第106話 ようやく決着?
「ルーノ、君には聖教国ルジアーナに来て、ここでの話を証言して貰いたい」
「お断りします。ここで起きた事を話す代わりに、私に関する事は詮索は無しでお願いしてたはずです」
マジで勘弁してくれ。
聖教国とかいう宗教国家なんて、絶対悪魔殺すマン国家ぽいじゃん。
それにそんな重要証言する人物とか、確実に鑑定されそうだ。
「待て、シルヴィナス。ルーノの言う通りだ。彼女の強さは吾輩が保証する。彼女は嘘を付いていない。そういう約束だったであろう」
「ルド、それに関しては心苦しく思うが、事は重大だ。今までスタンピード発生の原因は明確には分かっていなかった。それが明らかになったのかもしれないのだ。しかも人為的に起こす事も可能となれば、これはもう間違いなく国家規模の案件だ」
不味いなぁ。
勇者聖女クラスでも、スタンピード発生の原因は分かっていなかった。
更に先程のユリウスの考察通りに、その教皇がスタンピードを意図して起こすつもりだったとしたら、 その教皇にとっては、実はスタンピードを意図して発生させる事が出来ると言う事実は、是が非でも隠しておきたい話だろう……。
教皇だけでは無いかもしれない。
スタンピードを意図的に起こせる事は、一部の権力者達だけが知るトップシークレットである可能性も有り得る。
そんな機密を知ってしまった私を、権力者がどうしようとするかなんて……どう考えてもヤバいよ絶対。
あ~、何でこんな事に。
これ、この場から逃げたとしても、私が国家レベルで指名手配されそうな案件じゃね?
「確かに事は重大ね。こんなの物証や証言無しに国に報告は出来ないわ」
「物証なら先程、聖具にAランクの魔物の素材が大量に有るのを、見せて貰ったであろう」
「私達が見ただけで状況証拠にしかならないし、元冒険者の私達と違ってダンジョンの事に詳しくない上層部の方達に、簡単に納得して貰えるものでは無いわ」
「し、しかしだな……」
……無理かぁ。
やはりここで勇者聖女に見つかった時点で、穏便にと済ます事は不可能だったんだ。
勇者聖女と分かっていれば……咄嗟の遭遇でなければ……ローブに身を包んで、強行突破からの逃走も出来たんだけどなぁ。
もう顔も名前も憶えられてしまった。
ちょっとゴタゴタした場面も有ったが、この人達は悪人ではない。
だけど国に認定された勇者、聖女パーティーだ。所謂国に属している。トップである教皇に疑念は持っているみたいだけど、それでも基本的に国と言う組織の為に働くのだろう。
勇者シルヴィナス――ゲームに出て来る青臭い正義感の勇者ではなく、ざまぁ系小説によく出て来る様な下衆勇者でもないが……歴戦の勇士を思わせるこの人は、国の為にキッチリ動きそうだな。
聖女ミーシア――聖女と言うよりは女騎士を思わせるこの人も、国の為に働くタイプに見える。
ウサ耳のキャロード――見た目のインパクトの割に先程から空気である。いや、視線はずっと私を警戒している様にも見える。何気に私を一番警戒しているのは、この人かもしれない。それにこの人だけ下っ端口調だし、出しゃばらない様にしてるんだろうな。おそらく勇者、聖女の意向に従うタイプかな。
ロンゲエルフのユリウス――博識な人。組織の事より研究意欲の方が強そうではあるが……勇者、聖女との関係は深そうだ。
鬼人のルド――平手打ちで吹っ飛ばして以降は、妙に私に対して好意的で肯定的だ。今も私との約束を守るべきだと言ってくれている。だけどやはり勇者、聖女との関係は深そうだ。最終的には勇者、聖女の味方だろう。
……うーん。
……やりたくはない。やりたくは無いが……事は私が聖教国ルジアーナとかいう宗教国家に……いや、他の国の権力者や勇者聖女協会からも、目を付けられかねない案件。
……ここはダンジョンの中。今なら色々な事を、この人達だけしか知らない。
始末……しちゃいますかね?
