなクレーターが有ったが、あれはサキュバスの魔法だったのか。恐るべき悪魔だ」

「ハイオソルベキアイテデシタ」


 そのクレーターって、私の炎の杖の試し打ちの跡ですわ。

 後、悪魔じゃなくて妖魔だよ。悪魔って言ったら本人も激おこだったよ。


「私は身体能力に技量が伴わなくて……どこか棒術とか体術を教えてくれるところは無いですかね?」

「一般には無いな。騎士団や大規模冒険者クランであれば訓練を見る事も有ろうが、ルーノはそういった組織に属するのは嫌なのであろう?」

「そうなんですよね……」

「吾輩が思うにだな。別に技量を上げるだけが解決方法ではあるまい」

「え?」

「極端な話だが、ルーノであれば幅数メートルの太さの鉄棒でも高速で振り回せるのではないか? 点では無く面で攻撃されれば技量による回避は不可能だ」

「な、なるほどです!」

「それと吾輩達が過去に討伐したサイクロプスの上位種は、地面を抉り飛ばしてこちらの体勢を崩してきたぞ。巨大な魔物は単純なようで奴等なりに攻撃を当てる工夫をしている事も有る。ルーノの規格外のパワーなら、案外魔物の戦い方に参考になる物が有るかもしれんぞ」

「おお~。その発想は無かったです。地面蹴り飛ばしか……地上に出たら出来るか試してみます!」

「……吾輩から言っておいてなんだが……出来そうなのか……」


 いやー、目から鱗ですわ。

 技量を上げるというのも間違いでは無いが、技量なんて関係ない状況を作り出す工夫も有りだな。


 一方でロンゲエルフのユリウスとも素材交渉。


「うぬぬぬ……全部欲しいが手持ちの金が足らん」

「相当量有ると思うのですけど……全部ですか?」

「むしろ足らぬわ! 特にトリプルヒュドラの舌!」

「そ、それでは手持ちのお金で譲りますよ」

「Aランク素材を軽々しく安売りするな! 素材に対する冒涜だ!」

「そ、それではユリウスさんの作った薬等と、交換ではいかがでしょうか?」

「うむ。そうして貰えるとありがたい。魔道具とも交換してくれ」


 冒険者ランク未だ最低のGランクの私が、高ランク素材を売ろうとすると悪目立ちするだろう。

 買い取ってくれるのだから、目立つリスクも含めて、リスクはこの人達に集約してしまおう。リスク元が増えるよりは、この人達だけが黙っててくれれば良い状況の方がやり易い。

 それが正解かは分からないが。


 流石は勇者、聖女パーティー。マジックバッグは持っていたようで、次々と素材をバッグに入れていく。

 ユリウスだけでなく、他のメンバーもお金や魔道具を出してた。ユリウスの研究が進めば、パーティーの為にもなるという事かな?

 ドラゴンの鱗とか、普通に防具素材として優秀そうなのもあるかな?


「凄まじいな。本当に鱗が千枚以上あるとは……」

「一匹ならともかく、数匹同時に出て来るのよね? 一体どうやって……」

「ハハハ……やり方は詮索無しで……。ただダンジョンの通路にドラゴン数体居ると、狭くてギチギチになってたので案外戦い易かったですよ」

「なるほどな。しかしそれでもどれくらいの火力と継戦能力が必要なのか、想像がつかないな」


 勇者、聖女パーティーでも到底無理って事か。

 今までイマイチ私の強さがどれ位なのか分からなかったが……もう世界最強クラス?


「……あ、あの……。やっぱりこんな事出来る人は、他に居ないものですかね?」


 ちょっと聞くのが怖いけど……でも聞いてみる。


「スタンピード前の魔物溢れる大型ダンジョンを踏破出来る者? ハハハ。そんな事出来る奴なんて居る訳が……………………………………あの男ならあるいは……」

 

 と、笑い顔から真顔になるルド。


「ああ、彼か……。スタンピードを防ぐ為とならば、やり遂げかねんな」


 と、思案顔のシルヴィナス。


「アレか」


 と、遠い目のユリウス。


「彼っすか。もしかしたらとは思いますね」


 と、納得顔のキャロード。


「私の前でアイツの話はしないでっ!」

「「「「「す、すみません」」」」」


 と、激怒のミーシア。

 五人皆で謝る。何故私まで……。


 え? 気になるんだけど誰?

 でも、ミーシアの様子からこれ以上、その彼の事を聞けない。何が有ったん?

 しかしあのうじゃうじゃ魔物が居るダンジョンの踏破を、やり遂げかねない人物は居るらしい。

 他の転生者も居る事だし、やっぱ自分が世界最強だと自惚れちゃ駄目だな。気を付けよう。

 その彼が転生者の可能性も有るな。


 他の転生者は皆、私よりも初期スキルや適性、転生ポイントに優れているんだ。

 全員が全員、戦闘タイプになったとも思えないけど、少なくとも私より強い人が数十人は居ると考えるべきだよね。


 そして、ようやくダンジョンから出る。

 私にとって実に二ヶ月ぶりになる外の景色は、雪に覆われた銀世界だった。


 表のキャンプ地の兵士達には、ダンジョンで遭遇した冒険者で事情聴取済みと説明される。

 ユリウスから素材の対価として、お金と様々な薬品や魔道具を受け取り、私は早々にその場を離れる。


 彼等とは二度と会いたくはないな。

 悪い人達では無いが、もし次に合う時が有るとしたら、それはあまり良い状況とは思えないんだよね。


 所詮、私は悪魔。

 相手は勇者、聖女だしね。


 彼等がこれから国に戻って、ここでの事を報告するまでには猶予はある。

 当初の予定通り、スレナグで武器を調達、可能であれば冒険者ランクEまで上げて西へと旅だね。聖教国ルジアーナは東だ。


 キャンプ地から見えない距離まで来ると、兵士達の前では身に着けていたローブを脱いで異空間倉庫に収納し、身軽になったところでスレナグの街へ向けて雪道を走り出した。

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