第94話 スキルマダー?

 Aランク帯の階層になってからはじっくり探索しながら進む。

 元々の目的は、マジックバッグの乱の沈静化待ちだ。

 炎の杖もゾンビや触れたくない敵が出ない限り封印だ。


「うーん、しかし……」


 ダンジョンの通路はおよそ十メートル四方。

 普通に考えたら結構広い通路だと思うのだけど……。


「「「GAAAAA!」」」


 視線の先には通路でギチギチしてるドラゴンの群れ。めっちゃ狭そう。

 この階層まで来ても相変わらず魔物の数は多い。通路で身動きしずらくなる程に。

 レベル上げがしたい私にとって数が多いのは良いのだけど、これだと魔物達は十全に力が発揮出来てないよね?

 基本的に魔物はランクが上がると体が大きくなる傾向にある。あくまで傾向であり一概には言えないが。


「ていていてい」

「「「GYAAAS!」」」


 ドラゴン達を殴り倒す。ブレス一斉射撃に気を付ければ楽勝である。いや、一斉射撃を喰らっても平気だけど。

 これで良いのか? Aランク帯。

 私にとっては都合は良いのだけどね。


 たまにある小部屋だと広い空間なので、多少は楽しい戦いが出来る。


「せいっ」


 ミノタウロスの上位種ぽい黒い牛男を、ブレスを吐こうとしているドラゴンに投げつける。

 

「グオオオオッ!」


 背後から体長四メートルを超える、炎を纏った大熊が迫って来る。

 サイドステップで距離を取りつつ、近くに居た三つ頭の大蛇の尻尾を掴みフルスイング。


「「グボオッ」」


 この辺は正面から力押しで来るだけだから対処し易い。

 厄介なのは――


「――っとぉ!」


 音も無く斜め後ろ、ひっくり返った大蛇の影から飛び出して来る、雷を纏った虎。

 初撃は躱したものの、切り返しが早く、頭に噛み付いて来る。

 こういう奇襲してくるタイプは厄介だ。まあ、うっかり攻撃を喰らってもダメージは無いと思うけどね。

 アッパー気味のパンチで返り討ち。虎の体が吹き飛ぶ。

 奇襲してくるのは厄介だけど、結局最後はパワーとスピードによる攻撃。

 所詮は知恵なき魔物といったところか。


 知恵ある魔物と言えばあのサキュバスは本当に強かった。パワーやスピードもAランクより上だったと思うけど、それ以上に技量が凄かった。

 私もスキルレベルを上げてあんな感じに……とまでは言わないが、ある程度技量を持った戦い方をしたい思う。


「ただなぁ……スキルが獲得出来ないんだよね」


 正確な日付は分からないけど、おそらくこのダンジョンに籠っておよそ一ヶ月以上になると思われる。

 だけど未だにスキルを、何一つ習得出来ていないのだ。

 スキルの種類にもよるけど、棒術や体術なら才能の無い人――適性を持っていない人でも、およそ一ヶ月程、修練すればスキルレベル1は習得出来るらしい。

 私は無尽蔵のスタミナのお陰で、このダンジョンに籠ってから食事と睡眠時間以外ずっと戦い続けているから、修練量としては相当なものだと思う。正直、普通の冒険者の修練量とは比べ物にならない程に体術の修練をしてきた事になるはずなんだけどね。このダンジョンに来る前にも戦ってたり素振りはしてたし。


 なのに未だスキルの習得は無し。


 うーん、修練の仕方が不味いのかな?

 戦いは力押し、棍棒も拳も素人考えで振り回してるだけだ。

 でもこの世界には道場の様な施設は無いんだよね。騎士団とかなら技術を教えてるのかもしれないが、そういうのに入るアテは無いし。

 といっても世間がそういう環境でありながら、Cランク冒険者位になればメインで使ってる武器のスキルはまずスキルレベル2は有るそうだ。衛兵や巡回兵も新兵でもなければまずスキルレベル2有るそうだし。

 衛兵や駐屯兵に聞いた感じだと『戦ってればそのうち上がる』だったんだけどね。

 その話を聞いた時は、改めてこの世界は素晴らしいと思ってしまった。

 この世界なら、とにかく棍棒なり拳なり振る繰り返し振るってれば、熟練度的なものが積み重なり何時かスキルを習得出来る。例え亀の様な歩みでも進歩するのなら、私でも頑張れる……と思ったんだけど。


「……そんな甘い話は無いのか……」


 前世だと不器用な奴はどれだけ頑張っても上達しない、というのはある。

 私の事だ。

 正確には頓珍漢な事をしていて頑張り方を間違ってるから、頑張ってるつもりなだけで、実は何も頑張っていない状態。そりゃ成長しないわ。

 今の私がそういう状態なのだろうか?

 転生者はスキルに関しては、この世界の人とスキルの成長システムが違ったりするのかもしれない。

 もしくは悪魔は不老種だ。寿命が無い分、スキル成長に規制が掛かるシステムなのかもしれない。


 まあ、まだ一ヶ月だ。

 あのサキュバスの様な強者でもない限り、現状戦闘力には困っていないしね。そのサキュバスも結局、高ステータスゴリ押しで倒した訳だし。


 じっくり継続していきますか……継続するしかないね。


 元々前世でも『無意味』『宝の持ち腐れ』『資格があっても仕事が出来る訳じゃない』等と後ろ指差されながらも、教本を読み込み、過去問をやり込んで、色々資格だけは習得した私だ。

 私は『何時か何か見えて来るんじゃないか』と祈りながらそういう努力(?)を継続する事だけなら出来るんだよ。

 前世だと結果に繋がらなかったのが悲しいのだけどね……。

 今世も繋がらないのかなぁ……。

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