第92話 絶望の階層
ダンジョン攻略四日目。
「……こんな……所で……」
私は膝をつく。
「……もう……おしまいだ」
私は絶望する。
現在、地下五階から六階に降りる階段の踊り場。
「「「「「「ヴェエエエアア゛」」」」」」
階下から聞こえてくるのは悍ましき絶望の呻き声。階段を降りた先の六階。その先に見えるのは悍ましき絶望の蠢き。
ゾンビの群れである。
おそらくゾンビの上位種で、リーアム北ダンジョンで見たゾンビがより毒々しく禍々しい紫色の体をしており、同じく毒々しい紫色の息を吐きながらウロウロしている。多分、毒の息なのだろう。
そして数が多い。絶望的に多い。ゾンビで通路が埋め尽くされているのだ。
避ける隙間無し。
リーアム北のアンデッドダンジョンの時の様に、逃げ回りながら進む事は不可能だ。
ただでさえ、ゾンビから相当な距離を取りながら逃げ回らないと私の精神が持たないのに、マジで避けるスペースが無いわ。
無理だ……この先には進めない。
このダンジョン攻略は……ここで終わった。
――轟っ!――
およそ八メートル四方のダンジョンの通路が炎に飲まれる。
「この手が有ったよ」
サキュバスから奪った炎の杖でゾンビを焼き払いながら進む。熱いけど。
最初は炎の加減を間違えて、通路一杯に広がった炎で自爆してまた魔装服を燃やしてしまったけど、だいぶ慣れて調整出来るようになってきた。
どうもこのダンジョン内には人間は居ない様子だし、探索中の冒険者なんかを巻き込んでしまう事は無いはずだ。サキュバスも人間は誰も居ないって言ってたしね。サキュバスの言葉を真に受けるのもどうかとは思うけど、あんな達人が入り口に居たんだ。そうそう中に入れる人間が居るとは思えない。
何かの気配を感じたら、即時火を放つ。
燃やした魔物の中にはゾンビ以外の魔物も居るのかもしれないけど知らん。魔石もドロップ品も要らん。
念入りに火を放ちながら進む。
決してゾンビの姿を見る訳にはいかないのだ。
魔力だけで燃えてるからなのかどうか分からないけど、ダンジョン内の酸素が魔法の燃焼によって無くなる事もない様だ。
魔力って物理化学に喧嘩売ってるね。
それでも私は自分の顔の周りに生活魔法の『エアー』で空気を発生させて呼吸している。
なぜそんな事をしてるかと言えば、当然ゾンビの吐く毒の息を吸いたくないからだ。ぶっちゃけ私にEランク前後の魔物の毒が効くとは思えないが、そういう問題ではないのだ。ゾンビの吐いた息を吸い込むとか考えたくも無い。
なので、生活魔法の『エアー』を顔の周りに常時発動出来ないかな~とやってみたら出来たのだ。高いMNDによる魔法制御のお陰だね。
というかこの小技、水中でも呼吸が出来るという事である。便利な技を編み出してしまったぜ。
まあ、こんなの他の誰かがとっくに思い付いてやってるだろうけどね。
やってるのかな?
……うーん、案外そうでもないかもしれない。
生活魔法……というか魔法全般だけど、生活魔法の様な誰でも使える魔法であっても、一般人からすれば結構魔力消費が大きく気軽に使えるものでは無いらしいし、魔法を常時発動させる為には相当高いINTやMNDが必要なのではないだろうか?
それなりにレベルが高いであろうCランク冒険者パーティーの『誠実の盾』の面々ですら、生活魔法だけで飲み水を賄うのは無理だったらしいし。
常時、生活魔法の『エアー』で呼吸しながら活動出来る人って、そうそう居ないだろうね。
流石の鈍い私でも身体能力だけに限れば、自分はチート級だという自覚は出て来ている。
ダンジョンの壁を左手に、炎の杖を右手に持って魔物を焼き払いながら進む。
地下一階からこうすれば良かったな。
火属性の魔法は制圧力、火力共に抜群だ。
ただし経済的には微妙。火力調整次第だけど、基本獲物を焼き尽くす為にドロップも魔石も残らない。
この世界のダンジョンの魔物は倒すと魔石とドロップを残す。
魔石は残す確率が高いのだが、腐攻撃で完全に消滅させたり、炎で焼き尽くすと魔石を残さない。物理で倒せば余程全身を木っ端微塵に吹き飛ばしたりしない限り、確実に魔石は残す。
ドロップ品は物による。コボルトの牙を例にすると、コボルトの頭を吹き飛ばして倒すと、当然牙も粉々になるので牙がドロップする事は無い。腐攻撃や炎で焼き尽くしても同様。首をへし折るとかで倒した場合、それなりの確率で牙を残す……と言った感じだ。
どうもそう言ったドロップシステムらしく、火属性の魔法は敵を倒すには良くても素材集めにはよろしくないみたい。
それでも爆心地から離れた場所に魔石が落ちてた事も有ったから、多分火力調整次第で魔石なら残す事も可能だと思われる。
全く何も残さない腐属性よりかは、まだ火属性の方が経済的にはマシだね。
まあ、今は魔石やドロップ品なんてどうでも良い。
念入りに火を放ちながら進む。
決してゾンビの姿を見る訳にはいかないのだ。
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