……………………………………。
うん、やっぱ無理だ。
私は小心者だ。魔物もでもない、悪人でもない人に、危害を加えるなんて恐ろしい真似は出来ない。
せめて向こうから殺す気で攻撃されたから仕方なく反撃――なんていう免罪符が有れば、まだ出来るだろうけどさ。
免罪符無しで只の私の予測だけでやっちゃうと、私は今後ずーっと「もしかしたら始末しなくても問題なかったかも」と気にして生き続ける事になるだろう。ずーっと後悔し続けるのだろう。そんな覚悟も信念も無い。
今ここで彼等を始末しなかった事によって、不利益を被るかもしれない。
そうなったら残念ではある……残念ではあるけど後悔は無いかな?
いや、後悔はするかもしれないけど、悪人でもない人達を、自己都合で始末した事を後悔するよりかはマシだな。
なにより人としてね。
「だ、大事な事を忘れるな! 確かに重要な事だが、協力を要請する相手の意思を無視しているであろう!?」
「あの、ルドさん。ありがとうございます。もういいですよ」
そう言って私はルドに微笑みかける。私を弁護してくれてたルドには感謝である。
「ひゅふぃっ!?」
しかしルドは、恐怖で引きつった顔で、喉が鳴る様な声を出す。
……何故?
一応、なんちゃって美少女の微笑みなんだけど……。
「も、もういいとは……ど、どういう意味だ?」
ルドは怯えた様子で聞いて来る。
やっぱあの平手打ちか? 割とすぐ行動してたけど、打撲拷問は後遺症が残らない範囲で最大限の苦痛を与えるスキルだからね。
私に好意的なのではなく、私にビビってたのかよ。前世から、恐れられると言う経験が無かったから分からんかったわ。
「魔法陣に使われてた聖具を提供します。魔法陣の触媒となった物証が有れば、私が居なくても説明出来ませんかね?」
「何? 聖具を?」
「……良いの? あれはルーノが手に入れた物でしょう? 確定ではないけど、おそらく聖具で間違いないと思うわよ」
「かまいませんよ。私には使えませんし……それに聖具って売れるんですかね?」
「売っちゃ駄目よ! もしかしたらスタンピードを起こす為の触媒になるんだもの。闇市なんかに流れたらどうなるか」
「やっぱり、売るのもマズいですよね。聖具は物証としてお渡しするので、改めて私に関しては詮索、干渉無しでお願いします」
聖具なんて悪魔の私が持ってても使えないだろうし売るのも怖い。聖剣と違って持ってる事がバレちゃってるんだから、いっその事渡してしまおう。
それに教皇の命で来た勇者パーティーだ。聖具を手に入れたと言う手柄が有れば、面目は充分に立つんじゃないかな?
面目が立つなら、私を見逃してくれても良いじゃん。
そしてこれがラストチャンス。
これで駄目なら、彼等を振り切って逃走だな。
逃げた後の事は後で考えよう。
彼等はお互い視線を交わし合う。
ルドは気を揉んでるのか、なんかソワソワしてる。
……そして勇者シルヴィナスが、深く息を吐いて言う。
「………………ふむ。それならなんとか説明出来るか……」
「……でもルーノ。本当に良いの? 聖具を自分で献上すれば聖教国での褒賞は思いのままよ。聖具だけ渡して干渉するなという事は、それをふいにする事なのよ?」
「かまいませんよ。私が持っているより聖女様が持つべきです」
「……そう。聖教会が聖具を私に授けてくれるかは分からないけど……聖教を代表して感謝するわ」
「どういたしまして。私の事は内緒でお願いしますね」
聖具六点をミーシアに渡す。
とりあえずこの場は何とかなったのかな?
ある意味、このダンジョンでのラスボスだったよ、こいつ等。ツカレタ。
とはいえ、彼等が国に戻って報告したら……彼等はともかく、国の上層部は私をほっとかない可能性は高いとみるべきだろう。
聖教国ルジアーナは、ここから東の方にあるらしい。
今後はひたすら西へ行きますかぁ。
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