第104話 発狂ロンゲエルフ

「拾ぇええええええええええええええええええええ! 早くっ! 早く早くっ! 鱗がぁ! ドラゴンパウダーがぁ! 早く拾わんとダンジョンに吸収されるだろうがぁあああ! 娘ぇええ! ダンジョンの床に貴重な素材を撒くとは、なんたる暴挙! これだけのドラゴンパウダーがあれば、私の研究がどれだけ進むと思っているのだあ!」

「ご、ごごっごめんなさいっ!」

「とにかく拾えっ! 拾えっ! オイゴラァ! シルヴィナァァァス! 何ボサっと突っ立てやがる! 貴様も鱗を拾わんかぁああ!」

「いや、誰か一人くらい周囲を警戒してないと駄目だろ。それに、そんなすぐにダンジョンに吸収されないだろ」

「ゴチャゴチャ言ってないで鱗を拾えぇええ! 今、ここで鱗拾わずして、何の為の勇者かっ!?」


 因みに叫んでいるのは、ロンゲエルフのユリウスである。

 ボソッと名前を名乗って以降は、クールに腕を組んだまま何事にも興味無さそうに佇んでいたのだが、私が鱗を床にばら撒いた途端、発狂し冒頭に至る。


「間違いなくグレーターアースドラゴンの鱗だな。Aランクのドラゴンの鱗が……百枚以上は有ったか?」

「まだまだ有りますよ。おそらく千枚以上は有ると思います。他のAランクの魔物のドロップに比べて、ドラゴンの鱗は明らかに価値が有りそうでしたから、基本的には全部拾ってましたからね。これで、このダンジョンに大量にAランクドラゴンが大量に居た状況証拠にはなりませんか? まあ、他のダンジョンの物だろうと言われると、このダンジョンで拾った物と証明出来る訳では無いのですが……」

「ユリウス、グレーターアースドラゴンが出て、なおかつ鱗をドロップするダンジョンって知っているか?」

「知らないな。それより娘、他のAランクの魔物のドロップとやらを見せろ」

「えっと、黒いミノタウルスみたいなのが落としたのがこのリングですね。百個位有ります」

「……ふむ、メタルミノタウルスの鼻輪か」

「価値有りそうですかね?」

「金属としては貴重だからな。鍛冶師あたりなら喜ぶのではないか? 牛タンだったら調合に使えたのだがな。次だ」

「牛タン……舌ですか。舌と言えば……これは三つ首の巨大蛇の多分……舌ですかね?」

「トリプルヒュドラの舌だとぉ!? 素晴らしいっ! これが大量に手に入るとはっ!」

「……あ、あの……これは……気持ち悪かったし……価値が無いかなと思って……三つしか……」

「馬鹿もおおおぉおおん!」

「すっ、すみませんっ!」

「謝って済む問題では無いわっ! たったの三つ!? 三つでは足りぬわっ! 上位ヒュドラ種の再生原理と毒性の関連と錬金術のぉ――」

「――やめんか」

「――ふごぉ!」


 ユリウスに胸倉掴まれて問い詰められてた私を、鬼人のルドが殴り飛ばして助けてくれる。

 そもそもドロップ素材を譲る様な事は、一言も言ってないのだけど……。


「た、大量に有るので言えば、炎を纏った熊の毛皮も有りますね」

「これはヘルクリムゾンベアの毛皮だな。やはりAランクの魔物だ。娘、次だ」

「どうでしょう? 他でこんなに大量に素材集めれたりするものでしょうか?」

「……無理ね。基本的にAランクの魔物は、ダンジョンではボスでしか出ないわ。ボスは一度倒せば同じ人やパーティーでは再戦出来ないから、普通はAランク素材をこんなに集めるなんて不可能よ」

「え? そうなんですか?」

「Sランクの魔物がボスでAランクの魔物がボス以外で出るダンジョンは、現状四ケ所しか確認されていない。いずれも魔境近くのダンジョンだ。前人未到の魔境の向こうにはまだ存在するかもしれんがな。娘、次だ」

「ふむ……このダンジョンに本来居るはずの無い、大量のAランクの魔物が居たと判断出来るか……正直、まだ信じがたいが……」

「スタンピードが起きる直前のダンジョンでは、魔物の大量発生と普段よりもランクの高い魔物の出現が確認されている。そんな状況でボス部屋まで行ったという話は、聞いた事は無いがな。娘、次だ」

「ここのダンジョンボスは、魔物の配布状況からおそらくAランクの見込みだよな? ルーノ、ダンジョンボスは、やはりワンランク上がってSランクの魔物だったのか?」

「えっと、話には続きが有りまして、ボス部屋でですね……」


 そしてボス部屋に居たローブ骸骨の事、魔法陣の事を話す。

 因みに聖剣の事は言わない。聖剣はダンジョン報酬で出た物だ。スタンピードと無関係のはずだ。


「その妖魔と思われる魔物が、スタンピードを起こす為の魔法陣を構築していたと!?」

「そういう魔法陣かどうかは分かりませんが、魔法陣が消えて以降、ダンジョン内の魔物の数が減り、ランクも下がったので、そうだとしか考えられません」

「ふむ、娘、その魔法陣はどの様に構築されていたのだ?」

「すみません。魔法陣の知識はサッパリでして……あ、六芒星の先に水晶があって、その水晶を取ると色々な道具に変わりましたね」


 偽装マジックバッグから、水晶から変化したアイテムの聖杖レイチェル、ローブ、帽子、首輪、指輪、腕輪を出す。

 すると、聖女ミーシアが超絶反応した。


「これって聖具じゃないっ!? ユリウス!」

「ふむ……ローブや帽子の生地に指輪や首輪に嵌め込まれた宝石、杖の素材はまさか聖石ではあるまいか?」

「では聖具なの!?」

「……全て人の作れるものでは無いな。ダンジョン産の物だろう。どれもSランク級以上なのは間違いあるまい。力は失われている様だが、杖はおそらく聖杖レイチェルか聖杖ラフィーネの可能性が高いな。他のも断定は出来ぬが、聖具の可能性は高いと見る」


 Sランク級以上かぁ……貴重過ぎるのは手に入っても逆に困るんだけどなぁ……ハハハ。

 まあ、聖杖レイチェルは当然として、他のアイテムも多分聖具ってヤツだと思う。

 というかこの二人、聖杖レイチェルを持った時の、世界の声が聞こえていないのかな?

 先程、聖杖レイチェルを取り出す際に手に取った時、やっぱり私には【聖杖レイチェルは現在不活性中です。魔力を流してください】って世界の声が聞こえたんだけど、二人には聞こえてる様子が無いな……。

 聖剣も活性化するのに凄い魔力を吸ってたし、一定以上の魔力を持った者でないと反応しないとかかな?


 ……まあ、スタンピードとは関係なさそうだし、余計な事は言うまい。

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