第105話 極秘情報は部外者の居ない所でお願いします

「これが聖具であり、聖具を魔法陣の触媒に使用していたと言う事は、その魔法陣は地脈に干渉する魔法陣だったのかもしれんな」

「ユリウス、地脈に干渉するとは?」

「地脈は世界を巡る膨大な魔力の流れ。あくまで有識者達の仮説だが、ダンジョンは地脈の澱んだ魔力が漏れ出て作られると言われている。ダンジョンは地脈と繋がっている。聖剣や聖具は地脈からの膨大な魔力でしか生成されないとも言われている。聖剣や聖具がダンジョンの宝箱からしか出ないのも、その為だ」


 聖杖レイチェルと付属の聖具に関して、喧々囂々と話し込む勇者パーティー。

 私はそろそろ失礼して良いですかね?


「聖具の様な地脈の影響の大きい――言い換えれば地脈と親和性の高く魔力強度の高いアイテムを触媒とすれば、地脈に干渉する魔法陣を構築する事も可能かもしれん。例えば地脈からの魔力でダンジョンを満たし、強制的にダンジョンランクを過剰に上げて魔物を増やし強化するとかな」

「それはつまり……スタンピードを人為的に起こせると言う事か!?」


 ダンジョンランクを過剰に上げる魔法陣か。

 ダンジョンランクが高い程、ボス部屋の宝箱の中身が良くなると言われてる。

 もしかしてボス部屋の宝箱から、マジックバッグよりも遥かに貴重な伝説レベルのレア物である聖剣が出たのは、私が超絶レアな確率を引き当てたのではなく、地脈から過剰に魔力が供給されている状態だった為に、レジェンド確定ガチャ状態みたいな感じだったからなのかもしれないな。


「……教皇様によるスタンピード発生の予言は、このダンジョンでその魔法陣が使われる事を予言していた、という事だったのね……」

「もしくは予言通りになる様に、その妖魔とやらを使役して、スタンピードを起こそうとしていたのかもしれんがな」

「――!? ユリウス! 教皇様が妖魔とかいう悪魔と繋がっているというの!?」

「可能性の話だよ。ここで誰かがスタンピードを起こそうとしていた。自然発生では無く、何者かの意志によってだ」

「……何が言いたいの?」

「意図して起こされたものであれば、それによって誰が一番利益を得るか考えたのだよ。ここでスタンピードが発生すれば被害が出るのはリーアム、プルト、ムオルム、スレナグか。いずれの街も統治がそれなりに上手くいっており、弱者救済を教義とする聖教の信徒が減りつつあり、聖教国の追加寄進要請を過剰だと断った所だ。スタンピードによって荒れ、弱者で溢れれば、かの街の人々は聖教に寄進してれば良かったと思い、大量に発生するであろう難民に炊き出しでもすれば信者は大いに増えよう。スタンピードを予言した教皇の名声と発言力はより高まる。炊き出しの資金なんぞは寄進要請を断ればこうなるのだと見せつけた直後だ。過剰に集めれるだろう」

「そ、そんな……はずは」

「そしてなにより、教皇の例の疑惑が真実であるならば……儀式魔法に必要な大量の生贄をどさくさに紛れて難民から確保しやすくなるのではないか? おそらく生贄の大量確保こそが本命。ついでに最近、我等が教皇に疑念を抱きつつある事に教皇は気が付いており、我等をここで始末するという目的も有ったのかもしれんな」

「……そ……そんな……まさか……」

「……」

「あくまでこの娘の言う事が真実という前提で、かつ可能性の話だよ」


 そう言って、ユリウスは話を締めくくった。


 うーん。

 聖教国の詳しい事情を知らない私には、かなり突拍子もない話の様に聞こえるんだけど……聖女ミーシアが否定しきれず、勇者シルヴィナスも険しい顔で考え込んでる辺り、心当たりがあると言う事なのかね?

 このロンゲエルフ、研究馬鹿なだけでなく政治的な見識も有るんだね。

 でも、仮にもその聖教国の認定勇者のパーティーメンバーが、国のトップを否定する様なこと言って良いのだろうか?

 そういうの気にしない人なだけか?


 ていうかさ……今の話、私が聞いちゃって良かったのだろうか?

 君達、私という部外者が、この場所に居る事を忘れてないかい?

 そんな宗教国家の暗部に関わる話とか、聞きたくなかったよ。

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