第96話 殺伐気分

 ダンジョンボス部屋に居た、ローブ骸骨との会話が噛み合わない。


 とりあえず現状分かるのは……私の事をコウモリとか言ってるし、また私を吸血鬼と勘違いしてるんだろうな。

 それに魔石無しと言ってるし、このローブ骸骨はサキュバスと同じ、妖魔とかいう奴――魔物だな。


「ラミィと連絡が取れなくなったので、もしやと思いましたが。一体どれほどの戦力を集められたのやら」

「……? ラミィって入り口に居たサキュバスの事ですかね? 私はソロですよ?」

「ほっほっほっ。長く生きてきましたが、久しぶりに聞く面白い冗談ですな」

「……あ~、私が一人で此処まで来た事が信じられないと?」

「嘘でないと言うのなら、是非その方法を見せて頂きたいものですな」

「……方法と言われてもですね」

「ほっほっほっ。ええ、分かりますとも。隠し玉は明かせないのでしょうな」

「……まあ、そういう事で……。あなたは此処で何をされてるのですか?」

「ほっほっほ。お互い知りたい事が有るようですな。それでは情報交換とまいりませんか? 私の行動はあなた方、吸血鬼の方々にとっても悪い話では無いかもしれませんよ?」


 ……むーん。

 いや、隠し玉なんて無いし。

 なんかこのローブ骸骨、したたかなタイプぽいな。腹の探り合いでは勝てそうにない。


 つか別に情報要らんし。


 このローブ骸骨が此処で何をしているのか気にならない訳じゃないけど、情報を聞き出した所でそれがどこまで本当なのか私では見極められないだろうし、下手に情報貰ってもそれに踊らされて私の行動を誘導されそうだしな。

 吸血鬼にとって悪い話では無いと言うのもね……聞くまでも無く魔物のする事だ。事実であれ嘘であれ碌な事ではないのだろう。



 ――後になって思えばこの時の私は、一ヶ月以上魔物を狩り続ける日々を送ってきた為にやはり殺伐とした思考になっていたのだろう。結果論で言えば私のとった行動は間違っていなかったと思う。きっと正解だった。だけど魔物と言えど話をしようとしてる相手にいきなり襲い掛かってしまったという事実は、後に思い出してはモヤっとしてしまう事がある。とはいえ、それは後の話。ともかくこの時の私は愚直にこう考えた――。



 ――腹の探り合いなんて面倒だしサクッと殺そう。どうせ魔物だ。


「この魔法陣はなんなのですか?」


 ゆっくりローブ骸骨に近づきながら聞いてみる。


「ほっほっほっ。なんでしょうなぁ? まずは他の方々とも――」


 ――会話途中で全力ダッシュでローブ骸骨に接近。


 すると目の前に、壁を構築する様な魔力の流れ。


「――甘いわ!」


 目の前に結界の様な魔力の壁が出現。

 構わず全身から腐のオーラを展開して突っ込む。

 腐のオーラに触れた結界が消滅する。


「ぬっ!?」


 更にローブ骸骨から闇の槍の様な物が放たれるが、これも腐のオーラを纏った腕で振り払い、ローブ骸骨に接近。ローブ骸骨に目掛けて腐のオーラを展開した拳を振るう。

 ローブ骸骨は即座に反応し、私のパンチを回避する。

 私のスピードに反応出来るとは私への警戒も怠ってなかったのだろう。読まれてたか。

 あの達人サキュバスの上位的存在ぽいし、こいつも相当な達人だな。

 しかし、私は腐のオーラの半径を最大の一メートル程に広げている。


「ぬぅううう!? こ、これは!?」


 私の拳を避けても、一メートル範囲の腐のオーラまでは避けきれなかった様だ。

 ローブ骸骨の左足に腐のオーラが纏わり付いている。寧ろ左足だけで済んだのが凄いわ。


「――っぐっ! 血気盛んな……若い個体の様ですな」


 ローブ骸骨は私と距離を取り宙に浮く。

 飛べんのかよ。


 ――!


 ローブ骸骨から魔力の流れを感じて警戒するが、自分の左足に魔力を流している。回復魔法か?


「それ、回復魔法効かないですよ」

「ぬぅ? 何故解除されぬ!?」

「死ぬ前に此処で何をしてたか、この魔法陣は何なのか教えて貰えませんかね?」

「魔石無し如きが私を殺せると思わない事です」

「もう勝負は付いてるかと」

「ぐぬっ! なんという魔力強度――っぬぐうぅぅ。な、何者……なのだ?」

「もう終わってる魔物に名乗る程の者ではありませんよ」

「……ほっほっほ。確かにこの体は終わりでしょうな。この体は――ね!」


 ローブ骸骨が語尾を強めたその時、ローブ骸骨の体に魔力が集まる。

 更にローブ骸骨の周りに結界の壁が展開される。

 その結界は筒状になっており、円柱状の入れ物中にローブ骸骨が入っているかのような状態。唯一結界の無い空洞部分が私に向けられている。


 ――あ、これって砲状の物が私に向けられている?


 そう思った瞬間――ローブ骸骨の体に集まった魔力が更に収束されていき――。


 ――私は眩い光に包まれた。










 ――光が収まっていく。


「ビックリした! 自爆かよ!?」


 辺りを見渡すも、ローブ骸骨の姿は見当たらず。

 私の居た辺りに凄まじい熱量が立ち込めているが、その熱エネルギーは徐々にダンジョンに吸収されているみたいで、段々と温度が下がっていく。

 ダンジョンの壁や床は『不壊属性』の為に壊れていない。床の焦げ跡は凄いがこれも徐々に消えていく。


 ローブ骸骨が行ったのは、おそらく全方位型の自爆だったと思われる。

 それを砲台型に展開した結界で自爆の威力を私に向けて収束させたのだろう。中々怖い真似してくれるね。

 だけど結局、自爆で発生させた魔力エネルギーは私の腐のオーラに阻まれ消滅する事で私には何の痛痒も無し。

 だけど、全身に腐のオーラを展開していなかったら、流石にダメージが有ったかもしれないな。

 

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